医師日記

「美」にまつわる独り言です
水沼雅斉(みずぬま まさなり)

職人の美感6

2007年07月11日 15時48分04秒 | Weblog
 形成外科は、顔面をはじめとする、見える場所を手術しますので、局部麻酔、すなわち患者さんの意識がある中で行うことも多くなります。

 ボスは言いました、消毒の際には「そよ風がほほをなでるように」心地よく行えと。

 ピンセットや鉗子(かんし)で消毒用のガーゼや綿球を持って、ジャバジャバと乱暴に行うのではなく、軽く絞って手に持ち替えて、圧力を直接手で感じながら、患者さんの身になって丁寧に行えということです。

 また見てくれを扱う科ですから、術後のガーゼ交換でも、例えば耳をくるむガーゼは、「バラの花びら」のように美しくガーゼをあてがいなさい・・・

 丸くテープで固定する際には、テープの外側に切れ目を入れて外周が広がるように貼れば、円形に固定できると指導を受けました。

 さらに、絆創膏の貼り方まで・・・もし御茶ノ水の駅でその患者さんを見かけたら、ああこの方は順天堂の形成外科で手術を受けたのだなと一目で分かるくらい、美しくエレガントに貼れと云われました。

 もちろん絆創膏を手で切るなど、粗暴な行為はご法度で、テープの角を切って丸くせよ、くらいまで気を配れと。

 また順天堂の病院自体では「名医たる前に、良医たれ」という教育であり、それはそれで素晴らしいことであり、順天堂は患者満足度では日本でもトップクラスだと思います。

 今でこそ、各施設で患者さん中心主義とか、顧客満足度などと言うようになりましたが、順天堂大学病院では誰に言われることもなく、昔からずっとそのスタイル。

 威張る医者も(ほとんど)見かけませんし、不親切なナースも(あまり)いないはずです(たぶん)。

 患者さんには丁寧に説明しますし、もう病院自体がそういう雰囲気というか、それが伝統というものなのでしょうね。

 しかしその親方の先生は、名医でなければ、良医になれない・・・

 つまり、手術の名人でなければいい医者にもなれないだろう、性格だけ良くたって技術が伴わなければ患者さんは不幸になる、とおっしゃって大学側の幹部から不評を買いましたが、しかしそれも一理はあると思います。

 単に名医というと、名前だけが通っているという意味もあるでしょうから、本当は名人で良医、ってのがベストなのでしょう。

 局部麻酔の患者さんが、手術中に心地よくて眠ってしまうくらい、音も立てずに、予定通り平穏に、あわてず、騒がず行いなさい・・・

 あちこち引っ張ったりして不快にさせずに手術を行えて、やっと半人前だとも教わりました。

 先日の手術で患者さんがスヤスヤ休まれていたので、(自分の名誉のために:今回が初めてではないですが!)、初心を思い出して、懐かしさも込め書いてみました。