《社説・10.10》:解散・総選挙へ 「自民政治」を総括する時
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説・10.10》:解散・総選挙へ 「自民政治」を総括する時
衆院がきのう、解散された。
石破茂首相が1日に就任してから、わずか8日である。衆院選の投開票までは26日だ。いずれも戦後最短である。
石破首相は「新内閣が発足したので国民の意思を確認する」ことを解散の理由にしている。
ただ、「国民に判断材料を提供するのは政府、与党の責任だ」としていたのに、提供された「材料」は、代表質問の答弁と党首討論だけだ。議論が深まったとはいえない。石破首相は総裁選で述べていた政策を次々と後退させており、新内閣が目指す方向性は不明確のままである。
その一方、今回の衆院選で問われるものは数多く、かつ根深い。2012年に政権に復帰して以降の「自民党政治」そのものの検証と総括である。
■「表紙」だけなのか
最大の争点は、いうまでもなく「政治とカネ」だ。
自民党の派閥パーティー裏金事件は、政治資金を水面下で処理することを疑問に思わない党の体質を改めて浮き彫りにした。
何の目的で誰が開始し、何に使われたのか―。今も不明確なままだ。使途によっては税務処理上の問題が生じる可能性もある。政策決定にそうした「カネ」が影響した疑念も拭えない。
有権者の政治不信は膨れ上がったのに、岸田文雄前首相は軽視した。調査が不十分なまま関係した議員を処分。政治資金規正法の改定は、多くの抜け道を残したまま中途半端に終わった。企業・団体献金の禁止にも触れていない。
岸田政権が支持率低迷から抜け出せなかったのは「政治とカネ」に対する意識が、有権者から懸け離れていたからだ。垣間見えるのは、長年続く自民党1強政治のおごりだ。
岸田前首相が総裁選への出馬を断念し、石破氏が新首相に就任して迎える今回の衆院選。問われるのは改革路線のはずだ。
石破首相は「日本政治全体の危機」というのに、具体案を打ち出せていない。政治資金の「透明性を担保する」とするだけだ。
使途が不明確な政策活動費も当面は継続で、企業・団体献金も必要性を訴える。事件に関係した12人の非公認を決めた一方で、30人以上を公認した是非も問われる。
自民党は「表紙」を変えただけなのか、中身も変えていくことができるのか―。有権者は見極めなければならない。
■深まる閉塞感
石破首相が総裁選で打ち出した政策は多岐にわたる。
「原発ゼロ」に最大限の努力、選択的夫婦別姓に前向き、株式売却益などの金融所得への課税強化、日米地位協定の見直し、マイナ保険証の一本化に伴う保険証の廃止期限の見直し―。これらは従来の自民党政策の枠を超える。
それでも総裁選の党員・党友票で一定の支持を集めたのは、支持低下への危機感の裏返しだろう。
ただし、石破氏は衆参の代表質問で、これらについて従来の自民党政権とほぼ同じ路線の答弁に終始した。
党内基盤の弱い石破氏は「党内融和」を掲げて路線継承を求める岸田氏らの圧力にがんじがらめになっているのではないか、との指摘も根強い。
石破首相はきのうの記者会見で今回の解散を「日本創生解散」として改革路線を打ち出したが、答弁との差は大きい。
自民党が政権復帰して12年。日本をとりまくのは閉塞(へいそく)感だ。
アベノミクスは大企業の業績を改善させたものの、大規模金融緩和は限界に達し、拡大した格差を解消する見通しは立っていない。今後の経済成長につなげる方法も不明確だ。
地方分権や防災政策、少子高齢化対策なども、問題点や課題が指摘され続けるだけで、解決する方向に踏み出せていない。中国や北朝鮮との対立を解消する道筋も見えないままだ。
処方箋を十分に示さずに短期間で衆院を解散したのも、内実が伴わない「刷新感」で有権者の支持を取り付けたいという党の思惑が透ける。
■野党は連携せねば
立憲民主党の野田佳彦代表は「トップを変えただけでは政治は変わらない。政権交代こそ最大の政治改革」と訴えている。
ただし、自民党内で旧統一教会問題や派閥裏金事件などが相次いだのに、立民の支持率は伸び悩む。裏金事件という自民党の「失策」に乗じるだけでは支持は得られない。首相経験者の野田氏が過去の反省を生かし、政権を担当できる能力を示すことが必要だ。
政権交代には野党連携が欠かせないが、立民と日本維新の会、国民民主党とは改憲や安全保障、エネルギー政策などの重要政策で異なる主張が少なくない。障壁を乗り越えて急がなければ「政権交代」はかけ声だけに終わる。
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