【社説①・10.10】:衆院解散 政権選択に資する論戦を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・10.10】:衆院解散 政権選択に資する論戦を
新内閣発足からわずか8日のきのう、石破茂首相が衆院を解散した。27日の衆院選投開票まで18日間の短期決戦となる。
昨年12月以降、派閥裏金事件をはじめとする自民党の政治資金問題が表面化した。国民の怒りをよそに、裏金づくりの真相究明や再発防止策は極めて不十分だ。
衆院選で政治改革を問い、国民の信頼を取り戻さなくてはならない。その礎があってこそ、人口減少対策や経済再生といった重要政策を強力に推進できる。
有権者にとっては3年ぶりの政権選択の機会だ。各党は具体的な公約で選択肢を示し、活発な論戦を展開してほしい。
■党利党略は明らかだ
ばたばたと慌ただしい衆院解散劇である。首相就任から解散までの日数は戦後最短だ。石破氏は解散権を持つ首相になる前に衆院選の日程に言及し、前のめりで突き進んでいる。
就任前の首相は「有権者に判断材料を提供するのは政治の義務」と語っていた。
国会で全閣僚が出席する予算委員会の開催が念頭にあったはずだが、新内閣の方針を国民に語る機会を省いてしまった。「判断材料を提供する義務」を果たしたとはとても言えない。
変節と非難されてもなお、解散を急いだのはなぜか。
裏金事件などの不祥事で、岸田文雄前首相の内閣支持率は長く低迷していた。すげ替えた「選挙の顔」への期待値が高いうちは、衆院選を有利に運べる。それが本音だろう。まさに党利党略だ。
急いで国民の信を問う必要はない。石破内閣の方針について各党が国会で議論し、有権者に論点や争点を明らかにした上で衆院選に臨むのが常道である。
それを軽んじるのは、有権者をないがしろにするに等しい。
今回の衆院解散は憲法7条に基づく、内閣の助言と承認による天皇の国事行為だ。首相はこれまで、内閣不信任決議案可決などによる69条解散に限るべきだと主張していた。
7条解散については「すべきではない。今なら勝てるだろうというのは憲法の趣旨に反している」という見解だった。
近年、政権与党の都合で大義なき解散が繰り返されたことへの批判でもあるのだろう。
ところが石破氏も「新内閣の発足は解散の大義になる」「憲法の趣旨に沿う」と述べ、7条解散を正当化した。またも言行不一致があらわになった。
■不十分な野党の共闘
解散直前に首相と野党4党首の党首討論があった。通常の45分間より延びたとはいえ、与党が認めた80分では短過ぎ、広範な政策論議にならなかった。
与党や内閣が国会論議を軽視するのは、第2次安倍晋三政権から続く悪い傾向だ。安全保障の重大な政策転換も閣議決定で済ませ、熟議を避けた。このような政治は改めなくてはならない。
自民は裏金に関与した議員を原則公認する方針だった。国民の強い反発を察知すると、比例代表との重複立候補を認めず、一部は非公認とした。
力点を置くべきは関係議員の処遇ではない。政治資金問題の抜本的な改革策を打ち出すことだ。首相は党首討論で明確な考えを語るべきだった。
牧原秀樹法相と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係も新たに明らかになった。牧原氏と秘書が関連行事に37回出席していたという。首相は「関係は断っている」として問題視しない。本来なら国会で追及すべきものだ。
衆院選が政権選択選挙である以上は、野党が連携して与党批判の受け皿を形成するのが望ましい。今回は協力がまとまらないまま選挙戦に入ることになりそうだ。
立憲民主党を中心とする野党が与党の過半数割れを目指すなら、政治改革だけでなく、実現可能な政権構想を示して有権者を引きつけなくてはならない。
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