【大谷昭宏のフラッシュアップ・07.22】:軽症者有料化で思い出した出来事 救急隊の見事なプロの仕事ぶり
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【大谷昭宏のフラッシュアップ・07.22】:軽症者有料化で思い出した出来事 救急隊の見事なプロの仕事ぶり
東海テレビ(名古屋)の番組で、三重県松阪市が救急搬送したなかで入院しなかった軽症者に診療費を払ってもらう有料化を導入したというニュースを伝えながら、7月初めの出来事を思い出した。
朝7時過ぎ。リビングにいた妻が「私は子どもと保育園に行くので」「わかった。ぼくも急いでいるけど、あとは任せて」という緊迫した外からの声を聞いたという。
あわててパジャマを着替えていると、ものの4、5分でピーポーという音と赤色灯。救急車が目と鼻の先に止まった。家から飛び出すと、道にツエが飛び、深さ30センチほどの側溝に90歳を超えていそうなお年寄りが腰からすっぽりはまって首もとに血がにじんでいた。
次々飛び出してきた向こう三軒両隣。4、5人で助け出そうとすると、「ここは救急隊に任せて。それよりこの方をご存じありませんか」「ハイ、あの四つ角の向こうのお宅。いま主人が知らせに行きました」。
3人の救急隊員は声をかけながら、ゆっくり時間をかけてお年寄りを溝から抱え出し、「大丈夫、歩いて帰ります」と言う本人の言葉をやんわり押さえて「血が出ているし、脳の検査もしましょう」とストレッチャーに乗せ、私たちには帽子を取って「応急手当ての後、病院に搬送します。ご協力に感謝します。どなたか残って、ご家族が見えたら救急車をノックしてもらえると助かります」。かくしてご主人が連絡に走った奥さまを残して、私たちも解散となった。
夜遅く帰宅すると妻が、夕刻、お年寄りのご家族がお礼にまわって来られたという。結局、保育園に向かった女性と、119番してくれた男性はわからずじまいだったが、お年寄りの首もとは10針も縫う、意外と深い傷。「みなさんと救急隊のおかげです」と何度も頭を下げていたという。
いささかご近所自慢になるが、みんなでできることは協力し、あとはプロの救急隊におまかせする。当たり前だけど、梅雨空に少し晴れ間を見た思いだった。
◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)
ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。
■大谷昭宏のフラッシュアップ
元読売新聞記者で、87年に退社後、ジャーナリストとして活動する大谷昭宏氏は、鋭くも柔らかみ、温かみのある切り口、目線で取材を重ねている。日刊スポーツ紙面には、00年10月6日から「NIKKAN熱血サイト」メンバーとして初登場。02年11月6日~03年9月24日まで「大谷昭宏ニッポン社会学」としてコラムを執筆。現在、連載中の本コラムは03年10月7日にスタート。悲惨な事件から、体制への憤りも率直につづり、読者の心をとらえ続けている。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・連載・「大谷昭宏のフラッシュアップ」】 2024年07月22日 08:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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