【社説②】:タリバンと女性 教育再開粘り強く促せ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:タリバンと女性 教育再開粘り強く促せ
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が停止中の女子中等教育の再開方針を撤回した。組織内の保守派が反対したためだが、看過できない。国際社会はタリバンへの関与を強め、教育再開を粘り強く促すべきだ。
同国の学校は三月下旬に新年度を迎えたが、女子の中等教育(日本の中学、高校に相当)再開について、タリバンの最高指導者アクンザダ師は再開断念を決めた。
二〇二一年八月に二十年ぶりにタリバンが政権を奪還した当初、女子中等教育の停止は一時的な措置と説明されていた。しかし、同国では昨年十二月に女子の大学教育も停止され、今月に入り、国連機関で働く女性現地職員らに出勤停止が命じられるなど、女性に対する人権侵害が強まっている。
こうした措置にタリバンと同じイスラム教スンニ派のサウジアラビアやトルコをはじめ、イスラム協力機構(OIC)などからも非難と懸念が表明されている。
背景に何があるのか。タリバン内部は一枚岩ではない。最大の軍事力を持つ派閥の長であるハッカニ内相や初代最高指導者オマル師の息子ヤクーブ国防相、ムッタキ外相ら有力閣僚は女子教育の再開を求め、この間、最高指導者と周辺を暗に批判してきた。
暫定政権の国際的な孤立の一因が女子教育の制限にあり、かつ都市部の開明的な住民らの強い不満を理解しているためだ。
しかし、家父長制的な男性優位社会が続く地方の住民を代表し、宗教的権威も掌握する他の閣僚やアクンザダ師は教育再開に後ろ向きだ。彼らは影響力を強め、政権内で不協和音が広がっている。
女性への人権侵害をこれ以上、放置すべきではない。国際的な孤立は住民の経済的困窮や飢えなど人道危機にも直結する。
ただ、従来型の圧力強化は効果的ではない。アフガン国内に対抗勢力はなく、タリバンは長年の圧力に耐えて政権を奪還した。いま必要なことはタリバン内部の開明派の実績となる関与の継続だ。
イスラム諸国やスンニ派の宗教的権威にも役割がある。タリバンの最高指導者や周辺に対し、独自の伝統的な宗教解釈を柔軟化させるよう働き掛けるべきだ。
同国内には過激派も潜む。テロ抑止のためにも国際社会はタリバンを包摂し、関与の強化を通じた粘り強い説得に努めるべきだ。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年04月10日 07:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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