【旧統一教会】:文化庁が宗教法人と交わした「約束」の正体、名称変更文書「黒塗り」の根本原因とは
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【旧統一教会】:文化庁が宗教法人と交わした「約束」の正体、名称変更文書「黒塗り」の根本原因とは
「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会、以下、統一教会)は2015年に現在の名前に変更された。1997年に一度退けられていた名称変更の申請が、2015年に認証された背景に政治家の関与があったことが疑われている。
しかし、名称変更の経緯を明らかにするために、文化庁に対して開示が求められた文書の一部は「黒塗り」の状態だった。その背景には、過去に文化庁が宗教法人と交わしたある「約束」があることがわかった。 特集「宗教を問う」の第8回は、統一教会の名称変更や宗教法人の情報公開をめぐる歴史的背景について、文化庁で宗教法人を担当する宗務課長だった前川喜平・元文部科学事務次官に聞いた。浮かび上がるのは、宗教法人に対する政府の強い配慮だ。
■「認証してもらえる」という見通しがあった
――1997年に宗務課長だった前川さんは、統一教会の名称変更を受け入れませんでした。名称変更の申請を受理しないのは「違法」ではないかという指摘が一部でありますが。
申請を出されたら必ず受理しなければならないのは当然のことだ。1997年当時、私は申請前の事前相談の段階で「認証はできないので、申請はしないでください」とお願いし、先方は納得のうえで引き下がった。そこに違法性はない。
宗教団体の名称も、宗教団体の実態(宗教団体性)を表す重要な要素だ。「世界基督教統一神霊協会」という名前で長年活動し、信者を集め、社会的な存在としても認識されてきた。実態と合わない名称変更は認められない。
それでも申請されれば、受理するしかない。受理したものを認証するかしないかは次の段階の話だ。申請を受理した後、認証しないケースに限って、主な宗教法人の代表者や宗教学者でつくる「宗教法人審議会」(以下、審議会)に諮問する。ところが、認証するときは審議会にかけなくていい。
不認証となれば、同じものをもう一度出したところで認証はされない。2015年の名称変更の際、統一教会が申請したのは「今回は認証してもらえる」という見通しを持っていたからだ。
――1997年、仮に審議会にかけられていたら不認証になっていたのでしょうか。
認証しないという方向で審議会に諮問したら、不認証を了解されていた可能性はかなり高かったと思う。審議会のメンバーは仏教やキリスト教、新宗教の代表者らで構成されており、統一教会に好意を持つ人はいない。
統一教会の立場からいうと、1997年の事前相談の段階で申請を出さなかったのは賢明な判断だった。申請を出して不承認になったら、元も子もないからだ。2015年の名称変更の際、認証してもらえるという確証をどこから得たのかが問題だ。認証するという保証が事前になければ、申請はできなかったはずだ。
――2015年の名称変更のとき、前川さんは文科相、事務次官に次ぐ審議官という立場でした。
当時の宗務課長が「統一教会の名称変更の申請がきているから認証する」と説明に来た。私が認証すべきでないと言ったら、宗務課長が非常に困った顔をしていたのを覚えている。しかし、結果的に認証はすることになったので、私の上の人が認証する意思を持っていたことになる。つまり事務次官か、大臣のどちらかだ。
認証時の事務次官は、認証直前に交代したばかりで名称変更については相談をあずかっていない可能性がある。事務次官は旧文部省出身者と旧科学技術庁出身者が交互に歴任し、科学技術系の事務次官のときは、その下にいる旧文部省系の審議官が事実上の事務次官として意思決定に関わる。名称変更時の事務次官は科学技術省系。つまり、名称変更の認証のとき、私の上には事実上大臣(下村博文氏)しかいなかった。
■宗教法人法は「性善説」に基づく
――そもそも、なぜ宗教法人法では、認証しないときは審議会にかけるのに、認証するときには審議会にかけないのでしょうか。
宗教法人法は信教の自由を守るためのもので、「宗教法人は悪いことをしない」という性善説に基づいているからだ。だた、オウム真理教の事件以降、宗教法人の中には問題がある団体も紛れている可能性があるという慎重な姿勢になった。
そうした中で1996年に宗教法人法が改正された。改正前は新たに宗教法人を認証しても、その後は糸の切れたタコのように動向がわからない状態だった。神社本庁や仏教の○○宗のような「包括宗教法人」は改正前から文部大臣の所轄だったが、創価学会や統一教会のような「単立宗教法人」は都道府県の所轄だった。
それでは全国的に活動している宗教法人を把握できない。改正によって単立宗教法人の所轄は、都道府県から文部大臣に変わった。
もう一つの改正点は、宗教法人から毎年度、役員名簿や財産目録、収支報告書といった最低限の書類を提出してもらう義務を課したことだ。信教の自由に触れる危険性があるため、活動報告のような書類の提出義務はなく、あくまで外形的な書類に限る。それらを通して、宗教法人が健全に活動していることを確認するという趣旨だ。
宗教法人法改正は、当時の文部大臣であった与謝野馨さんのトップダウンによる意思決定だった。大臣官房に法律改正チームをつくり、与謝野さんの秘書官だった私もチームに入って改正作業に携わった。
■「提出された書類は、一切外に出しません」
――改正には宗教団体がかなり反発したと聞きます。 仏教もキリスト教も新宗教も、ほとんどの宗教法人が反対でした。創価学会も強く反発した。
文部省はオウム真理教の反省から宗教法人を野放しにするわけにはいかず、最低限の実態確認が必要だった。特定の宗教団体を狙い撃ちにしたものではなかったが、当時は自民党と新進党(現在の公明党)が敵対関係にあったから、自民党の一部の議員が創価学会攻撃のために宗教法人法改正を利用しようとした。それで文部省と創価学会との関係が悪くなった。
宗教法人法改正は前出の審議会にも意見うかがいをしたが、宗教法人からは「信教の自由に触れるのではないか」と批判の声が上がり、審議会は荒れた。当時の文化庁次長が最後には頭を下げて「なんとかこれを了解いただきたい。伏してお願いします」と言っていたのを覚えている。
その際、宗教関係者たちに「提出された書類は、一切外に出しません」と約束した。
――宗教法人法改正で提出が義務化された収支報告書などについて、東洋経済は過去に情報公開請求をして提出書類の開示を求めています。しかし、文化庁は書類の存否も明らかにせず、不開示としています。原因は改正時の「約束」でしょうか。
その通り。それに関しては私に責任がある。1999年に成立した情報公開法が国会に出されたとき、宗教団体の関係者が怒り出した。提出書類は開示しないという約束があったから法改正をのんだのに、提出書類が開示請求の対象になるとはどういうことだと。
宗教法人側は「信教の自由」という言葉を不開示の理由として、情報公開法に入れるように求めてきた。
当時宗務課長だった私は、情報公開法案を準備していた総務庁(当時)と交渉したが、信教の自由だけを特別に不開示理由に入れることはできないと返された。そこで最終的には「権利」という言葉を情報公開法の条文に入れてもらうことにした。
――たしかに情報公開法の中にある不開示の理由の一つに、法人または個人の「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」と示されていますね。
当初、不開示理由の条文は「利益」だけだったが、「権利」という言葉が入った。その後、情報公開法を審議する内閣委員会で私は、不開示理由の権利には「信教の自由が入る」と答弁し、宗教法人の提出書類は不開示情報に当たると説明した。
つまり、宗務課長として「宗教法人法に基づいて提出された書類は不開示情報です」と釘を刺したわけだから、私に責任があるのです。
だからマスコミの皆さんが情報公開請求をしても、開示されることはない。
■安易な開示は他の宗教団体の反発を招く
――共産党の宮本徹議員が、統一教会が文化庁に提出した名称変更の申請書の開示を求めたところ、名称変更の理由に当たる部分が黒塗りの状態で開示されました。
申請書も文化庁への提出書類の一種。書類を黒塗りにした理由は、統一教会の政治的背景が明らかになることを避けたわけではないだろう。
宗教法人が文化庁に提出した書類が安易に開示されると、他の宗教団体の反対を招く可能性がある。それを恐れたからだと思う。
――開示請求しても何も出てこない理由がわかりました。
自民党が公明党と連立を組んでいる間は開示されないと思う。
1999年の自民党と公明党の連立工作をしたのも与謝野さんだった。すでに都議会では自民党と公明党が組んでいた。都議会の公明党議員だった藤井富雄さんと自民党東京都連の与謝野さんが中心になって、国政レベルでの自公連立を実現させた。つまりこの時期、自公連立に向けて文部省と創価学会の関係が非常に大事だった。
宗務課長になったとき、与謝野さんに挨拶に行ったら「とにかく創価学会とは仲よくしてくれ」と言われた。先ほど言ったように、宗教法人法改正をめぐって文部省と創価学会は抜き差しならない対立関係になっていた。文部省としては創価学会に敵対心はない。その誤解を解くために、宗教法人法改正で提出が義務付けられた書類は一切出さないと約束した。
情報公開法以外でも宗教関係者に根回しする一環として、信濃町の創価学会本部に何度か足を運んで説明した。創価学会の秋谷栄之助前会長とも1回か2回、赤坂の料亭で与謝野さんと一緒に食事をしたことがある。
■提出された書類は見たことがない
――自公連立を見越していい関係を築いていたということですね。
そうだ。与謝野さんからの秘密指令を受けて、とにかく仲よくした。「雨が降ろうと槍が降ろうと、自民党の大物政治家が文句を言ってきても、提出された書類は絶対に出しません」と。そうやって創価学会・公明党から信用してもらった。
――オウム事件を受けた宗教法人法改正は、文化庁が宗教法人の最低限の実態把握をするためのものでした。国民にはそう言いながら、宗教団体に対しては配慮をしていたと。
二枚舌だと言われればそうかもしれない。
――提出された書類をチェックする人はいるのでしょうか。
担当者はいる。収支計算書や財産目録の体をなしているかという最低限のチェックはするんだけど、それ以上のことはしない。宗務課長の私も一度も見たことがない。金庫に入れてしまってある。
■井艸 恵美 :東洋経済 記者/野中 大樹 :東洋経済 記者
元稿:週刊東洋経済新報社 ONLINE 主要ニュース 政治 【政局・時の政権・自民党と旧統一教会との癒着、担当:井艸 恵美 :東洋経済 記者/野中 大樹 :東洋経済 記者】 2022年09月13日 05:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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