【HUNTER・08.20】:最高裁、開示請求に延長9回|特別保存めぐる文書「精査中」で1年半
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・08.20】:最高裁、開示請求に延長9回|特別保存めぐる文書「精査中」で1年半
一昨年の秋に報道各社が大きく伝えた少年事件の「特別保存記録」をめぐる問題で、同時期に報道発表されたデータなどを含む公文書の開示請求(司法行政文書開示申出)に対し、最高裁判所が請求から1年半あまりにわたって開示決定を先送りし続けている。昨年初頭からの開示延長決定は計9回に上り、この8月にさらなる延長が決まった場合、10回の大台に乗ることになるが、最高裁の担当課は「文書を精査中」とするのみだ。
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筆者が昨年1月18日付で最高裁に開示を求めたのは、『全国の家庭裁判所で特別保存されている記録の件数や概要がわかる司法行政文書すべて』。おりしもこの前年・2022年10月には少年事件の特別保存記録をめぐる話題が耳目を集め、1997年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件の記録が破棄されていたことなどが問題となっていた。当時の報道では、全国の家裁に保存されている少年事件の特別保存記録は計15件、また調査記録は計20件に留まるとの最高裁発表が伝えられている。
筆者の請求には、改めてこれらの報道の裏づけをとる目的があった。裁判所の文書開示期限は、原則として請求から30日以内。通常であれば請求翌月の昨年2月には開示の可否が決まる筈だったが、同月20日付で最高裁が出した決定は、以下の如し。
《1月18日付け(同月20日受付、第040504号)で申出がありました下記の司法行政文書の開示については、文書の探索及び精査に時間を要しているため、30日以内に開示又は不開示の通知をすることができません。なお、通知の予定時期につきましては、本日から2か月程度かかる見込みです》
一気に2カ月間の延長。決定文を検める限り、最高裁は筆者が求める文書の「探索」と「精査」に「時間を要している」という。
とはいえ、少年事件の特別保存記録の件数などは、先述の通り前年秋の時点で最高裁自身が独自に調査し、報道各社に資料としてリリースした筈だ。実際、当時の司法記者クラブ加盟社に提供された一覧を、のちに筆者も入手できている(*下の画像)。
ただ筆者は、特別保存記録の「件数」に加えて各件の「概要」がわかる文書を請求していた。最高裁が「探索」「精査」に手間取っている理由はそのあたりにあるのかもしれず、そうであれば2カ月程度の延長はやむを得まい。ところが――、
その2カ月を経て手元に届いたのは、前回の延長決定とほぼ変わらない内容のさらなる延長決定だった。決定の目途は、やはり「本日から2か月程度」という。よほど膨大な枚数なのか、あるいは各裁判所で保存の状況が異なり整理に時間がかかるのか。首を傾げつつ待機を続け、さらに2カ月が過ぎた6月下旬、3度目の延長決定を受け取った。やはり文言はほぼ同じで、開示の目途は「本日から2か月程度」という。
以降、最高裁は2カ月ごとに、即ち8月21日付(4度目)、10月23日付(5度目)、12月25日付(6度目)、年が明けて本年2月26日付(7度目)、4月26日付(8度目)、及び6月26日付(9度目)で延長通知を出し続け、その都度「本日から2か月程度」という期限を示し続けた。直近の延長決定の時点で、開示請求から1年半。仮に次回の決定(今月下旬見込み)がまたも延長決定となった場合、2カ月ごとの先送りが実に10回を数えることになる。なお延長決定書には当初、事務総長の氏名が明記されていたが、本年4月の8度目の決定からは単に「最高裁判所事務総長」と、肩書きのみの表記となった。
これまでの対応に小さからぬ疑問を覚えた筆者は8月14日、最高裁の担当課に電話連絡し、より具体的な開示期限を問い合わせた。翌15日の事務総局秘書課文書第二係からの電話によると、やはりこれまで同様、明確な期限は定まっていないという。主なやり取りを、以下に再現する。
――なんか「2カ月先の見込み」というのがずーっと続いてるので、もうちょっと先の見える何かがあれば。
「現在、精査中ということで、情報公開の法律でどこまで出せるかを検討しているんですが、ご期待に応えられるようには進めております」――請求は去年の1月だったと思いますが、一昨年の秋に「件数」については報道されたんで、割とすぐ出るかと思ってたんですけど、そうじゃないんですね。「件数」プラス「概要」となっているので時間がかかっている、という理解でいいですか。
「まあ、そのような方向で、ご理解としては、たぶん、はい」――ちなみに、審査請求(不服申し立て)ってありますけど、これ「決定が長引いていることに対しての審査請求」というのはできないんですね。
「決定が出て、内容についてですね、苦情の申し出というのはできます」――時間がかかるということに対する苦情はできないと。
「そういったご意見があることは承っておきますが、苦情申し出ということには、ならないかなと」
筆者はこれまで幾度となく裁判所への開示請求を試みてきたが、9回に及ぶ延長決定を受けたケースはほかにない。無論のこと、行政や議会、公営企業などへの開示請求でも、このような対応はおよそ考えられない。これが、21世紀を迎えて四半世紀ほどが過ぎる先進国の司法府の姿だ。(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |
元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【裁判・最高裁・少年事件・特別保存記録】 2024年08月20日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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