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チラシの裏

跡形なく沈む

2013年06月26日 | ミステリ
地方都市によそ者が訪れて過去の秘密を暴く、というパターンで、
探偵役が誰だか分からないうちに物語がすすんでいきます。
シリーズ探偵がいたほうが話は作りやすいかもしれませんが、
この作品も含めてあえてシリーズ探偵を設定しなかったのは、
ウソくささがまといつく名探偵が介入するような浮世離れした話ではなく、
リアルで地味な世界の事件だからでしょうね。

物語の最初に登場する、
人生落ちこぼれで別居中の人妻と同棲しているダメ男が探偵役かと思いきや、
そのかつての婚約者で怒りっぽくはあるけれど理知的な女性が探偵かと思えば、
じつは才能はあるけれど人づきあいの悪い刑事が最終的にいちおうの探偵役(謎解き役)になります。
視点がおもに上の3人におかれ、また別の視点からも書かれているので、
謎が交錯しますがじつは単純な話で、
その視点の多さが今回のミスディレクションの一つでしょう。

題の「跡形なく沈む」は原題の「Sunk Without Trace」をそのまま訳したものですが、
物語の最後にその意味が分かる仕掛けになっています。
本格犯人あて小説というには謎が薄味ですが、
あえてクイーンのような「読者への挑戦状」を入れるならば、
346ページのヒロインが「何か警告のようなものを感じる」ところです。

この作品は1978年の出版作品ですが、1978年といえばこの当時著者は58歳(亡くなる2年前)。
この頃は、70年代初めのラブ&ピースなフラワーパワーはとっくに消え去り、
なんだか無気力なミーイズムが席捲していたような記憶があります。
学生運動はすでに過去の出来事でしたし(その頃筆者は大学2年生)。

最初に殺される人妻は「汚いヒッピー、淫乱」などと書かれ、
回想場面でもやたらに汚いと書かれて、なんだかひどい扱いです。
この人妻と同棲しているダメ男も含めて、
大学生時代に学生運動をやっていた人物は(といっても興味本位で加わっていただけ)は、
あまり良い人物には描かれていません。なんででしょう。
著者(大学の事務職が本業)から見ると、
60年代末から70年代初めに流行ったヒッピーは全員「汚い淫乱」なんでしょうねえ。
作品中、学生運動のエピソードは事件の謎とはまったく関係ありません

Buffy Sainte-Marie The circle game 「いちご白書」 





■跡形なく沈む D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
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