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チラシの裏

コードウェイナー・スミス

2009年09月11日 | SF
コードウェイナー・スミスはSF史の中でもっとも重要な作家の一人にもかかわらず、「カルト」という言葉がかならずかぶせられています。それはSF作品そのものが少ないことと、作中で描写される事物のイメージが曖昧というか、よくわからないから、かもしれません。
スミスは詩人の側からSFを書いていたと勝手に推測すれば、散文的な描写とは縁がないということも言えます。スミスの文章から具体的な形を導き出しても、あまり意味がないのでしょう。スキャナーたちの格好を、スミスの文章をそのまま引き写したら滑稽なかぶりものを着た人物が出来上がっちゃいます。


「鼠と竜のゲーム」のハヤカワSF文庫旧版表紙。冒険SF?…


スミスを絵で表現したもので唯一簡単に入手できるのは、米版ペイパーバックの表紙イラストぐらいではないでしょうか。



これはDel Rey版ですが、表紙イラストはDarrell Sweetという人が描いてます。ファンタジイものの表紙をよく描いている人で、ロバート・ジョーダン「時の輪」シリーズが有名だそうです。(ハヤカワFT文庫刊)
わたしが持っているのは上のバックが黄色の3刷ですが、初版はこっちだったようです。絵が四方断ち切りで使われていて、3刷ではカットされていた宇宙船や豹(?)が描いてあるのが分かります。
胸のあいたドレスを着た赤毛のセレブ風なお姉さんがク・メルで、彼女と向かいあっている男女がポールとヴィルジニーですね。ヴィルジニーはあきらかにク・メルが嫌いみたいですが、ポールはウェルカム!という手振りです。その奥にいる長い職杖を持っているのは、スキャナーの首席、ヴォマクトです。胸にさげているのは、会話用のタブレットです。手前の半身を見せているのは、ブ・タンクですね。ローマ時代の兵士に担がれた輿に横たわったいるのは、ロード・クルデルタかも。で、背景の建物は「ワイングラスを逆さにしたような」と書かれている地球港、この橋のような道はするとアルファ・ラルファ大通りということになります。



「ノーストリリア」のペイパーバック版の表紙もDarrell Sweetが描いています。
真ん中でふんぞりかえって座っているのは主人公のロッド・マクバン、横に立つ美女はもちろんク・メル。後ろのいかめしい有翼人はイ・テレケリ、ポケットに手をつっこんでいる猿は、ア・ジェンターことイ・イカソス。アナクロな機械はロッドに地球を買わせてしまった古代コンピューターでしょうね。まさか、「ベルとバンク」じゃないと思います。

SFにはクロニクル、年代記などがよくあります。有名なところだとアシモフのファウンデーション、シルヴァーヴァーグのマジプール、ブリッシュの宇宙都市シリーズなど。
ところがスミスの作品は単純に編年体ではなく、大きな壁画が先にあり、その一部が短編となってわたしたちの目に触れているのです。スミスの書いた作品全部を読むと、その大きな壁画全体がおぼろげながら見えてきます。作品同士はその壁画のなかでたがいにからみあい、壁画の一部を構成しています。ところがスミスはすべてを書いたわけではないので、語られない部分を読むすべはわたしたちには無いのです。
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