Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ジャズ・アドリブにおけるミーム あるいは引用

2020-05-13 09:41:35 | ジャズ

ウィリアム・ベンゾン,西田 美緒子 訳「音楽する脳」角川書店 (2005/12).

第3部第11章「ジャズの時代と未来」では,B5・2段本の 7 ページにわたって,サッチモの Tight Like This のソロ中の「ミーム」について延々と記述している.この本では「ミーム meme」はアドリブ中に有名曲をちょろっと引用すること. Weblib によれば一般的には,ミームとは(模倣のように)非遺伝的な手段によってある人から別の人へ渡される文化的単位 (アイデア、価値または行動パターン) だそうで,Internet meme と語源は同じ.

これがその1928年12月録音の Tight Like This.

Louis Armstrong And His Orchestra, Alto Saxophone - Don Redman; Banjo - Mancy Cara; Clarinet - Jimmy Strong; Drums - Arthur "Zutty" Singleton; Piano - Earl Hines; Trombone - Fred Robinson; Trumpet - Louis Armstrong; Vocals - Don Redman; Vocals - Louis Armstrong.オスカー・ピーターソンが崇拝するピアノの神様アール・ハインズも,ここでは一団員にすぎない.

問題のミームはルイのソロの途中 1:55 あたり,女声 (と思ったら誰かの裏声らしい) が,Oh, it's tight like that, Louis と叫んだ後の2小節と,さらにその2小節後のやや変形された繰り返し.

2001年に出版された「音楽する...」ではこのミームの出所を縷縷探索するのだが,ネットを漁ったら,わりと簡単に下の動画に犬棒した.Mickey Mouse - The Karnival Kid (1929) で,年代もぴったりする.

0:47 あたりから同じメロディが現れる.出典不明だがやはりミッキーの "Misheard" Hoochie Coochie Dance の 0:30 からも同じメロディが登場する.Hoochie Coochie がこの曲の (当時のハリウッドでの) タイトルだったらしい.

このメロディは今なおアメリカの子供たちに歌い継がれているそうだ.「音楽する...」の著者ベンゾンは「ルイの子供時代のポピュラーソングはほとんど消え去ってしまった.私の子供自体のポピュラーだって似たようなものだ.ところが子供たちの歌はもっと息が長く,ティーンズや大人たちの間で流行するエンタメの急速な流れの下で,ゆっくりと動く層流となっている」と述べている.「わらべうた」である!

ベンゾンの意見 : とにかくこのメロディは有名で,聴衆にはサッチモがこの曲をミームしたことがわかる.サッチモは (一般的にはジャズメンは) ミームを TPO に合わせて変化させる.メロディの断片が遺伝子なら,演奏は遺伝子組み換えのようなものである.拡大解釈すれば,ジャズはある意味ではミームの巨大プールで,ミュージシャンは演奏しながらそこに立ち寄り,ぴったりくるものをとりあげる.個々のミュージシャンはミームを消化して自分だけのリック (節-ふし-) とし,それを組み合わせてソロに仕上げていく,ということになる.ただし TPO すなわち演奏の場を提供するのは,バンドのメンバーとの共同作業である.

うまく要約できたとは思えない.この説を突き詰めると,アドリブの内容はミームだけ,と言うことになってしまう.しかしオクターブ12音の組み合わせで可能なことはほとんど全部作られており,それらをミームと呼ぶなら,ジャズに限らず全ての音楽はミームの集合ということにもなりそう.

チャーリー・パーカーの演奏は (contrafact もだけれど) ミームだと明らかに分かるフレーズの宝庫である.例えば下のは Charlie Parker with Strings, the Complete Master Takes (Recorded Live at Carnegie Hall, New York, September 17, 1950) からの What Is This Thing Called Love? で,2:20 あたりから As Time Goes By が現れる.

関心のある方は「音楽する...」原本を.


 


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