Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ふたたび 中川 右介「国家と音楽家」 について

2022-03-06 09:50:30 | 読書
昨日の 中川 右介「国家と音楽家」集英社 (文庫 2022/2) の続きです.

取り上げられた「音楽家」は国家にとって広告塔としての利用価値がある人ばかり.彼らは亡命してもその先で食っていけるから,一般庶民とは異なる特権階級ではある.この本の人たちが実際に従軍した形跡はない (ショスタコービッチは危ないところで処刑を免れた).クライスラーのは稀有な従軍記かも.
たいていの音楽家は政治に関しては音痴で,その典型がコルトー.パデレフスキーはポーランド独立運動のリーダーに担がれ,第1次大戦後ポーランド首相兼外相となったが,パリ講和会議でフランス首相に「偉大なピアニストのあなたが今や首相でいらっしゃる」と挨拶され「はい,なんと落ちぶれてしまったことか」と応じたという.
反権力で一貫していたのがトスカニーニとカザルス,34がなくて5がミュンシュというところ.フルトヴェングラーは優柔不断で,トスカニーニに面詰される.権力に積極的に尻尾を振ったのがカラヤンとなる.

著者による「カラヤンとフルトヴェングラー」は週刊誌的に書かれた部分があったが,この本ではそんなことはない.ヨーロッパの複雑な地理歴史も描かれているので,社会科嫌いの音楽好きには勉強になりそう.音楽家たちの「音楽」にはまったく言及していない.徹底していて潔い.

日本ではここに描かれた人たちに対応する音楽家は不在だったと思う.美術では藤田など,戦争画を描いた画家たちが問題とされたが,この国では音楽の比重は美術より軽かったのだろう.この本の母体となった週刊金曜日では,日本代表として美空ひばりを取り上げたということだ.本に収めるのは無理だとの判断があったそうだが,付録にしてくれれば面白かったかも.

パデレフスキー 1860-1941 のSPは見聞きした覚えがある.1911 年収録のラ・カンパネラを Youtube で見つけたが,いやにゆっくりした演奏.


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