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2万2千ベクレル 被曝事故 vs 放射線治療

2017-06-08 09:50:25 | エトセト等

朝日新聞デジタル 2017年06月07日 15時45分 JST 更新: 2017年06月07日 15時45分 JST の抜粋.

*****茨城県大洗町の日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターで、ウランとプルトニウムが入った保管容器から放射性物質が漏れて作業員5人が被曝(ひばく)した事故で、原子力機構は7日、このうちの1人で50代の男性職員の肺から、2万2千ベクレルのプルトニウムが検出されたと発表した。暫定で1年間に1・2シーベルト、50年で12シーベルトの内部被曝をする値で、過去にこれほどの内部被曝をした例は、国内ではないという。原子力機構は「急性の放射線障害が出るほどではない」としている。*****

22,000 Bq (2万2千ベクレル) がどの程度の数値なのか?
放射線癌治療を経験した身として,人ごととは思えない.私の場合は加速器による外部照射だったが,「密封小線源療法」という,放射線を出す小さな線源(カプセル)を患部に挿入して埋め込み,内部から放射線を照射する治療法がある.線量比較に最適である.

前立腺癌の場合は I 125 (ヨウ素125 平均エネルギー 28.4keV 半減期 60 日) を用いる.日本放射線腫瘍学会小線源治療部会ワーキンググループ 密封小線源治療 -診療・物理 QA ガイドライン- によれば,線源強度は 15.3 MBq,13.1 MBq,11.0 MBq の 3 種類がある.M=10の6乗 すなわち百万である (とするのが物理屋の常識で,多分間違いない.例えば 15.3M Bq=1,530,000 Bq).これを数十カプセル埋め込むので全線量は億 Bq の大台に達するだろう.ちなみに上記ガイドラインによれば,口腔癌,口唇癌 ,中咽頭癌の治療に使用する Au198 の線量は 185MBq とのことである.

シーベルト(Sv)で比較するのが妥当と思うが,換算で間違えるのが心配.
比較のために自分が受けた外部照射治療の場合は 66Gy で,修正係数を1とすれば,66Sv である.これを2ヶ月がかりで照射した.

単に数値だけを比較して,上記の原研の事故はたいしたことはないで終わらせるのは本意ではない.上記の原研の事故で「急性の放射線障害が出るほどではない」とするのはうなづけるが,晩発性の障害が恐ろしい.
プルトニウムはカプセルに密封されていないから,血液を経由してあちこちで骨に貯まる.アルファ線は飛程が短かいから体外に飛び出すことがなく,近接する周辺の細胞を破壊する.半減期はヒトの寿命よりずっと長いから,一生ついて回る.小出裕章は,プルトニウムは「かつて人類が遭遇した物質のうちでも最高の毒性をもつ」と言っている.

ついでに,この際強調したいのは,放射線治療が極端な大線量を用いることである.お医者さんは線量について患者にはっきり説明しない傾向がある.ICRP の放射線防護方針との整合性もよくわからない.ICRP 98「永久挿入線源による前立腺がん小線源治療の放射線安全」(2004) などの文書もあるのだけれど...

事故に関連して紹介したいのが
NHK東海村臨界事故取材班「朽ちていった命:被曝治療83日間の記録」 新潮文庫(2006/10).
1999年9月に起きた茨城県東海村での臨界事故のドキュメントで,本当に怖い.

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