Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ツィス

2008-09-10 09:51:39 | 新音律
広瀬 正「ツィス」 改訂新版 (集英社文庫 2008/08)

広瀬正・小説全集 2
出版社からの内容紹介
謎の騒音公害事件が首都圏をパニックに…
突然、謎のツィス音=二点嬰ハ音が神奈川県で発生した。やがてそのツィス音は拡大し、首都圏を襲う。未曾有のノイズ災害に襲われた人々の選択とは? パニック小説の傑作。(解説/司馬遼太郎)

まだ,というべきか,また,というべきか,昭和のSFに嵌っている.再読.上記の内容紹介程度のことは漠然と覚えていたが,ディテイルは全然忘れていたことがわかった.
「ハイウェイ惑星」は紙が黄変して,活字とのコントラストが悪くて読みにくかったのに比べ,新本はいい.活字も大きくなっている..

ぼくには C# と言われないと何のことか分からない.著者の広瀬さんはジャズのサックスをやっていたそうだが,クラシックを勉強されていたのかもしれない.この小説で面白いのは,ツィス音がバックに鳴り響く状況下での音楽家たちの座談会の場で,ツィスを根音とする純正律でオンガクして儲けようとするくだり.

こういうことが起きたら,どうなるか,という小説を,音楽家でもある著者がいかにも楽しんで書いている感じ.

首都圏の住人が全員避難するあたり,小説の記述では戦時中の疎開が引き合いに出されるが,その後大島・三宅島の噴火で規模は小さいが似た事態が起こっている.

広瀬さんの作品は三回にわたり直木賞候補になったそうで,司馬遼太郎による解説には,そのときの審査員としての好意的な意見が書いてある.
いま「ツィス」を読み返した私としては,はじめに現れるふたりの関係が恋愛にまで発展するかと期待するとはぐらかされるのが物足りない.さらに,ツィス音は集団催眠だったかも...とほのめかすラストの書き方は小説として未熟と思われた.やはり,直木賞は無理だったかな.「エロス」のほうが SF 味は薄いが直木賞向きと思うが,著者も意識したのだろうか.

集団避難が必要なほど音圧が高くなれば,耳が聞こえない人でも,いや聞こえない人ならなおさらツィスを皮膚で感じるはず.固有振動数が合った物体に物理的な損傷もおこるはず.
でもそれでは,ラストが生きないのですね.
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