Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

桑原茂夫「西瓜とゲートル」

2024-05-25 09:08:19 | 読書
桑原茂夫「西瓜とゲートル - オノレを失った男とオノレをつらぬいた女」‎ 春陽堂書店 (2020/8)

出版社の紹介*****
母の遺品の小さなメモ帳…。
父に赤紙が届いた日から、東京が火の海になるその日までの走り書きのような日記。 その中にはもがくように必死に生き抜く母がいた。
 一方、「よくぞご無事で」復員した父は、どこか「以前のオトーサン」ではなく、何かを南の島に忘れてきたようだった。 家族の記憶から新たに取材、調査も加え、ぜったいに書いておかなければならないと、著者がハラをくくって世に問う、新しい「戦争」ドキュメント!

桑原氏の個人誌「月あかり」連載の書籍化。
*****

図書館で借用.その内容 :

第1部 母のメモを読む
母 = オカーサンのメモは,召集令状が来た昭和 20 年 4 月から,5 月まで.夫は 41 才で召集されたが,徴兵年齢が 40 才から 45 才に引き上げられたばかりだった.写真では読みにくい走り書きだが,著者によって分かち書きされたところは詩のようだ.第1部にはメモと「メモを読み解く」= 著者によるメモの解説が交互にあられる.食べ物と空襲とお父さん = 夫 = オトーサンへの愛惜が大部分.
三田すなわち山手線の田町の内側は,ぼくにも土地鑑無きにしも非ず.親戚付き合い・近所付き合いが濃厚.

第2部 呆然オトーサンと颯爽オトーサン
オトーサンは壊れて呆然オトーサンになって帰ってくる.幼い著者は夜中に目が覚めて,オトーサンの両足が腐臭を放たんばかりに化膿していて,毎晩オカーサンに包帯を取り替えてもらっていることを知る.そのオカーサンは戦中戦後,獅子奮迅で働き続ける.
オトーサンは出征前の颯爽オトーサンに戻ることもあるが,その壊れっぷりがイマイチ分からない.戦前と同じように八百屋を営むのだが,一家で夜逃げをする羽目に陥る.
オトーサンは結局平成元年 呆然オトーサンとして逝ってしまう.

第3部 五島列島へ行く
著者はあちこち役所を訪ね回った挙句,実地にオトーサンの足跡をたどり,五島列島福江島へ.オトーサンが従事したのはもっぱら坑道陣地構築,すなわち穴掘りだったが,米軍が上陸を試みたら,肉薄攻撃・挺身遊撃しなければならなかった.島尾敏雄「魚雷艇学生」の,ベニヤ板で作った一人乗りのボートで敵艦に体当たりする作戦である.
ここで語られる「教育勅語」「軍人勅諭」「戦陣訓」批判は,呆然オトーサンについて読んだ後だけに身に染みる.戦争を知らない子供,広島市長・松井一実が「教育勅語」を肯定しているそうだが,この本を読んだらどうだ.

装丁装画 南伸坊.
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