NOTEBOOK

なにも ほしがならなぁい なにも きたいしなぁい

諦めることについて考える。『アナと雪の女王』

2014-03-21 | 授業
リトルランボーズ

アレンデール王国の二人のプリンセス、姉のエルサと妹のアナ。とても仲の良い姉妹だったが、生まれもった氷の魔法の力でエルサがアナを傷付けてしまう。そのことがきっかけとなりエルサは自らの魔法の力で周囲を傷付けまいと、城の一室に閉じこもり文字通り心を閉ざしてしまう。そんなエルサが大人になり、女王となる日に再び自らの魔法の力でアナや周囲の人々を傷付けてしまい、一人北の山に逃げ込んでしまった

魔法の力は『シザーハンズ』のはさみの手よろしく、もちろんある種のメタファーであり、人間が誰しも持っている周囲を傷付けてしまう性質や行動の象徴である。それを本作では氷の魔法という形で描いている。本作でぼくがもっとも心を惹かれたのはやはりこの表現であり、アナや周りの人々を傷付けてしまったエルサが北の山に逃げ込んだ後の描写である。


『Let it Go』performed by Idiana Menzel

CMやテレビで本作が紹介される時に一番に紹介される本作のメインナンバー、『Let it go』がかかる。ゴージャスなメロディーとパワフルなヴォーカル。一見するとなんとも前向きな歌のように聞こえるが、よくよく歌詞を聴くと、必ずしも前向きなことばかり歌っているわけではない。そもそもこの歌詞は周囲を傷付け、「化け物!」とのそしりを受け、自分の国を追われ、逃げてきた女王エルサの心情を歌ったナンバーであるからだ。


The snow glows white on the mountain tonight
Not a footprint to be seen.
A kingdom of isolation,
and it looks like I'm the Queen
The wind is howling like this swirling storm inside
Couldn't keep it in;
Heaven knows I've tried


今夜、雪が山を白く染め上げる。
雪の上の足跡さえも見えない。
孤独の王国、私はその国の女王のようだ。
風は心の中で巻き起こる嵐のように吹いている。
もうそれを押さえつけることは出来ない。
天のみがそのことを知っている。


Don't let them in,
Don't let them see
Be the good girl you always have to be
Conceal, don't feel,
don't let them know
Well now they know


誰も受け入れない。
誰にも見せない。
良い子であるために、いつも隠しておかなければならない。
悟られたり、知られてはならなかった。
でもそれは知られてしまったんだ。


Let it go, let it go
Can't hold it back anymore


もういいだろう、もういいだろう。
これ以上過去にこだわるのはやめよう。


Let it go, let it go
Turn away and slam the door
I don't care
what they're going to say
Let the storm rage on.
The cold never bothered me anyway


もういいだろう、もういいだろう。
みんな追い払って、ドアを閉ざそう。
周りの言うことなど気にしない。
嵐よ、吹け。
氷の魔法の力はもはや取るに足らないものだ。


It's funny how some distance
Makes everything seem small
And the fears that once controlled me
Can't get to me at all


距離をとることですべてのものが些細なことに見えるなんて面白い。
かつては恐れが私を支配していたが、
もはや恐れは私を支配できない。


It's time to see what I can do
To test the limits and break through
No right, no wrong, no rules for me,
I'm free!


自分が出来ることの限界を試し、それを打ち破る時だ。
正しいことも、正しくないことも、ルールも私には無いのだ。
私は自由だ!


Let it go, let it go
I am one with the wind and sky
Let it go, let it go
You'll never see me cry
Here I stand
And here I'll stay
Let the storm rage on


もういいだろう、もういいだろう。
私は一人風と空とともにある。
もういいだろう、もういいだろう。
私が泣くことなどもう無いだろう。
私はここに立っている。
そしてここにとどまるのだ。
嵐よ吹け。


My power flurries through the air into the ground
My soul is spiraling in frozen fractals all around
And one thought crystallizes like an icy blast
I'm never going back, the past is in the past


私の力は空気を通じて大地を震わせる。
私の魂は辺り一面の氷の結晶の中にもぐりこむ。
私の思いは吹雪のように結晶化される。
決して私は振り返らない。過去は過去なのだ。


Let it go, let it go
And I'll rise like the break of dawn
Let it go, let it go
That perfect girl is gone
Here I stand
In the light of day
Let the storm rage on


もういいだろう、もういいだろう。
夜明けのように私は立ち上がるだろう。
もういいだろう、もういいだろう。
完璧な少女はもういない。
日の光の中で私はここに立っている。
嵐よ、吹け。


The cold never bothered me anyway!

氷の魔法の力はもはや取るに足らないものだ。
英詩は下記より参照。
http://www.metrolyrics.com/let-it-go-lyrics-idina-menzel.html


端的に言えば、周りなど気にしない。周りの言うことなど気にしない。周りと距離を置こう。そうすれば自由になれるのだと歌い上げる。それはある種の逃げであり、一面的には実に後ろ向きだ。後ろ向きだが、自分の能力に素直になったエルサはそれまでの貞淑な女王から、肉感的でセクシーな女性へと変貌を遂げる。それは諦念だ。周りに受け入れられようとしたり、合わせたりするのを諦めた、エルサの諦念。

映画を観るような気分でなく、ひどく落ち込んだままこの映画を観だしたが、このシークエンス、このナンバーになってから、一気に心が楽になった。諦めることは、こだわりを捨てることと同義だ。それは今まで囚われてきたものとの決別だ。もはやそれは過去であり、現在とは関係が無くなる。現在と関係の無いものをどうして気にするというのだろう。エルサではないけれど、少しは心が救われた。軽くなった。そんなことを考えた。

『Let it go』が後半序盤と対になって再び歌われるものだと思っていたので、勝手に肩透かしの気分だったけれど。

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