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HBOドラマ版『THE LAST OF US』は原作通りでありながら、原作通りと全く異なるドラマだった

2023-03-14 | 備忘録
シーズン1の第9話で明確になったのは、ペドロ・パスカル演じるこのドラマ版ジョエルは、原作ゲーム版のジョエルと比べて、実の娘サラの死を20年経っても乗り越えていない、と言うことです。


◾️サラの死を乗り越えられていないジョエル
最終第9話でそれが明確になりますが、実は第1話からジョエルがサラの死を乗り越えられていない事は暗に示されていました。

隔離地域から脱出する際に、FEDRAの兵士に見つかり彼らを倒しますが、原作では単に兵士を倒すだけなのに対して、ドラマでは20年前にサラと逃げる際に陸軍兵士に撃たれてサラが亡くなった状況をフラッシュバックし、サラを殺害した陸軍兵士とFEDRAの兵士を重ね、殴り殺します。

※『The Last of Us PART Ⅰ』ドラマ原作該当箇所


◾️サラの死を埋める代替存在としてのエリー
ファイアフライの残党が潜伏しているとされるセントメアリー病院へ向かう途中のジョエルとエリーの何気ない会話。感染爆発した当時の思い出話パート。サラの話をするのを頑なに拒んでいたジョエルだったが、この何気無い会話のラストではサラの死を乗り越えられた様な事が示される。

※『The Last of Us PART Ⅰ』ドラマ原作該当箇所

ドラマ版でもこの該当箇所が基本的には原作通りに再現されていた。しかし衝撃的な台詞が追加されていた。1点目はサラの死後、生きる目的を失ったジョエルが自殺未遂をしていたと言う点。

そしてもう1点、その傷は時が癒したのかと問うエリーに対して、時じゃ無いとエリーを見つめて答えるジョエル。エリーがサラの代わりとなってジョエルの傷を埋めた事が明示されます。

ジョエルはサラの死を乗り越えたのでは無く、サラの代わりであるエリーを得た事で精神が落ち着いたと言う事なのです。

◾️サラの代替であり、サラより価値が低いエリー
感染症の治療薬開発の為に、エリーが命を落とすと知ったジョエルは、エリーを取り戻すべくファイアフライの兵士たちを殺害しエリーを奪還し、弟のトミーが暮らすジャクソンに戻る。ここまでの流れは基本的に原作通り。

基本は原作通りでは有るのですが、ラストシーンの直前のジョエルとエリーの何気無い会話がドラマでは大きく改変されていて、ジョエルの人物像が原作とは大きく異なる印象を与えるものになっていました。

※『The Last of Us PART Ⅰ』ドラマ原作該当箇所

サラが登山が好きだった、エリーとサラはいい友だちになれた、ものすごく気があっただろうとジョエルは語っただけでした。

ところがドラマでは、サラはエリーを気に入っただろう、だがサラとエリーは似ていない。むしろ全然違ってサラの方が女の子らしく、サラはエリーより背が高く、笑顔が最高だった、と。エリーは面白いから、サラを笑わせられるから、サラはエリーを気に入るだろうと、ジョエルは語ります。
ゲーム版ではあくまでサラとエリーを同列に扱っていたのに対して、ドラマではエリーはサラのあくまで下位互換で有る事が示されている様に思います。

◾️全く同じで全く異なる物語を紡いだHBOドラマ版『THE LAST OF US』
今回のドラマはゲームと基本的に同じ物語です。感染爆発の混乱に際して、実の娘のサラを亡くしたジョエルが感染症に対する免疫を持つエリーとの旅路の中で関係性を育み、感染症の治療薬開発の為に命を絶たれるエリーを奪還して帰ると言う物語はそのままでした。

ですが、ジョエルがサラの死を乗り越えず、メンタルが未だ不安定で、エリーをサラの代わりにしたいと言う欲望を持った人物で有ると人物像が絶妙に変更された事で、精神的に自立した大人で有るジョエルから、自分の為にエリーを自分の娘にする精神的に自立できない大人になっています。

この変更によりジョエルの人物像は、ドラマ版第8話で登場したカニバリスト集団を率い、エリーをペットにしようとした神父デビッドと大差が無い様に思います。

※『The Last of Us PART Ⅰ』ドラマ原作該当箇所


このゲームと人物像が異なるジョエルを擁して、HBOドラマ版『THE LAST OF US』はシーズン2製作が発表されました。

『The Last of Us PART Ⅱ』をベースに、翻案に留めつつも『PART Ⅱ』全体は1シーズンでは描けないとしています。
『PART Ⅱ』は『PART Ⅰ』から4年後の世界がゲームでは舞台となっている為、シーズン2は4年の間のジョエルとエリーの関係の破綻と許しまでを描くのかも知れません。


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