NOTEBOOK

なにも ほしがならなぁい なにも きたいしなぁい

桐島、部活やめるってよ

2012-09-15 | 授業


『桐島、部活やめるってよ』(公式)
リトルランボーズ

バレー部のエース、桐島が部活を辞めるということを中心にその周辺の人々の人間模様を様々な視点から徐々に描き出していく。前半は『メメント』のように、桐島が部活を辞めるという噂が学校中を駆け巡った日の夕方からその日の朝へと、学校の中の生徒のそれぞれの視点から切り出されていく。エースである桐島に抜けられたバレー部の面々。部活を辞めることを知らされなかったスクールカースト上位層の親友・友人に彼女と彼女の友達。桐島とはゆかりも無いスクールカーストの下部に位置する映画部の面々などなど。

ラストと思われるところで、桐島を巡ってあたふたしたり、怒っていたり、関係なく過ごしてきた人々が一堂に会して、屋上で乱闘騒ぎが繰り広げられる。映画部の前田はその中でゾンビに扮していた部員たちにやつらを襲えと言い放ちその模様を撮影。スクールカースト最下層が運動部やモテ層を襲うという大逆転劇。その祭りの後に、野球部幽霊部員の宏樹は好きなことに一生懸命な前田に親しげに声をかける。そして将来は映画監督にでもなるの?と声をかける。でも前田は…その言葉を聞いた時の宏樹の表情。

明らかに宏樹は持つ者であり、前田や野球部の先輩は持たざる者。映画が好きで、映画秘法を読み、高校の映画部で仲間たちと楽しく映画を撮っているにも関わらず、将来は映画監督になれるとは思っていない前田。田舎のそんなに強くない野球部キャプテンで、プロのスカウトなんて来るはずもないのに3年になっても野球部に席をおき、試合に出ている。プロになれるとは思ってもいないのに、かすかにどこかでプロになれることを期待してドラフト会議のその日まではユニフォームを脱がない、脱げない野球部の先輩。

頭も良く、ルックスも良く、運動神経もあり野球部への復帰を望まれ、くそ女ではあるもののスクールカースト上位の彼女がいる宏樹は明らかに持つ者。でも宏樹には何も無い。前田との会話や先輩が野球部を続ける理由をしり、最後に宏樹は涙を流す。あの涙って持つ者の持たざる者への哀れみ、悲しみなのかなとぼくは思いました。あれだけ好きなことに没頭し、一生懸命好きなことに日々を費やしているのに前田や先輩は自分たちの分をわきまえているというか、知ってしまっている。それを思って泣いているのかと。

一方でその涙は決意の涙なのかもと。おそらく宏樹はその後、野球部に復帰する。そして何にも無いくそ女の彼女とは別れるのだろうか。そして吹奏楽部部長の亜矢と付き合うのかと。そして宏樹はぽっかり空いた部分を埋められる。桐島は物語の中心であり、欠落している。登場人物はみなどこか欠落している。宏樹のそれは打ち込むべきもの?だからこそ彼は自分がそれを見つけた?時に涙したのかもしれない。…エンドロールで高橋優が書き下ろした『陽はまた昇る』がかかる。どんな人にも平等に陽はまた昇り繰り返すと。前田にも先輩にも宏樹にもくそ女にもあ…凄い残酷な映画なんだと。