詩・週末の選択

2017-03-16 10:05:44 | 
       週末の選択

  
  海底の藻にからまったまま
  磯に打ち上げられた魚よ
  
  千畳敷に叩きつけられた波は
  怒号となって飛散している
  聞く耳を持たぬ おまえ
  断崖でハマギクはふるえている
  花は瞬間 おまえを見たであろうか
  
  まだ半年も経っていない  
  畳を入れ替えたばかりの部屋を出て
  二度目の選択で
  ついに死を完結した おまえ
  おまえは ツチノコじゃなかったのかい

  何もないことのほうがしあわせ
  そっちばかり向いていたあんたには
  どんな言葉も無力だった

  光がつくった闇
  闇から闇へ 
  つんのめっていった孤独は
  深海のオブジェに跳んだ

  みたび戻ってくることはなった
  そのまま藻にくるまれて
  海底のツチノコでよかった
  
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詩・包帯

2017-03-15 21:10:01 | 
    包帯              

恥ずかしい と言ったのか
かすかに聞き取れた言葉を解こうとして
おれは明るい窓際に寄った
あんたは天井を見ている
そこに阿騎野の空が映っているか

同じ空の下にいるのに
あんただけが
いつも窮屈そうにしている

おれたちは普通に生活をして
スーパーマーケットで
野菜の鮮度の悪さに納得しあい

それから小さな旅行にも出た
古めかしい路地ではしゃいで
美味しい店を見つけ
おれたちは昔は何であったのか
おれは魚と言い
あんたは
ツチノコと言って笑いころげた
誰にも見られたことがないからと

あんたの好きなロックコンサートに行った帰り
人ごみの中で血の気の引いていったあんた

ちょっと目を離したすきに
あんたは何処まで行きかけたのか

おれは窓のブラインドを下ろし
布団の中に隠している
あんたの手首の包帯に触れた
目を合わそうとしない 
恥ずかしいと言った小さな拒絶

包帯が 
墨染の空に向って
するするするするとほどけていく

目を離したすきに
さよならあ 
と 手をふるように

  
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万葉趣遊・詩 丑三つの踊り

2017-03-15 11:04:50 | 
          丑三つの踊り
  
  土蔵のおでん屋で二人とも酔った
  アーケードの光の川をゆらゆらゆれながら
  三条通りに出ると
  「あれ なんやろ?」と あんたは夜空を指差した
  「塔だ」
  「黒光りしてる どっしりしてるなあ」と言ったあんたは
  もうろうと 池のほとりで へたりこんでしまった

  おれにはもうわかっていた
  こういうタイミングでいつも
  あんたはふっと気配を消すのだ
  おれは闇の中へ視線をそらした 
  五重塔のひとつの扉から 
  耳慣れない琵琶の音色が洩れている

  突然ふらふらと立ち上がったあんたは
  「十二神蒋さんら 今頃踊ってはるえ こんなして」と
  片肘を曲げ 片腕を上げて きゅっと腰をひねる
  「毘羯羅(びから)か招杜羅(しょうとら)のポーズだなあ じゃぁこれは」
  と言って おれは目をむいて胸を反らせた
  「誰やった それ? こんなんもあったなあ AKB48や」
  とあんたは 右手を腰に 斜めに上げた左手をぐるぐる回す
  神々を「AKB48」にしてしまって
  猿沢の池のほとりで 丑三つ
  伐折羅(ばさら)のように
  あんたが見得を切った
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万葉趣遊・詩 秋篠の小路

2017-03-14 16:05:34 | 
       秋篠の小径        


  来る途中
  畑にいたおばあさんからのいただきもの
  苺をくるんだハンカチーフを手に提げて
   東洋のミューズってええやんか と
  寺に向う

  あんたは 
  片方の手で拂っていた草の葉っぱを
  指の間に残したまま
  カメラに向って
   技芸天は 秋篠の女優さまよね と
  あのお方のキメのポーズをとる
  苺をパクリ
  踵をかえして
  雲雀も小躍りして鳴く秋篠の小径を
  私におかまいなしに
  さっささっさと行きなさる

  黒髪を盛りあげた紫紅のシュシュが
  たまゆら 薔薇を装うのも
  思い過ごしか と
  私は後ろから
  不揃いのひとつひとつを楽しみながら
  あんたについて行く

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万葉趣遊・詩二題

2017-03-13 13:32:53 | 
        泊 瀬        

  門前町で買った木綿(ゆう)の髪飾りをつけて
  合わせ鏡で見ている
   明日の吉野はもっと寒いわね
  あんたは窓辺に寄り
  み寺の
  闇に列なる燈明を数えて
  フッと 
  手すりにもたれたまま
  何も言わなくなった

  蛾が翅を畳んでいる

  山間に濃くおりた霧の
  しめやかな埋葬地の樹々の梢に
  鳥たちはチチと睦み合う
  あけぼのの初瀬川の瀬音
  み寺から流れてくる声明

  無垢への祈りを現の闇に聞いていたのか
  と・・・・
  いつ起きて行ったのか
  あんたが天空への長い回廊をのぼっている    
  
            * 泊瀬女(はつせめ)の造る木綿花(ゆうばな)
                   み吉野の瀧の水沫(みなわ)にさきにけらずや
                               (万・巻六・九一二)

      阿騎の大野   

  泊瀬(長谷)から電車で一駅そこからバスで二〇分位
  で行けるからと 吉野行きを変更した
  <かぎろひ>を見るには季節外れ、しかも真昼だ
  「アタシの名がついてるから」
  言いだしっぺのあんたは道中は食うかゐ眠るか
  着けば着いたで「何にも無いね」
  と言ったあんたの姿は見えぬ

  阿騎の大野は平安時代お狩場だった
  何も無いからその面影が残っている
  狩の一行は十一月(陰暦)の朝 藤原宮を発ち泊瀬を通った
  雪の舞う狛(こま)峠を越えて 一日掛けて宇陀(阿騎野)に着いた
  とどこかで読んだことがある
  真っ白い冬の狩場での旅寝
  東の野のかぎろひ
  西の空の月
  夢でも見ることができない絵を
  人麻呂さんは本当に見たんだろうか

  「万葉集ってサ いつの話?」
  いつのまにか戻っていたアキは
  臍を出して 胸を立てて
  草の上に寝転んで空を見つめている
  月も
  かぎろひも……
  そうか ぜいたくな歌だな
  ぼくはうなずいて
  アキの脱いだパンプスを空に放り上げたのだ
 
            * 東の野にかぎろひの立つ見へてかへり見すれば月かたぶきぬ
            (万・巻一・四八)

しとしと雨が降っている。今日はこのまま降り続きそうだ。僕には恵みの雨だ。明太ポテトをつまんでいた指を洗って、< O HOlÿ Night >でも弾いてみよう。
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