詩   山寺

2014-12-03 22:54:03 | 自作の詩
    山寺
                    高田数豊

      蹴っても蹴っ飛ばしても銀杏の落ち葉  扇酔

トウモロコシの噴きあがった大釜 和尚のこしらえた竈は使い手も
 なく錆びたまま
在りし日の形のみ炎天にさらして蝉しぐれの消えた木立は今日もも
 くもくと繁り
お役御免の飛行機雲が青空に吸い込まれ
大銀杏は人気の途絶えた境内にどっかとその影を伸ばしでいる

(空手にして郷に還る)道元の言葉が口癖だった和尚はすでに
 居らず
北風が足もとを掃き清めた山寺の山門は不意の訪問者を招き入れ
分校の吹流しは垂れ下がり裏の杉山を夕闇が覆いはじめている

岩清水のひそひそ話しの中に和尚の言葉を呑み込もうとしてみるが
和尚よ 
トンネルに消えるハーモニカ窓の夜汽車の音に酔いながら
私は聞きたい
あの日満面の笑みで迎えてくれた和尚よ
百八の嘘を搗いてもまだ足らんまだ足らんわと
鐘を鳴らして酌み交わしたあなたの密造酒も
廃寺の土の下でもはや眠りから覚めることはないだろう
目は横に鼻は縦じゃと
ヨッコラヨッコラ石を運びながら言ってくれたあなたの声を
あなたが造った古池に腰掛けて
もう一度聞きかった
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詩 出土品

2014-11-30 20:59:54 | 自作の詩
  出土品
                  高田数豊

てなもんや州の州立工科大学 平屋建の講義室の天井には四機
の扇風機が取り付けられている 大きなプロペラが静かな音で
回っている 私は話を続けた 
千二百年前の物と推定されます。これはIT塚遺跡から出土し
た携帯電話のICメモリーのプレートの一部です。情報の記憶
装置ですから通常粉砕などの処置がとられて、このような形で
一部が残されるということは考えられない。人為的ミスなんで
す。千二百年前には日本では小学生も持っていたという記録が
あり、家族一人に一台という統計も残っています。その後百年
の間に「スマートフォン」など急速な変化をしていきましたが、
同時に資源「レアアース」などで世界に緊張を生むなど多くの
問題も引き起こしました。また社会的には家族間、対人関係に
も変化が生じ言葉によるコミュニケーションの有り方などが社
会問題化し「メール」などにより対面して会話することを避け
るという風潮も生まれ孤立化の要因ともなりました。経済競争
と商品開発とセキュリティの鼬ごっこはこれらの問題の解決を
後回しにしてきたのです。しかしわが国ではこのような深刻な
状況に対して世論が沸きあがったのです。そして次々に携帯電
話に対する規制が打ち出されやがて衰退していきました。皆さ
ん、今私達が使っているダイヤル電話、赤電話はかつて携帯電
話によって亡くなりかけていたものなんです。しかし、利便性
の追求から生れた様々な問題点を処理していく過程で、私達の
先人は古き良きものの温かさを再認識したのでした。私達はこ
の小さな偉大な出土品によって多くの教訓を学び取ることがで
きるでしょう。セキュリティーも人間の手によっているという
ことも・・・・。
丁度私の講義が終ろうとした時雷鳴が走った 私は腰手拭で汗
を拭きながら生徒達と海側の窓を閉めて回った。今日は娘の二
歳の誕生日だ。
>
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