万葉趣遊・詩二題

2017-03-13 13:32:53 | 
        泊 瀬        

  門前町で買った木綿(ゆう)の髪飾りをつけて
  合わせ鏡で見ている
   明日の吉野はもっと寒いわね
  あんたは窓辺に寄り
  み寺の
  闇に列なる燈明を数えて
  フッと 
  手すりにもたれたまま
  何も言わなくなった

  蛾が翅を畳んでいる

  山間に濃くおりた霧の
  しめやかな埋葬地の樹々の梢に
  鳥たちはチチと睦み合う
  あけぼのの初瀬川の瀬音
  み寺から流れてくる声明

  無垢への祈りを現の闇に聞いていたのか
  と・・・・
  いつ起きて行ったのか
  あんたが天空への長い回廊をのぼっている    
  
            * 泊瀬女(はつせめ)の造る木綿花(ゆうばな)
                   み吉野の瀧の水沫(みなわ)にさきにけらずや
                               (万・巻六・九一二)

      阿騎の大野   

  泊瀬(長谷)から電車で一駅そこからバスで二〇分位
  で行けるからと 吉野行きを変更した
  <かぎろひ>を見るには季節外れ、しかも真昼だ
  「アタシの名がついてるから」
  言いだしっぺのあんたは道中は食うかゐ眠るか
  着けば着いたで「何にも無いね」
  と言ったあんたの姿は見えぬ

  阿騎の大野は平安時代お狩場だった
  何も無いからその面影が残っている
  狩の一行は十一月(陰暦)の朝 藤原宮を発ち泊瀬を通った
  雪の舞う狛(こま)峠を越えて 一日掛けて宇陀(阿騎野)に着いた
  とどこかで読んだことがある
  真っ白い冬の狩場での旅寝
  東の野のかぎろひ
  西の空の月
  夢でも見ることができない絵を
  人麻呂さんは本当に見たんだろうか

  「万葉集ってサ いつの話?」
  いつのまにか戻っていたアキは
  臍を出して 胸を立てて
  草の上に寝転んで空を見つめている
  月も
  かぎろひも……
  そうか ぜいたくな歌だな
  ぼくはうなずいて
  アキの脱いだパンプスを空に放り上げたのだ
 
            * 東の野にかぎろひの立つ見へてかへり見すれば月かたぶきぬ
            (万・巻一・四八)

しとしと雨が降っている。今日はこのまま降り続きそうだ。僕には恵みの雨だ。明太ポテトをつまんでいた指を洗って、< O HOlÿ Night >でも弾いてみよう。
コメント (2)
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