詩・包帯

2017-03-15 21:10:01 | 
    包帯              

恥ずかしい と言ったのか
かすかに聞き取れた言葉を解こうとして
おれは明るい窓際に寄った
あんたは天井を見ている
そこに阿騎野の空が映っているか

同じ空の下にいるのに
あんただけが
いつも窮屈そうにしている

おれたちは普通に生活をして
スーパーマーケットで
野菜の鮮度の悪さに納得しあい

それから小さな旅行にも出た
古めかしい路地ではしゃいで
美味しい店を見つけ
おれたちは昔は何であったのか
おれは魚と言い
あんたは
ツチノコと言って笑いころげた
誰にも見られたことがないからと

あんたの好きなロックコンサートに行った帰り
人ごみの中で血の気の引いていったあんた

ちょっと目を離したすきに
あんたは何処まで行きかけたのか

おれは窓のブラインドを下ろし
布団の中に隠している
あんたの手首の包帯に触れた
目を合わそうとしない 
恥ずかしいと言った小さな拒絶

包帯が 
墨染の空に向って
するするするするとほどけていく

目を離したすきに
さよならあ 
と 手をふるように

  
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万葉趣遊・詩 丑三つの踊り

2017-03-15 11:04:50 | 
          丑三つの踊り
  
  土蔵のおでん屋で二人とも酔った
  アーケードの光の川をゆらゆらゆれながら
  三条通りに出ると
  「あれ なんやろ?」と あんたは夜空を指差した
  「塔だ」
  「黒光りしてる どっしりしてるなあ」と言ったあんたは
  もうろうと 池のほとりで へたりこんでしまった

  おれにはもうわかっていた
  こういうタイミングでいつも
  あんたはふっと気配を消すのだ
  おれは闇の中へ視線をそらした 
  五重塔のひとつの扉から 
  耳慣れない琵琶の音色が洩れている

  突然ふらふらと立ち上がったあんたは
  「十二神蒋さんら 今頃踊ってはるえ こんなして」と
  片肘を曲げ 片腕を上げて きゅっと腰をひねる
  「毘羯羅(びから)か招杜羅(しょうとら)のポーズだなあ じゃぁこれは」
  と言って おれは目をむいて胸を反らせた
  「誰やった それ? こんなんもあったなあ AKB48や」
  とあんたは 右手を腰に 斜めに上げた左手をぐるぐる回す
  神々を「AKB48」にしてしまって
  猿沢の池のほとりで 丑三つ
  伐折羅(ばさら)のように
  あんたが見得を切った
コメント (2)
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