静かな劇場 

人が生きる意味を問う。コアな客層に向けた人生劇場。

真実の自己(2)巷の「後悔ない生き方」で、本当に後悔しないか?

2019-02-08 11:56:45 | Weblog
前回の続きです。

 皆さんの中には「そう難しく考えなくともいいんじゃないか」と思う方もあると思います。
 確かに世間には『後悔しない生き方』といった類の本がたくさんあって、コンビニでも買えます。それらを見ると、いいことがたくさん書いてあります。例えば、
〈思いついたらすぐ行動しよう〉とか
〈自分の気持ちに素直に生きよう〉とか
〈「嫌われる勇気」を持とう〉とか
〈言い訳するのをやめよう〉など、
身近で、ためになることばかりです。
 確かにこういう生き方をすれば、明るく元気なれると思います。でも、言えるのはそこまでです。「そこまで」というのは、やらないより、やったほうが元気になったり自信がつくということです。

 それはそれで結構なのですが、それ以上のこと、つまりそれで本当に「人生に後悔しない」と言えるか、となると、そこには飛躍があります。人生はそれほど単純なものではないからです。

 なぜなら世間には、この通りの生き方をした人というのは、数は少ないですが、いないわけではありません。では、それらの人たちは皆、本当に人生に後悔しなかったのでしょうか?

 たとえば豊臣秀吉という人がいます。皆さんも『太閤記』を読んだり、テレビの大河ドラマでお馴染みだと思います。
 あの秀吉は、いつもぐずぐずしていたでしょうか?嫌われる勇気もなかった人でしょうか?言い訳ばかりしていたでしょうか?
 全く逆です。秀吉ほど行動的で、何があってもくよくよせず、やりたいようにやって、しかも大成功した人はいないと思います。世間でいわれる「後悔しない生き方」のお手本のような人ですが、では、その秀吉は死んでいく時、「ああ、いい人生だった」と言っていたかというと、そうではありません。
 秀吉は臨終に、「驕らざる者もまた久しからず、露と落ち 露と消えにし 我が身かな 難波のことも 夢のまた夢」と言い残しています。難波のことというのは、今まで自分がやってきたことの全てですが、それは「夢の又夢」、ただの夢だった、バカだったと後悔して死んでいます。

 秀吉は昔の人ですが、最近の人でも同じです。アップルという会社を立ち上げ、コンピューターを世界に普及し、IT革命を起こしたスティーブ・ジョブズという人がいますが、彼こそ一時代を築いた現代のヒーローでしょう。
 彼は生前、スタンフォード大学での講演の中で、次のようなことを言っていました。
「一日、一日を、最期の日と思って生きなさい。そうすれば、本当に自分がやりたいと思っていることに忠実に生きられる。その結果、必ず成功できる」
 この時のスピーチは有名になり、多くの人を感動させ、勇気を与えたと言われます。
しかし、そのジョブズ氏も、亡くなる前にはこんなことを言っていたといわれます。
「私は、ビジネスの世界で、成功の頂点に君臨した。他の人の目には、私の人生は、成功の典型的な縮図に見えるだろう。しかし、いま思えば、喜びが少ない人生だった。人生の終わりには、お金や財産など、私が積み上げてきた単なる事実でしかない。病気でベッドに寝ていると、人生が走馬灯のように思い出される。私がずっとプライドを持ってきた名声や財産も、迫る死を目の前にすれば色あせていき、何も意味をなさなくなっている。この暗闇の中で、生命維持装置のグリーンのライトが点滅するのを見つめ、機械的な音が耳に聞こえてくる。
 死がだんだんと近づいている……。
 今やっと理解したことがある。
 人生において十分やっていけるだけのお金を積み上げた後は、金とは関係ない他のことを追い求めた方が良い。もっと大切な何か他のこと。終わりを知らないお金や財産の追求は、人を歪ませてしまう。私のようにね。
 物質的な物はなくなっても、また見つけられる。しかし、一つだけ、なくなってしまったら、二度と見つけられない物がある。それは人生。命だよ」
 秀吉にしろスティーブ・ジョブズにしろ、この二人ほどやりたいことをやりきって大成功した人はいないと思います。しかし、それでも何か重大なものが私の人生には欠けていた。しかも決定的に欠けていたと告白しているのです。
 それは何だったのでしょうか。
 もし二人が本当の自分を知ったならば、何が欠けていたのか、分かったと思います。人生の選択を、どう間違ったかも分かったと思います。
 しかし、本当の自分を知ることがなかったので、苦労して積み上げてきたものが、最後、全部夢のように消えてしまい、残ったのはただ後悔のため息になってしまいました。
 仏教ではそんな後悔の人生にならぬよう、こういうメッセージではなく、「本当の自分を知りなさい」と教えられているのです。

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