検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

300年、ビクともしない建物  連載小説132

2012年10月19日 | 第2部-小説
  公平「その場合も大切なのは、施主の希望だと思います。すべての人は住まいに感想を持ち、意見を持っている。だから大人だけでなく子どもの意見・感想を聞くことは大切だと思いませんか」
将太「設計事務所の仕事は住む人の希望を100%満足させることです。当然、予算があります。予算の範囲で希望を100%満足させる家をつくる。それができたとき施主だけでなく建築家も喜びがある」
公平「木造住宅は何年持つのでしょうか」
将太「300年、いやそれ以上は大丈夫でしょ。大平さんの家はビクともしてないでしょ」

公平「わたしの家は築100年は経っています。祖父が建てた家ですから」
将太「そうでしょ。最初に伺ったとき立派な家だと思いました。土台がしっかりしているから屋根など水平がきれいだった」
公平「基礎を突き固めてあると聞いています」
将太「京都御所の築地塀は相当長い、200メートル近くあるんじゃないかと思うが寸分の歪みもなく経っている。あれも基礎をしっかり固めているからだと思う。そうした基礎の上に建てた家は何百年と持つ」
公平「家がダメになるのは風呂場や炊事場」
将太「それと結露だ」
公平「わたしが住んでいるマンションも冬は大変です。窓は水滴がしたたっている」
将太「高気密、高断熱住宅で結露発生が深刻なようですね」

産地間競争  連載小説131

2012年10月18日 | 第2部-小説
 公平「木をバンバン売る」
 公平が話題を突然変えていった。
将太「おや、今日はずいぶんだな」
公平「だってそうでしょ。ちょぼちょぼの売上では豊かにならないでしょ」
将太「確かに、それはそうだ」
公平「町おこしプラン、ずっと考えていました。あのプランではこれからの住宅は少子化を反映して核家族がさらにすすむが純和風建築の家で暮らしたい人も多いはずと評価しています。ただその需要が占部町の木に向うのかどうか」

将太「そこは重要なポイントですね。日本には有名な木材産地がいくつもある。純和風建築を求める人は金持ちといっていいでしょ。そうするとその人たちは吉野スギや北山スギ、秋田や飛騨、木曽など、名の通った材を求める。人はそれを自慢にしたい。だが占部のスギ、ヒノキは有名じゃない」
公平「でしょ。産地間競争がある。これにも打ち勝つのはかなり難しい」
将太「そこを突破するんだよ」
公平「どう突破するのか。正直、わたしはそれがみえません」
将太「わたしも分からないですよ。だからこそ今、占部林業でやっている寄り合い、あなたの奥さんたちのグループに期待がある」

公平「でもあの人たちは普通の人間ですよ」
将太「だが、1人ひとり違う家に住んでいる。快適さを感じ不便を感じている。その良さと問題を解決する住宅を提供できれば、人目をひきつけると思う」
公平「冨田さんの話を聞いているとうまく行く気がするが」
将太「こういう問題は1人で考えてもダメ、多く意見、知恵を集めると見えてくる。「町起こしたい」の案をたたき台にして、さらに森林組合、工務店、建築士などの意見を聞く。そこに時間をかければきっと道は開くと思います」


放談の中に核心  連載小説130

2012年10月17日 | 第2部-小説
 将太「大平さん、あなたの気持ちは分かるが腹を立てているだけじゃしょうがない」
公平「それは分かりますよ。ただ現状をきちんとみなければ」
将太「確かに、材木価格がどうなっているか多くの人は知らないからね」
公平「家を建てる時も関心があるのは総額であって、材木価格まで見る人はいない」
将太「ただ、林業がここまで地盤沈下すると立て直すのはやはり大変だと思う」
公平「そんなこといったら占部町の町おこし、お先真っ暗じゃないですか」
将太「簡単じゃないことをよく理解してあたる。その場合、大切なことはあせらない。結果を性急に求めないことだと思う。林業不況は40年以上続いている。何かすれば一気に変わることはあり得ない。落ち込んだ歳月と同じ歳月をかけて立て直す」

公平「町おこしプランは『林業を町の基幹産業と位置づけ、林業活性化の計画を持つ』としました」
将太「これまでは計画を持ってなかったからね」
公平「松本課長などはがんばっている」
将太「しかし町民は知らない。それじゃだめだ」
公平「・・・・・・・・・」
将太「ひそかな計画では、まわりからのチェツクがない。追求を恐れている」
公平「手厳しいですね」
将太「松本さんは占部町をなんとかしたいという気持ちを強く持っています。それは本当に感じる。だがなんとしてもやる本気度がない。がむしゃらにやっているとは見えない」
 少し前は公平が材木の余りに低い価格に怒っていたが今度は、将太も酒がすすんで口が軽くなり、あるいは公平に刺激されて松本課長批判を始めた。酒の中での話に意外と本音や問題の核心をつく話がでることがある。この夜、2人の話はそうだった。


住宅に使う木材の量と価格  連載小説129

2012年10月16日 | 第2部-小説
 公平「冨田さん、占部町の町おこしプランは林業振興ですよね」
将太「占部町の基幹産業は昔も今も林業だと思いますよ」
公平「わたしもそう思います。40年、50年前、わたしの祖父や両親たちが一生懸命植えた木がいま伐採の時期にきている。だが余り安値で売れば赤字。だが建売住宅の価格を見ていると80平米程度で2500万円前後、一時期と比べると価格は下がっていますが80平米の住宅に使う木材はどの程度だと思いますか」
将太「わたしもその計算をしました」
公平「そうでしたか」
将太「わたしが調べたところでは柱換算で90本でした。これを立ち木に換算すると30本です」

 公平「木造本建築の平均はそのようです。これを現在の原木売値で見ると24万円です。2500万円する家の土台と骨格になる木材の原価は24万円。この値段を国民は知っているんでしょうか」
 公平は憤りを露にして冨田に詰め寄るようにいった。
将太「24万円というのは産地の木材市場価格だと思います。材木店や工務店がここで丸太状態の木を買い、製材加工する。その運搬費や加工費を加えても建売住宅の価格にしめる用材価格は低い」
公平「知り合いに工務店がいます。そいつから聞くと大工の1日日当は2万円もない。交通費、昼食自分持ちでその値段。それに比べ、工業製品はすごい。工務店の知人に聞くと玄関ドア一枚60万~100万円です。上はいくらでもあるという世界です。50万円出すからヒノキで作ってくれといえば大変なものができます。ウォッシュレット・トイレの便座セット、12万円から16万円です。2セットで家1軒分の木材より高い」
 この話は将太が公平と「町おこしプラン」を練ったとき、公平から聞いた話であったが公平は今、初めて話するように将太にいった。よほど腹に据えかねているのだと思った。


町おこしはボトムアップ  連載小説128

2012年10月15日 | 第2部-小説
  公平「京香たちのやっているのを見ていると、彼らは生き生きしている。やつていることが生きるエネルギーになっているように思う。ああれはすごいと思う」
将太「町おこしの原点はあれだと思う。この店も飾らない気安さが人を惹きつけていると思うが京香さんたちも飾らないで話し合っている。だが話し合っている中味、やっていることはいつも占部町を良くする話」
公平「そうなんですよね。そのためにすごい時間を使っている」
将太「それがもっと多くの人に広がれば、これはすごいことになる」
公平「確かにそうですが・・・・」

 公平は猪口の酒をグイッと飲み干すと猪口をテーブルに置き、口を結んだ。そうはいうものの、それを成し遂げるのは至難の業だからだ。将太は公平の気持ちがわかった。
将太「こういう問題は頭で考えてもダメ。実践して築くしかない。住民は社員でもなんでもないんだから。みんな自由人だから」
公平「保守や革新の人もいる。そしてみんな一国一城の主」
将太「号令をかければ動く人じゃない。トップダウンではダメ」
公平「ボトムアップですね。町おこしは」
将太「住民主人公でなければ町おこしはできない。それを住民も行政も理解する」

画期的な行政改革  連載小説127

2012年10月13日 | 第2部-小説
  占部町の住民は今、将太が酒を飲む居酒屋の妻と比べると、ひっそりつつましく生きているように思う。そして寝込むことなくポックリ逝くことができたら幸せだと思っている人が多いと聞く。その心情を察すると占部町が好きなのだ。
 生まれ育った地は思い出がいっぱい詰まった箱庭なのだ。それがさびれるのは嬉しいことじゃない。良くなると嬉しいし自慢もしたくなる。日常会話の中で、町を自慢する。家を出た息子や娘、兄妹に町の近況を誇らしく知らせる。そんな町になって欲しい気持ちは町のすべての人が持っている。
 そしてその気持ちの中に、自分にできることがあれば多少でも役に立ちたい気持ちもある。そうした気持ちに応え、汲みつくす。「町おこし理念」とした。

公平はその「プラン」を持ってきていた。封筒から取り出すし「冨田さん、これは言うはやすし、されど行うは難しですね」
将太「たしかにこれは占部町では画期的な行政改革になると思います」
公平「抵抗があるのでは」
将太「だれが?」
公平「それは分かりませんか」
将太「新しいことをすると必ず抵抗はある。その場合、最も警戒すべき抵抗は様子見です」

公平「様子見とは」
将太「お手並み拝見です。指示があるまで何もしない」
公平「多いですね、そういう人が会社にもいます。でも結構、要領よく立ち回ります」
将太「そういう人は目立つところにいるでしょ」
公平「そうですね。そういわれるとそうです」
将太「町長と役場が気持に応え、汲みつくす対象は住民です。町長を先頭に役所の人間はすべて、目線を住民に置く。住民がどのように暮らしているのか。まずそれを知る。これをすべてのスタートにしなければいけない。太平さんはどう思いますか」

「町おこしプラン」の原点  連載小説126

2012年10月12日 | 第2部-小説
   松本に「占部町町おこしプラン」を送信した日の夕刻、将太は公平といっしょにJR目黒駅近くの居酒屋に入った。100を超す日本酒の銘柄がずらっと並び、カウンターに煮物、焼き物、揚げ物が30鉢ほど山盛りにある。客は目当ての酒と料理を注文する。
 人気の店だからカウンター席は開店直後に行かなければまず座れない。暖簾ごしに店内が見える。ドアに手をかけて店内を見るとカウンター席はやはり埋まっていた。
将太「この時間でもういっぱいだよ」
公平「テーブル席は?」
将太「空いている」
将太は公平の返事を聞く前に、入り口の引き戸を開けていた。
「いらっしゃい」
元気のいいが響いた。
「あら、久しぶりね」

  声をかけたのは店主の妻だった。もう70歳は超えていると思うのだが若々しい。一度来た客は絶対に覚えている。だれと来たかも知っている。注文を受け、料理を下げ、器を洗い、料理も作り、レジをこなす。夫が調理場から外に出た姿は見たことがない。
 太り気味で背丈は大きい。30年も以上昔、プロ野球の選手をしていたというが将太は現役時代の店主は知らない。無口で自分から話しかけることはしない。それでも客はなにかと話しかける。

店主は「ふん、ふん」とうなずき「そうだね」という。店主がいれ以外の言葉を出したことは聞いたことがない。決して客に反論しない。それがどの客にも心地よい。それに対して妻は社交的でつねに体を動かし、客とやりとりをしている。
 戸を開けて閉めない客がある時は「ドアは開けたら閉めるのよ」と大きな声で叱り飛ばす。すると客は恐れ入って「すみません」と謝り、恐る恐る「ここに座ってもいいですか」と聞く。
 そしてそれが縁でリピーターになる人が多いという。それはなぜか。飾りのない人間を感じるからではないかと将太は思う。

「町おこしプラン」では「飾りのない住民が町を誇る町おこし」のタイトルをつけた。原風景になったのは今、座って飲む、居酒屋に漂う空気だった。

議長派が決起集会  連載小説125

2012年10月11日 | 第2部-小説
  T町の視察から3日たった昼、将太の携帯電話がなった。松本課長からだった。車が走る音が電話口から聞こえる。庁舎から出た場所からかけているようだった。
松本「今、大丈夫ですか」
将太「ええ、何か」
松本「肥田派が決起集会をするようです」
将太「いよいよですね」
松本「ええ」
将太「それでわたしに何か」
松本「町おこし構想、概要で結構ですから、今週末に出していただけないかと」

将太「わかりました。でも急ですね」
松本「町長が早く見たいといっています。対策に使いたいようです」
将太「決起集会の」
松本「そうだと思います。今度も選挙になると結果を問わず町民間にシコリが残るのは避けられません」
将太「町長は選挙にならないように考えておられましたね」
松本「ええ」
将太「でも相手は、決起集会を開く」
松本「まだ内部の話で公になっていない話です」
将太「そんな情報が松本さんに入ってくるんだ」
松本「まあ、いろいろありますから」

将太「町長はどうされる積もりですか」
松本「それは、わたしもわかりませんが町おこしプランを知りたがっています」
将太「わかりました。急いでまとめます」
 将太はそれから3日間、公平と「占部町町おこしプラン」を練り上げ、6ページの本文と2ページの概要版にまとめると松本のメールに送信した。

木工団地の視察  連載小説124

2012年10月10日 | 第2部-小説
  将太と公平が東北のT町に視察をして得た収穫は沢山あった。1番の収穫は案内してくれた課長の林業振興にかける情熱だった。とにかく熱いと思った。しかし案内された木工団地を見た瞬間、これは占部町では無理だと思った。T町の木工団地は一朝一夕にできたのではない。苦い体験も経て、関係者の話し合いと挑戦があって今日があった。そして今現在、経営再建の途上だと聞いた。それは意外な事実だった。順風満帆ではなかったのだ。

 占部町は余りにも疲弊しきっている。前向きに取り組む人が余りにもいない。そんな中で50億円以上もかかる加工場をつくるのは現実的でないと思った。

 大滝町長は県が推進しようと提案した第3セクター構想を否定した。その理由は機械を操作する技術者がいないこと。販売ルートがない2点だった。
 機械を導入すれば製品ができるものではない。製品を作るのは機械ではない。機械操作を熟知した熟練技能者がいてこそ確かな製品をつくることができる。
 T町木工団地の理事長は「木は生き物だ」といった言葉は印象的だった。季節によって、日によって木は違い、採れた山によっても違う。人工乾燥をするとき含水率がほぼ等しいことが大切だし、ヤング率が等しい集成材をつくるためには原木の段階で目視で材のヤング率を見分けることができなければいけない。機械ができることは偉大だが木材を見て微調整ができなければ、規格品はつくれない。結局、いかに優れた技能者をかかえているか。確保しているかにつきる。

 公平は工場視察で大きな刺激を受けた。今、T町のような木工団地を作るのは下地がなく、無理だが不可能ではない。いつかT町のような木工団地をつくりたいといった。
将太「町長になれば夢を実現できる」
公平「T町でできて占部でできないことはない」
将太「そうですよ」

エコーモデルハウスの話し合い  連載小説123

2012年10月09日 | 第2部-小説
  エコーモデルハウスはまだ自由な話し合いの段階だから設計図はなかった。とにかく各自が自由に意見を出し合う。そうすれば自然と理想的な家が浮かび上がるのではないだろうかというのが京香の意見だった。これだったらだれでも参加できるということで貝田の会社、占部林業の事務所に集まって話し合っている。
 川上涼は一柳と同じように占部町にセカンドハウスで一年の大半を占部町で暮らしている男だった。住まいをマンションにしたのは台風と地震に強いからだといった。そして定年後、占部町にセカンドハウスを持ったのは緑いっぱいの中で晴耕雨読の生活にあこがれたこと。家は古民家に住みたいと思ったこと。電気とガスの生活でなく薪と炭の生活にあこがれてきた。住んで思ったのは、夏はいいとしても冬は隙間風が身にこたえ、マンションに戻った。冬も快適に暮らせる家づくりは必要だと強調した。

 これに対して一柳は「田舎の家はどうしても部屋数が多い。すべての部屋を暖房する必要はないので自分は家の半分の床を蓄熱にした。これで底冷えは解消、真冬でも素足で過ごしている」と語った。
 川上「その改良工事はどれぐらい」
「約250万円」
「そんなにするんじゃ、手がでない。石油ストーブをガンガン焚いてもお釣りがくる」

 川上の言葉に参加した一同の多くがうなずいた。金をかければいくらでも快適な家にすることができる。しかしそれができる人はそれほど多くない。手ごろな値段、手の届く費用でできないのかと思ったからだ。

 そんな空気を代表して京香は「一柳さんの家を一度見学させていだいたことがありますが、かなりおおがかりな仕掛けで、装置を稼動させるのに電気が必要だったと思いますが電気を使わないで蓄熱する方法はないのでしょうか」といつた。
一柳「自然蓄熱ができれば最高なんでしょうが、それじゃ商売にならない」
貝田「そうでもないでしょ。自然蓄熱も装置が必要だと思う。どうすれば自然蓄熱ができるのか。どういうものがあるのか調べよう」
京香「そうそう、それが必要だとわたしも思うわ」
 と話し合いが交わされているという。いわゆる建築家はいないが実際の生活体験に根ざしているのでとても勉強になると貝田は喜んでいた。