検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

「町おこしプラン」の原点  連載小説126

2012年10月12日 | 第2部-小説
   松本に「占部町町おこしプラン」を送信した日の夕刻、将太は公平といっしょにJR目黒駅近くの居酒屋に入った。100を超す日本酒の銘柄がずらっと並び、カウンターに煮物、焼き物、揚げ物が30鉢ほど山盛りにある。客は目当ての酒と料理を注文する。
 人気の店だからカウンター席は開店直後に行かなければまず座れない。暖簾ごしに店内が見える。ドアに手をかけて店内を見るとカウンター席はやはり埋まっていた。
将太「この時間でもういっぱいだよ」
公平「テーブル席は?」
将太「空いている」
将太は公平の返事を聞く前に、入り口の引き戸を開けていた。
「いらっしゃい」
元気のいいが響いた。
「あら、久しぶりね」

  声をかけたのは店主の妻だった。もう70歳は超えていると思うのだが若々しい。一度来た客は絶対に覚えている。だれと来たかも知っている。注文を受け、料理を下げ、器を洗い、料理も作り、レジをこなす。夫が調理場から外に出た姿は見たことがない。
 太り気味で背丈は大きい。30年も以上昔、プロ野球の選手をしていたというが将太は現役時代の店主は知らない。無口で自分から話しかけることはしない。それでも客はなにかと話しかける。

店主は「ふん、ふん」とうなずき「そうだね」という。店主がいれ以外の言葉を出したことは聞いたことがない。決して客に反論しない。それがどの客にも心地よい。それに対して妻は社交的でつねに体を動かし、客とやりとりをしている。
 戸を開けて閉めない客がある時は「ドアは開けたら閉めるのよ」と大きな声で叱り飛ばす。すると客は恐れ入って「すみません」と謝り、恐る恐る「ここに座ってもいいですか」と聞く。
 そしてそれが縁でリピーターになる人が多いという。それはなぜか。飾りのない人間を感じるからではないかと将太は思う。

「町おこしプラン」では「飾りのない住民が町を誇る町おこし」のタイトルをつけた。原風景になったのは今、座って飲む、居酒屋に漂う空気だった。