検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

森林組合長の胸の内  連載小説235

2013年02月28日 | 第2部-小説
 将太と公平は森林組合の棚橋組合長に貝田(占部林業)の紹介でこれまでに2度会い、林業の現状を教えてもらってきた。その棚橋が静かに話し始めた。
 わたしは林業がどうなっているのか。みなさんに知っていただきたいと思って立ちました。占部町は山の恵みを受けて栄えてきた町です。ですから人々は稼ぎを山に注いで子孫代々の繁栄を願い、山と共に生きてきました。
 その結果、山に立派なスギやヒノキが育っています。下草刈りや枝打ち、間伐の手入れをしてきたからですが知っていただきたいのはその一つひとつにお金がかかっているということです。

 昭和30年、40年代の頃は自伐といって、自分の山は自分で手入れをしていました。枝打ちした枝は薪として売れました。だが今、薪の需要はなくなり、木材価格は最盛期の半分以下の価格です。高齢化がすすみ、自分で山を手入れする人はいなくなりました。今、山の手入れは森林組合の組合員さんからの委託を受けて組合で計画的に行っています。ですから占部町の山は比較的きれいです。しかしそれでも最近、荒れた山が目だってきました。

 原因はいろいろあるかと思いますが手をかけるということはお金を使うということ。しかしお金をつぎ込んで将来、戻ってくるのか。その見通しがまったくない。ドブに金を捨てるようなものといったら言い過ぎかもわかりませんが山にお金を注ぐ意欲が起こらない。林業は国土保全の立場から国の監督・管理下に置かれ、市町村は窓口業務が少しあるだけ。それについてわたしたちは問題と思ってこなかった。
 国から補助金・助成金をいただくそれで喜んでいたと思います。だが林業経営はますます経営が成り立たなくなっている。どこに問題があったのか。時代の変化といわれるとだれも否定できないが私たちは困っている。

 少しでも現状を変える方法があれば教えて欲しい。林業をやる青年が現れ、この占部町で家庭を築く人が現れる。その希望がかなう道があるか。胸の内の構想でも結構です。今、考えておられることを
 お聞きかせいただけますか。


事業資金はどうする  連載小説234

2013年02月27日 | 第2部-小説
「資金はどうするのか。占部町の一番の問題は金です。なにしろトイレの穴も金がないといって修理もできない町ですよ。地域暖房は結構な話ですがそのお金はどうするのか。国や県から出してくれる約束でもあるのですか」
 
 最初に質問し男がまた会場から発言した。
「えっ、重ねて司会より会場のみなさまにお願いします。発言は勝手にされないようにお願いします。今、ご質問がありましたが他に、何か、ご質問はありますか」
 司会の竹下が進行整理をしたが後に続く質問はなかった。
「では、ただいまの質問について、大平さん。お願いします。また、町おこしたいの冨田さんからも補足がありましたらお願いします」

 竹下の進行を受けて公平がまずマイクを手にした。
資金の問題は確かに大きな問題ですがこの問題は資金から入るととても難しくなります。金の卵を産むニワトリでも現れない限り実現不可能。砂上の楼閣。夢物語になってしまいます。そうではなくそうした事業を展開できる技術があるのか。あるいは占部町に原料や資源があるのか。それをしっかり見極めるといいますか認識することだと考えます。実現できる技術やシステムがあり、事業化した場合、間違いなく利益が生まれる。その事業計画がしっかりしていれば資金調達は不可能ではないと考えます。
「冨田さんはいかがですか」

 公平が話し終えると司会の竹下が冨田に話をふった。
「わたしも大平さんと同じ考えです。昨年3月11日の東北大震災で福島第一原発で水素爆発が発生しました。まだ事故は収束していません。そして原発は絶対安全ではないことが分かり、原発でなく自然エネルギーで電力をまかなう世論が起こり、国も今年7月1日、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を実施しました。わたしたちはこの制度はまったく新しい情勢の変化だと思っています。この制度をおおいに利用すれば占部町の過疎化の進行を止め、活気に満ちた町にするのは夢じゃないと考えます。その意味でいま大平さんがおっしゃったお金から議論するのでなく今の技術、制度の中で何ができるのかを出し合う。その話し合いがとても大切だと思います」

「今、お2人から会場からのご質問に対する回答がありました。この問題についてさらに話し合いを深めたいと思います。この問題に関連して何かご質問はございませんか」
 言い終わると竹下は会場を見渡した。挙手する人が2人いた。
「はい、では後ろの席の方、どうぞ。もう一人お手を上げた方がおられますがこの質疑応答にあとご発言をお願いしますのでよろしくお願いします。それではどうぞ」
 立ったのは森林組合の棚橋組合長だった。

占部町では無理  連載小説233

2013年02月26日 | 第2部-小説
「以上のようなことでよろしいでしょうか」といって公平は話を終えた。
「ということは、公平さんは占部町で今、お話があったギュッシングとかでやられている地域暖房をしようとお考えなのですか」と再質問をした。
「いえ、ギュッシングでやっているような地域暖房をこの占部町でするのは無理だと思っています。しかしシステムを応用した地域暖房は占部町の町おこしに効果があると思います」
「それは具体的にはどういうことでしょうか」と最初に質問した男が立ち上がっていった。

「ちょっと待ってください。質問は他の方もあるかと思います。直接のやりとりをしないで質問は司会のわたしを通してください。ここで質問の整理をします。今の質問以外、何かご質問はありますか」と司会の竹下が交通整理をした。別の男が手を挙げ「今の話は町おこしがそれでできるということですか」と質問した。
司会・竹下「今のご質問は最初の方の質問と同じ内容だと思いますのでここで大平さんにお答、いただきます」

 公平は再びマイクを手にした。
 占部町でギュッシングと同じような地域暖房は無理だという理由はいくつか上げられます。1つは気象条件が違うということあちらの方の冬は占部町よりもはるかに厳しく、長い。占部町は寒いといっても現在の家の造りと暖房で冬を過ごすことができる。ということはどうしてもギュッシングのような地域暖房を必要としていないということです。しかしじゃ今のままで良いのかといえばやはり問題があります。その1つはヒートショックという問題です。これは何かというと日本の家は部屋によって温度差がありすぎるといわれています。例えば居間の温度とトイレや風呂の温度、廊下の温度が10℃以上も違う。これによって何が起こるかというと脳梗塞や心筋梗塞で倒れ、命を落とす高齢者が少なくないということです。命の問題であり、実は介護・医療費の問題でもあるのです。

 第2は、地形です。ご存知の通り、占部町は山間地です。標高差が大きいです。この高低差のため上水道もままなりません。地域暖房はパイプを張りめぐらし、お湯を届ける事業です。すべてのご家庭に届けるというのは無理です。しかし、例えば役所がある周辺での採用は十分、考えることができます。例えばさきほど占部町のガス・灯油代のお話をしましたがあの金額の内、占部町の行政関係で支払っているガス・灯油代は年間9,000万円です。幸い行政機関、学校、保育園や民間の事業所も役所周囲に集中しています。給湯配管をすみずみに張りめぐらした場合、延長距離は1km未満です。効率のよい地域暖房・給湯はできると考えます。

自然エネで町おこし  連載小説232

2013年02月25日 | 第2部-小説
 今のお話、まことにその通りだと思います。これまでの生活に何も不便を感じていない。わたしもそう思って暮らしてきました。ところがギュッシングに行って、さきほどもご紹介しましたがあそこの町が1番問題にしたのは暖房や給湯の燃料費でした。ギュッシングは森林が豊富にあることから暖房に薪を多くの人が使っていますが同時に天然ガスも普及しています。その天然ガス代を計算するとギュッシングで年間3500万ユーロも払っている。そしてこのお金は燃料販売店が手数料として受け取る以外、多くは産油国に消える。ものすごいお金がギュッシングから消えている。ここに気づくわけです。

 この占部町でも同じことが言えると思います。薪でメシを炊き、薪ストーブで暖を取り、お風呂を沸かしているご家庭はこの占部町にも多いと思いますが同時に石油ストーブも使っていると思います。
 今、節電がいわれていますが電気代とプロパン代、灯油代を比べるとプロパン代と灯油代の方が電気代より多いはずです。毎月支払いをするものですから案外、みなさん比較しないで払っている。銀行の自動引き落としになつているとますます気にしない。ところが計算すると電気代よりガス・灯油代の方が多いのです。このガス・灯油代にお支 払いになる料金、地元に残るのは燃料店が受け取るマージンだけです。

 占部町でガス・灯油代、年間いくらになるか調べました。世帯数は約1,500軒ですが1億5,000万円を払っています。
「オーオ」というどよめきが会場に起きた。
 この1億5,000万円の1割も占部町には落ちないと思います。残り1億3,500万円は占部町から逃げている。もしこのお金が占部町に落ちると、そのお金で買い物ができるわけですから占部町でお金が循環します。
 そういうことをギュッシングの新しい町長さんはお考えになりました。そして天然ガスに代るエネルギーとして町に豊富にある森林の活用と町内で操業していた木工加工場から大量に出る端材を使った地域暖房を始め、それが効を奏し、町は生まれ変わりました。

自然エネで町おこし、住民の質問  連載小説231

2013年02月23日 | 第2部-小説
 公平はパワーポイントを使って1時間、欧州視察報告と「占部町、町おこしの展望と課題」を講演した。小休憩のあと参加者の質問と話し合いが2時間半も予定されていた。議長派の思惑は質問攻めにして公平を立ち往生させるつもりだ。東京の機械メーカーに勤務していた人間に田舎のことなど分からない。1つ2つ質問すれば考えがいかに甘いかすぐ分かる。徹底して質問攻めにする積もりだということは情報で分かっていた。
 ただ司会は主催者の「占部町・町おこしたい」の竹下がした。

 竹下「それでは最初に太平さんの講演と報告について最初にご質問をおうかがいします。ご遠慮なくどうぞ、お願いします」
「ハイ」

 集会所の真ん中に座っていた男が手を上げていった。
「まことに結構なお話しでした。やはり世界は広いとつくづく感心しました。そしてよくそういうところがあることをお知りになって、行って見てこられた。大変なお金を使って」
 というと、パチパチと拍手が起きた。
「だが、お話を伺っていて思うのはです。地域暖房というものは結構だと思いますがこの占部町でそうしたものが欲しいと思う人はいるんでしょうか。子どもの頃、暖房といえば消し炭でした。練炭とかいうものが出回って、ずいぶん便利で暖かいものだと。それから比べると占部町の家はどこもずいぶんよくなりました。わたしは自分のことでいいますと今で十分だと満足しています。地域暖房とか少しも欲しいと思いません。困ってもいません。みなさんも同じじゃないでしょうか。それどころかそのために大変なお金が必要になるんじゃないですか。その辺り、どのようにお考えでしょうか」といって席に腰を下ろした。

「まことにごもっともなお話し、他にご質問はございますでしょうか」と司会がいうと「一つひとつ答えてもらおうよ」の声が会場から飛んだ。それは悪意を含んだ声だった。
「そうですか。ではそのようにします。大平さん、お願いします」
 司会の言葉を受けて公平はマイクを握った。

底力を見せた有力者 連載小説230

2013年02月22日 | 第2部-小説
  翌日の午後、将太は切手を買うため占部町の郵便局に車を走らせた。すると旧家の屋敷塀に貼り出されたポスターに目が止まった。公平の名前が目についたからだ。車をバックさせてポスターの前に止めた。
「ポスターがもう作られている」と驚いた。

 そして郵便局に向う途中、町の掲示板のほか矢張り旧家の板塀、商店のガラス戸に貼り出されたポスターがあった。その速さと貼り出された場所に驚いた。
 行政が影響下にある連絡網を使い、あるいは有力者が関係する傘下にポスター掲示の依頼をすると瞬く間に動きがつくられる。その伝達の早さと依頼の通り、行動する町民。上からの連絡は従順に従い、言われたことはいち早くやる。それは小さな山間地で生きていくため、住民が身につけた処世術の一つだったが、有力者が自分の力を実感する光景でもあった。

 しかしだれが作ったのか。公平の携帯に電話した。
「さきほど課長から電話があった」といった。
 松本課長が仕掛け、関係団体に下ろしたのだ。レールは敷かれた。当日はおそらく層々たる顔ぶれが姿を見せるに違いない。十分準備してかからねばいけない。やはり勝負どころだ。将太は報告会のポイントと流れをいくつか考えた。

逆風をチャンスにする  連載小説229

2013年02月21日 | 第2部-小説
「これはいいチャンスだよ」
  鍋をつつき、熱燗を飲んでみんながいい気分になったとき、顔をうっすら紅潮させた公平がいった。
 それまで話題は議長派のたくらみははっきりしている。要するに公平にしゃべらせてそんなとで占部町の町おこしはできない。任せられない。赤恥をみんなの前にかかせ、町政を任せられるのは経験豊富な議長しかない。大滝町長は2期務めたのだから穏便に後進に席を譲るのが筋。視察報告会はそのための舞台にしようとしているのだ。ということなど情勢分析に花が咲いていた中での発言だった。
 「そうだ。公平、これはチャンスだ」と松本が続いた。
 将太もそう思った。しかし松本の方が公平の言葉に反射的に反応したのに将太は「この男はできる」と感じた。

 視察報告会にどのような意図が秘められていようとも集まるのは町の有力者だ。町おこしにはその有力者の賛同と協力以上のものを勝ち得ないと推進することはできない。公平は町出身で町の人間ならだれもが知っている人間だが大学に入ると同時に町を出た人間だ。本当ならやる気十分の議長に町長をやらせるといい。ところが議長は余りにも個性が強い。とても町をまとめるのは無理だ。1番理想は松本博課長が良い。ところが松本はかたくなに断り、親友の公平を推薦した。

 いろいろな思惑が交差するなかで折衷案としてまとまったのが公平だったが有力者となじみはない。本来なら一軒一軒訪ね、ていねいに話し込んで賛同と協力を得なければいけないところだ。公平もその覚悟はしていた。そうしたところに視察報告会の舞台が用意され、町の有力者一同が集まる。
 ここでしっかり話をして理解してもらえば公平に対する評価を一気に変えることはできる。どういう人間かということもわかってもらえるし、同じ会合に同席した者同士になる。悪いことは何もない。
「町おこし構想を発表するいいチャンスだ」
「視察報告会が町おこし構想発表会か。これはいいや」
「しっかり話をして、分かってもらう」
「そうだよ。町おこし打ち上げ集会にしたらいいんだ」
  3人のテンションは上がった。

議長派が出してきた条件  連載小説228

2013年02月20日 | 第2部-小説
 現議長は11月の町長選挙に出る積もりだった。それに対して大滝町長は「占部町の将来は若い世代に任せよう。自分も降りるから議長も立候補をやめよう」と呼びかけ、町の有力者を根回しして、議長に立候補を断念させた。10月、有力者一堂のもとで公平を次期町長に推すことがまとまったのはこれまでに触れた通りだ。

 しかし議長はその後、有力長老に「公平さんは立派な人だが実のところどんな人かだれも知らない。もしも町長になってもらって、期待はずれとなると困る。そこで公平さんにこの占部町をどう蘇らせるのか。話をきかせてもらい。それでみんなも協力する。そういう話をざつくばらんに聞く場をもとうじゃないか。
 幸い町再生のため、オーストリア、ドイツに視察に行っておられる。物見遊山じゃないからその報告会を用意して、話をみんなで聞く。それで町長になってもらうというのはどうか」と話し込んだ。

「それは品定めのようで公平さんに失礼じゃないか」という人もあったらしい。また「議長の嫌がらせた」と大滝町長に知らせる人もいたが大滝町長は「それはいいことだ。大平さんが帰ってきたらご本人の都合を聞いた上ですがやっていただきましょう」といったらしい。
 大滝町長が話に筋が通っていれば、相手がだれであれ、意見を取り入れた。それが町民の信頼を集めていた。その町長のもとで公平に一言の相談もなく開催日と場所が決まったのは、議長派の窓口役をしている樽坂議員が間に入ったからだ。
「この日しか空いていない。この日にしてもらいたい」と日を決め、それ以外の変更は受け付けなかった。
「そんなこともあって急な開催になった。事情はそういうことだ」
 松本の話を聞いた将太がいった。

「3日後か」と公平が応えた。
「3日もあれば大丈夫だ」
 将太はこういうのは時間があれば良いというものではない。確かに準備時間は2日しかないが2日もあればまとめられる。だが都内の家に帰ったのでは準備ができない。
「太平さん、このまま泊まらせてくれますか」
「それは、大丈夫ですが奥さんがなんとおっしゃるか」
「大丈夫、大丈夫、電話をかければ何もいいません」
 将太はその場で自宅に電話した。
「分かったといっている」
 将太は携帯電話を仕舞うと「今日は飲みましょうか」といった。
 「じゃ、今日は私も泊めてもらおう。飲みましょう。お2人さん、長旅、ご苦労様でした」と松本が応じた。
 公平は立ち上がり、部屋を出ると「京香~」と妻を呼ぶ声を出して台所の方に向かっていった。

公平町長誕生、条件がつく  連載小説226

2013年02月19日 | 第2部-小説
  オーストリア、ドイツ視察を終えて、成田に到着すると松本博から公平に携帯電話が入った。
「時差ボケで疲れているだろうが、今夜、お前の家に行く。冨田さんもいっしょに来てほしい」
「わかった。でもちょっと待ってくれ、冨田さんの都合を聞くから」
公平は携帯を持ったまま、将太に「松本が今夜、話をしたいことがあるようだ、いっしょに来ていただけますか」
「それはいいが、このまま太平さんの家に直行ということですね」
「そうですね。一度家に帰るとそれから出かけるのは大変でしょうからいっしょにこのまま私の家へ」
「いいですよ。じゃそうしましょう」
「冨田さんはいいと言ってくれた。いっしょにこのまま帰るから」
何をそんなに急ぐ話があるのだろう。公平は松本にそれを聞こうとしたが松本は用件が済むと「じゃ」といって電話を切ったらしい。
「自分の用件だけ済ませたら電話を切った」

 公平は「勝手や奴だ」とつぶやくと携帯をポケットにしまい「すみませんね」と将太に謝った。
 11月に入って、陽が落ちるのは早い。特に占部町は山間地にあるので5時になると夕闇につつまれた。
松本が自分から指定した6時、公平の庭に車が入る音がした。
 「こんばんは、上がるよ」
 玄関から松本の声がしたかと思うと公平や将太がいる部屋に向ってくる足音がして、ふすまが開いた。ニコニコ顔の松本がそこにあつた。
「無投票当選だ」
「そうか」
 
 公平はつぶやくように応えた。顔は喜んでいない。それどころか緊張している気配だ。
 将太はいよいよ始まるか! と思った。
「ただ、1つ条件がついた」
「条件!」
「そうです。それについてこれから相談したい」
 松本はファイリングケースを取り出すと、将太と公平の2人に配った。
冒頭に「オーストリア、ドイツの視察報告会」と書いてあった。予定日は3日後だった。
 無投票当選の条件とこの視察報告会とどういう関係があるのか。将太たちがオーストリア、ドイツに行っている間に占部町の町長選挙をめぐっていろいろな動きが水面下であったようだ。

見えた占部町再生の鍵  連載小説225

2013年02月18日 | 第2部-小説
  フライアムト村では風力発電建設のため出資を募集すると期日前に募集枠がいっぱいになった。その理由は明瞭だった。
やはりこれまでの実績だ。配当が確実に実行されている。そしてその保証は国の再生可能エネルギーの「全量固定価格買取制度」だった。

 風力発電も太陽光発電も売電価格は消費する電力料金よりも高い。なかでも風力発電の発電量は太陽光発電よりも格段に多いから売電収益が高い。間違いのない確実な投資だ。こんなうまい話に参加しない手はない。庶民の単純明瞭な考えがフライアムト村民に根づいている。だから出資の呼びかけがあるとためらいなく投資する。
 日本の場合はどうだろうか。日本人は預金が圧倒的に多く、「投資」には警戒的だ。そして「フアンド」は印象が悪い。

「ファンド」のおいしい話にのって投資するとその話は架空だった。というたぐいが多い。実際、風力発電計画のファンド話に乗って投資したら架空の話。だまされ、大損した事件がニュースになっている。
 だから日本では銀行預金は限りなくゼロ金利でも預金する人が圧倒的に多い。国民のギリギリの生活防衛がある。日本の「全量固定価格買取制度」は7月1日から実施された。オーストリアよりも、ドイツよりも買取価格は高い。事業として十分成り立つ。安心して投資できる。
 フライアムトのような動きをつくることが占部町再生の鍵だと思った。