検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

放射能不検出の証明書を添付せよ  連載小説142

2012年10月31日 | 第2部-小説
  水道水に放射性ヨウ素が検出され、ミネラルウォーターが販売棚から消え、ガソリンスタンドでガソリンが買えなくなって大騒ぎをしていた頃、福島・いわき市の工場から緊急電話が入った。

 中国に駐在している営業担当者からの情報と要請だった。それは中国政府は日本から中国に輸出する製品すべてに放射能不検出の証明書を添付しなければ輸入を認めない処置を取ることを決めた。至急、証明書添付の手配をすべし。というものだった。

 電話を受けた営業部長は「そんな!」と絶句した。第一、会社に放射能検出測定器などない。さらに政府の証明書など聞いたことがない。営業部長はそそくさと社長室に向った。ほどなくして経済産業省天下りの野本一郎も社長室に入った。
 その後、緊急役員会が召集され、冨田将太は一件の報告を聞いた。正確な情報は野本が経済産業省から聞き取り、対策はその後にとることがなった。この報告を受けたとき、将太は風評被害は旅館や農作物、酪農や漁業にとどまらない問題だと始めて認識した。福島というだけで放射能に汚染されているとみられるのだ。

 「これは大変なことになった」と将太も思った。とにかく放射能測定器を手に入れることにして、パソコンで放射能測定器を打ち込んで製造・販売メーカーを探すと電話した。だがどこも予約でいっぱい、今、注文を受けても製品入荷は早くて8月頃だという。

ミネラル・ウォータが消える  連載小説141

2012年10月30日 | 第2部-小説
  福島原発が水素爆発をした10日後の3月21日から23日、関東一円に雨が降った。低気圧を伴ったナタネ梅雨の異名を持つ、冷たくシトシトと降る雨だった。23日夕方のテレビニュースを見ていた将太は東京都の浄水場から基準値を超える放射性ヨウ素が検出されたと知らせ、乳幼児に水道水を使うことを控えるようと注意した。
 「大変なことになった」と思った。福島原発から大気に放出された放射能が関東上空に吹き込んできたのだ。普通の人は関東は福島の西側にあたる。風は西から東に向かって吹くから福島の放射能は関東には吹き込まないと思っている。福島原発を報道する各社のニュースも一言もその危険性を言わない。しかしも福島原発は太平洋に向って立地している。しかも200キロメートルは離れている。
 安心していたのに浄水場から放射能が検出されたのだ。東京で検出されたのであれば将太が住む埼玉にも放射能は降り注いでいるに違いない。
 翌日、スーパーに行くと、飲料水販売の棚からミネラルウォーターは姿を消していた。次の日もその次の日もなかった。
 埼玉県はホームページで浄水場の放射性ヨウ素の数値を発表した。19日までは不検出だったが雨が降った20日から急激に増え、24日にピークに達し、72Bq/㎏を記録した。「ただちに健康に影響が及ぶ数値ではない」というが福島原発以前は検出したことがなかった。
 放射能は痛くも、かゆくもない。色もないし目に見えない。しかし生物に確実にダメージを与え、数十年後、ガン発症率は高い。

原発やめろ! 首相官邸前集会  連載小説140

2012年10月29日 | 第2部-小説
  将太「やはり直接参加してどういうものか知るだけでも意味があると思う」
公平「報道などとは違いますか」
将太「違うね。あなたは労働組合など知らないでしょ」
公平「まったく縁がないです。冨田さんは?」
将太「会社にも労働組合があってメーデーには赤旗をもって参加していた。わたしは執行部の1人だった」

公平「えっ、そうだったのですか、初めて聞きました」
将太「わたしの知っている集会というのはいつも労働組合など団体旗の旗が林立していた。参加者は組織動員された人たちだった。ところが首相官邸前集会の参加者はどうみても個人で参加している人たちばかりという感じです」
公平「ニュースを見ていてもそんな感じですね」
将太「集会は午後7時から始まるのですが始まるとすごい」
公平「何が?」
将太「みんないっせいにありったけの声で『原発いらない』と叫ぶ。それはすごい。メーデーのデモ行進に何回も参加したが声を出しているのはほんの少し。ほとんどの人は隣の人間とおしゃべりしている。そういうものとはまったく違う。真剣に叫んでいる。怒ってる。それも若い娘がいっぱい。およそ運動とは無縁と思うスタイルの娘が」
公平「子育てをしている人にとって放射能は大問題です」

妙な達観は権力の横暴を許す  連載小説139

2012年10月27日 | 第2部-小説
  将太「電力会社は地域独占企業でしょ。国民は電力会社を選べない。どんなに不満があっても料金を払わなければ、電気を止められる。それで裁判を起しても絶対勝つことはない。独占禁止法の地位濫用にあたると思うが独禁法違反容疑で国が動いた様子はなかった。国民は電力会社に完全に支配されている」
公平「冨田さんは電力会社に相当、頭にきていますね」
将太「あなたはこういうことをやられていた平気」
公平「平気ということではありませんが世の中、まあそんなものだろうと」
将太「そういうことではダメです。妙な達観は問題をうやむやにして結局、権力の横暴を許す」
公平「すみません」
将太「毎週金曜日、首相官邸前で原発やめろ!の集会が続いているでしょ」
公平「ええ」
将太「あれはすごいと思いませんか」
公平「一度、いきたいと思っています」
将太「わたしは3回いってるよ」
公平「ええ、そうなんですか」


地域独占企業の体質  連載小説138

2012年10月26日 | 第2部-小説
  将太「東北大震災が起きたとき、計画停電がやられた。そして電気料金値上げの発表があったでしょ」
公平「ええ。計画停電では会社も振り回された」
将太「電力料金の値上げの時はわたしは会社を退職していなかったから知らないがあれは値上げ通告だったでしょ」
将太「わたしのマンション管理組合にも通知がありましたが理由らしい理由はなかったよ」
将太「そうでしょ。だから力がある自治体や企業の中に値上げ前の料金は払うが値上げ分は払わないという不払い通告をしたところがあったが東京電力は送電停止をする気配を見せておどしたでしょ」

公平「マンション組合でも大問題になりました。確か文書は平成24 年4月1日より、これまでの電力量料金単価に加算単価を上乗せしたものを料金値上げ後の単価とすると書いてありました。それが一体いくらの値上げになるのかが分からない。営業の担当者に電話で聞いてもまだ決定してないのでお答えできないという。そんな馬鹿な値上げがあるかとだれもが怒っていました」
将太「値上げは燃料費の増加分としか書いていない。では具体的にどれだけ燃料費が上がったのか、その説明がない」
公平「あれで通ると思ったのでしょうかね」
将太「思ったからあんなことをしたのでしょ」
公平「確かに」

将太「おかしいという意見が次々とあがり、その中で値上げ内容も明らかになった。燃料費以外に福島原発事故の事故処理費も入れていた」
公平「役員報酬も高いまま維持しようとしていたようですね」
将太「電力会社は地域独占企業だからこわいものがない。君主のような感覚が滲みこんでいる。電力会社の給与は他産業と比べるとトップ水準だったでしょ。我々の会社ではとてももらえない年収です。あれだけの事故を起しても役員報酬は維持し、社員給与も例年通りのベースアップを織り込んでいたというのには驚いたね」
公平「それが明るみに出た途端、役員報酬は引き下げ、ベースアップも引っ込めたですね」

電力会社の支配  連載小説137

2012年10月25日 | 第2部-小説
  将太「それと本当に感じたのは帰宅困難者対策がまったくないとことですね。災害時の避難所はどこも住民が対象で住民以外は考えていない。もし出先で今回のような地震が発生すると行楽の人、仕事や所用できた人は相手にされない。都内だって大きなビルがいっぱいありますが災害時、シャッターを降ろし、関係者以外は入れない措置を取るに違いない。身内や関係者同士は助け合いや支援は手厚いがそうでない人間には冷たい。日本はそういう面が強いと思いませんか」

公平「自分の身は自分で守る。その上で身を守る術をもたない人をどう守るか。これは人の善意だけに頼るだけではダメでしょ」
将太「東北大震災のとき、電車が終日運行中止になるとはだれも思わなかった。だから早く帰宅することを会社としてすすめた。そしてわたしも帰宅難民者になった。もし家に帰れない場合、会社に戻れ!という指示があれは多くの者はそうした。これからの大震災対策はそうした対策が必要だね」
公平「それがすべての事業所に徹底できればいいですね。そうすると身の寄せどころがない旅行者や滞在者を保護する対策もとれる」

将太「それにしても、やはり電気がついているかついていないか。これは大きい。電気がついているとテレビ・ラジオで情報が分かる。炊事やトイレ、暖房が確保できる。電気がつかないと何もできない」
公平「今回の東北大震災で多くの人が生活に電気は欠かせないことを知らされましたね」
将太「それと同時に東京電力に完全に支配されていることも知った」
公平「支配されているとは?、どういうことですか」

電車は終日、運行中止  連載小説136

2012年10月24日 | 第2部-小説
  将太「福島・いわきの会社も大丈夫とわかったしね」
公平「そうでしたね。連絡が取れて無事とわかったときは拍手がおこりましたから」
将太「だが、そのあとまさか福島原発が爆発するとはだれもおもわなかった」
公平「あの日、何も知らないから電車が動くまで時間つぶしを居酒屋でした」
将太「何も知らないというのは恐ろしい。2、3時間もすれば電車は動くだろうと思ったからね」
公平「もう動いているだろうと思って店を出て駅に行くと駅前は人であふれていた。改札に『本日は終日、運行中止』の張り紙」

将太「あれにはまいったね。仕方ないからわたしはあのあと駅前のホテルに行った。するとドアに「本日は満室」の張り紙。別のホテルもそうだった。そこではじめて事態を知って」
公平「それで、お互い、延々と歩いた」
将太「わたしは自宅まで6時間歩いた。国道の歩道は両側とは人でいっぱい。だれもが黙々と歩いていた。1番困ったのはトイレだった。公衆トイレが一か所もなかった」
公平「どうしたのですか」
将太「あのとき、飲んだでしょ。トイレが近くなり、早めにしないとやばいことになると。だって空き地などまったくないのですから。コンビニと24時間営業の店があったのでそこを借りたので助かった。公的機関の誘導案内はいっさいなかったね」

公平「携帯電話がまったくつながらなかったでしょ」
将太「いったいどうなっているのか。情報がまったく分からない。ただ電気はついていたから歩道は明るかった。車はぎっしり。歩く方がはるかに早かった。非常時、車は役に立たないと思いましたね。それと火災がなかったから助かったと思う。あれで火災が発生していたら大変なことになっていたと思う。もし車が燃えたら国道は導火線になる。車がぎっしり渋滞しているのだから次々爆発する。あの渋滞は恐ろしいと思った」
公平「首都で直下型地震が起きたら、逃げ道がなく蒸し焼きになりますよ」
将太「自分が逃げる先がどうなっているのか分からない。火の海の方に逃げているかも分からない。分からないというのは本当にこわい」

東北大震災の発生  連載小説135

2012年10月23日 | 第2部-小説
  将太「そうだったね。あの地震の揺れは初めての体験だったね。ビルが大きく壊れ、この揺れじゃ家は倒壊しているかも知れないと思った」
公平「わたしもそうですよ。どこが震源地かわからないでしょ。八王子の息子たちは大丈夫か。占部町の実家は大丈夫か」
将太「地震が収まって、外に出た。すると強い余震が起こった。電柱がグラグラと揺れて」
公平「でも停電は起こらなかった。都バスも走っている」
将太「それで少し安心した。だが福島の工場が大変なことになっていたとはだれも思わなかった」
公平「びっくりしましたね。あのテレビには」
 ビルから退避し、1時間ほどたって事務所に戻り、テレビをつけると津波が沿岸地帯を襲っている映像が映っていた。だれもがその画面に釘付けになった。迫る津波に逃げる車、しかし津波は四方から迫り車はのみこまれた。
「アッ、ア・・・」
言葉にならない声が事務所を包んだ。テレビはつけっぱなしになった。テレビは被災の惨状を映し続けた。それは阪神淡路大震災の規模をはるかに上回るものだった。だが将太も公平も気持ちに余裕があった。電気がついていたこと。街の様子が普段と変わらなかったからだ。

電力の固定買取制度  連載小説134

2012年10月22日 | 第2部-小説
  将太「ところで」といって将太は内ポケットから一枚の紙を取り出して公平に見せた。
公平「7月1日から実施された電力の固定買取制度ですね」
将太「これまでの余剰電力買取でなく、事業として作った電力もすべて買い取る。ドイツは大きな実績を上げた」
公平「買取価格が決まる前から企業の事業参入発表がありましたね」
将太「企業はさすがに早い。固定買取制度は確実に収益があがるからこの制度を使った事業展開に虎視眈々だった」

公平「異業種の参入というか、あらゆる業種の企業が計画を打ち上げていますね」
将太「分野も太陽光発電だけでなく、風力、水力、地熱、バイオマスまで。企業だけでなく自治体で建設しているところもあります」
公平「風力発電では、洋上風力発電の実証試験も始まっている。まさに自然エネルギーが百花繚乱です」
将太「これに占部町はどう取り組むか」
公平「町おこしプランでは、町おこしの柱に位置づけている」
将太「そうです。位置づけた以上、具体的な取り組みにしなければいけない」
公平「ポイントは」
将太「エネルギーの自給自足で安心・安全な町、暮らしが豊かになる町じゃないですか」
公平「東北大震災、福島原発事故では停電が長期間、広範囲に発生して、東北電力、東京電力管内の地域は大変なことになりましたからね」

値段だけで買う人は減っている  連載小説133

2012年10月20日 | 第2部-小説
  将太「家を長持ちさせるかどうかは結露対策が十分できているかどうかだという」
公平「わたしは風呂場はいつも窓を開けている」
将太「そうそう、そうして湿気を逃がして乾燥させる。そうすれば木造建築の家でも根太が腐ることはない。住人も家を守る知識を身に付けて接することが大事。ところがこれができない人が多すぎる」
公平「それはいえますね」
将太「日本の気候・風土に合った建物としてお寺を見ると、木は長持ちするんだなあということが分かると思いませんか」

公平「そうですね。奈良の法隆寺に行ったことがありますがあの建物は世界最古の木造建築、築1500年も経っている」
将太「身近な神社やお寺の柱、数百年、風雪に打たれビクともしない。木はすごいよ」
公平「あと、耐震強度ですね」
将太「耐震強度は集成材か無垢かの材で決まるのでなく建て方だと思う。基礎をきちんとして、柱と梁や桁、筋交いを貫き工法を採用して建てれば、震度7の地震で家が倒壊することはあり得ない。手抜きをせずきちんと建てれば木造住宅は100年どころか200年でも300年たってもびくともしない」

公平「でも、木造住宅は地震に弱いと思っている人が多い」
将太「設計事務所は構造計算をして家を設計する。耐震強度も出すからその不安はないのでは?」
公平「建売住宅を値段だけ見て買う」
将太「そうですね。家の広さと値段で決める人が多いと聞く。でも大きな地震がかなり続いて発生しているでしょ。特に東北大震災後、耐震強度がどれほどあるのか。質問する人が増えていると聞くよ」

公平「家を広さと値段で買うのでなく、耐震強度がどうなのか」
将太「その質問はすべてのお客さんがするようだよ」
公平「値段、耐震強度、高気密、高断熱、それと環境にやさしいかどうか」
将太「そうしたものに応えることができなければ住宅受注はとれない」
公平「林業はそうした住宅ニーズの変化や多様性にどう応えているのでしょうか」
将太「そうだね。そのことについて占部林業の貝田さんにじっくりお話を聞きましょうか」
>(写真:京都・下賀茂神社)