検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

自然エネルギーの普及を妨げてきた政府と電力会社

2012年01月31日 | 原子力発電の再稼働

 上記表は平成14年に制定されたRPS法(「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」)に基づく新エネルギーの電力10社の受け入れ電力量です。
 RPS法は電気事業者に対して、販売電力量に応じて、新エネルギー(風力、太陽光、バイオマス、中小水力、地熱)で発電された電力の一定割合を買い取ることを義務付ける制度で、新エネルギーの導入と促進を図るのが趣旨です。ところが発足当初から主導権を電力会社が持つことを認め、買い取り価格は公開せず個別取引(相対取引)にしました。このため、買電価格は電力会社の言い値でしか売ることができませんでした。受け入れないと送電線に接続してもらえないので泣く泣く低価格を承諾するしかなかったのです。


 その買い取り価格は21年度で上記表の通りです。
いま、電源の発電コストが問題になっています。

 上図は2004年コスト等検討委員会が認定した電源別のモデルコストです。21年度のRPS法に基づく電力会社の買い取り価格を見ると、最高価格で7円、最低は2円、平均単価は3.9円です。モデルコストから見て、いかに低い単価で買い叩いていたかわかるかと思います。
 こんな不当な単価では事業になりません。新エネを普及するはずのRPS法は普及を阻害する法律になったのです。RPS法ができて新エネルギー(自然エネルギー)は冬の時代に入ったのです。


原発ゼロでも電力はまかなえる

2012年01月30日 | 原子力発電の再稼働
最大ピーク電力を何で確保するか
 上の図は、電気事業連合会HPの図です。1日のピーク電力を時間ごとに表しています。下図はドイツ人エネルギー問題専門家のマイケル・シュナイダー氏が講演で使用したノースカロライナ州の実測データに基づいた図(出所:原子力資料情報室)です。
 日本の図は政府と電力会社がこれまでめざしてきた途上の図と言ってよいでしょう。
下記図に原子力発電はありません。大きな役割を果たしているのは風力発電と太陽光発電です。
原子力発電と自然エネルギー、電源こそ違いますが共通しているのは最大ピーク電力の確保をになっていることです。

風力でピーク電力の確保
 電力の需要はこれまで見てきたとおり、昼と夜の時間帯で大きく違います。電力供給で一番の問題は昼間の最大ピーク電力の確保です。
 電気事業法は電力事業の認可条件として管内の電力需要を供給することを認可条件にしています。電力の供給ができなければ認可しない。この認可条件をクリアするため、あるいはそれを口実に電力会社は過大とも言える発電施設を巨費を投じて造ってきました。(これが日本の電気料金が高い原因)
 この問題は別稿を起こして触れるとして、話を戻します。

電力の出力調整に優れている揚水
 最大ピーク電力はコンピュータ管理で予想できますから電力会社はその予想に基づいて発電したり、稼動をとめる調整をこまめにします。
 原子力発電は調整ができません。原子力発電はひとたび稼動させるとその原子炉の出力(供給力)で発電し続けます。昼も夜も同じ量の電力を供給し続けるわけです。
 出力調整が一番優れているのは水力発電です。ゲートを開けて放水すればたちまち発電機が回って発電します。火力発電は燃料を炊いて蒸気を作り、その蒸気圧で発電機を稼動させますから時間がかかります。
 調整に優れている水力発電の中で、揚水発電がさらに優れているのは、水を「繰り返し使える」からです。
 夜間電力で下の貯水湖(池)の水を汲み上げ、昼間に発電するのが揚水発電です。ノースカロライナ州は夜間電力に風力発電を利用しています。日本は原子力発電を補完する施設の位置づけですから原子力発電が余剰になった時、稼動させることにしているので2009年度の稼動率は3%。活用はほぼゼロです。

(写真:稚内空港から見た宗谷岬の風車群57基)

原子力発電はなくても必要電力はまかなえる
 結局、原子力発電中心のエネルギー政策が宝の揚水発電を持ち腐れにしています。
このふたつを見比べたとき、大切なことは原子力発電がなくても必要電力をまかなっているところがある事実です。(問題は「量」だという声については、後に答えます)
 日本の政府や電力会社・財界は、「日本はエネルギーに乏しい国」を口癖のように言っています。乏しいのは「化石燃料」です。自然エネルギーに目を転じると日本は世界でも有数の恵まれた国です。(次回に続く)

揚水発電とは

2012年01月29日 | 原子力発電の再稼働
揚水(ようすい)発電は巨大な蓄電池
 
 揚水発電はイメジ図(九電HP)のように発電所をはさんで上流と下流に貯水湖(池)をつくり、夜間電力で下流貯水湖の水を上に汲み上げ、昼のピーク需要の時、放水して発電します。このため揚水発電は巨大な蓄電池とも言われます。しかも水は繰り返し使えますから一般水力のように渇水を心配することもありません。とても優秀なのです。
 ところが前号表の通り、一般水力より多い設備容量(出力)を持ちながら、稼働率はわずか3%です。
 これは日本の場合、揚水発電は原子力発電の余剰電力を吸収するための施設として、原子力発電所に先行して建設をしてきたからです。

下記図は現行の「エネルギー基本計画」(2010年決定)です。

 この「計画」は福島原発事故を受けて見直しの予定ですがこの「エネルギー基本計画」の目標は2030年度までに原子力発電を14基増やして、供給電力量を現在の30%から50%をめざ計画です。原子力発電がそこまでの容量を占めたとき、揚水発電は出番がきます。
 揚水の役割は電力需要の1日の推移と深く関係します。

 下記図は東京電力の昨年8月9日の時間帯別ピーク電力の推移です。

 1日の最低需要は5時台の2,793万kW、最大需要(ピーク需要)は4,817万kWですから1日の最低需要はピーク需要の57%です。一方、東京電力の原子力発電の認可供給力(福島第一原発事故前)は1,730万kWです。100%フル稼働しても8月9日の夜間電力の61%しか供給できません。残り39%は火力、水力などを稼動させてまかなっているわけです。
 このように原子力発電は1日を通して余剰電力はありません。すなわち揚水発電の水を汲み上げる余剰電力はないわけです。もし揚水発電を稼動させようとすると火力発電を新たに稼動させる(燃料を炊く)必要があります。わざわざ燃料を炊いてまで動かしたくない。これが日本の揚水発電の稼働率が低い真相です。
では、原子力発電が停止した状態、あるいは廃炉になると揚水発電は使い物にならないのか。そうではありません。現在から将来にかけて、揚水発電こそ電力需給の安定を確保する主役です。

次回、自然エネルギーをメインにした発電(外国)と原子力発電を中心にした(日本)の違い

原子力発電がゼロでも今年夏の電力はまかなえる

2012年01月27日 | 原子力発電の再稼働
はじめに
 「原発の再起動がなく、昨年の夏並みのピーク需要となった場合、約1割(▲9.2%、▲1,656万kW)のピーク不足」(「エネルギー・環境会議/電力需給に関する検討会合」今後の電力需給対策について・平成23年11月1日)するといいます。
 この出所は、関係大臣で構成する国家戦略の「エネルギー・環境会議」が昨年(23年)7月23日に決定した「当面のエネルギー需給安定対策」(下記図)です。

 そこで政府と電力会社の公表資料、有価証券報告書を整理(下記の表)すると▲1,656万kWのピーク不足は発生せず、269万3000kWの余裕があります。
 この余裕は、政府試算にない9電力会社以外の電気事業者の供給力と風力発電、太陽光発電を供給力に加えた結果です。供給力はこの他に、企業が持つ自家発電の余剰電力が約400万kWありますが、表1の試算には含んでいません。
 この結果、すべての原子力発電が停止しても今年夏、政府予想の電力はまかなえます。

(当試算の前提:合理的でかしこい節電や省エネの取り組みは必要)



政府の電気料金値上げ予想は過大

2012年01月25日 | 東京電力の値上げ問題
電気料金1,000円引き上げ」は過大、月270で収まる
 政府のエネルギー・環境会議は下記のイメージ図も使って、「原子力発電による発電量を火力で代替すれば電気料金が約2割、標準家庭で約1000円の引き上げになる」と言っています。

 最新の「電力調査統計」(2009年度)によると原子力発電は設備(供給力)4,623万kWを動かして年間2,800億kWhの電力を供給しています。政府試算はこのすべてを「火力発電でまかなえば」を基準にしているのですが政府が今夏に予想している最大不足電力は▼1,250万kWです。これは原子力発電の年間発電量2,800億kWh の27%ですから756億kwhです。
 ですから原子力発電が作ってきたこれまでの電力量をすべてまかなう必要はありません。
すると燃料代のコスト増加は756億kwhの範囲ですむわけですからこのすべてを電気料金に加 算しても政府試算の1,000円にはならず、270円で収まります。
政府の電気料金は、標準世帯で月1,000円になるという試算根拠は荒く、過大です。

東電の電気料金値上げに正当性はない

2012年01月24日 | 東京電力の値上げ問題
どうぶり勘定による大幅値上げは許されない
 東京電力は24年1月17日、50kW以上の電力契約をしている24万件の事業所に13.4%から18.1%の大幅な電力料金の値上げを4月から実施すると発表しました。今回の値上げは原子力発電が定期検査に入って以降、再稼動できなければ原子力発電が発電してきた電力をすべて火力発電で代替することになる。そうすると燃料費が増大するため、電気料金の値上げが必要というのが主な理由です。
 今回、値上対象は自由化部門であることから国の認可は必要とせず東京電力は今後、値上げを個別要請すると言っています。だが電力会社は地域独占体であるため、自由化部門とはいえ、日本の電力供給網は電力会社が独占していますので需要者は東京電力以外を選択することができないのが現状。そのため企業や事業所は不承不承、値上げを受け入れざるを得ないといわれています。

 東京電力はこの値上げを第一ステップとして今後、家庭を対象にした電力料金の値上げを国に申請する予定です。認可権を持つ経済産業省はこの値上げについて認める方向だと報道しています。
 もし東京電力が今回発表したような値上げがその通り実施されると経営が困難になる事業所が続出すると予想され、家計に占める電気料金の増大は即、生活を脅かします。政府と電力会社はそうした状態を作り出して、その中から原子力発電の再稼動を求める声が出てくるのを期待しているのは明らかです。
 だが政府と東京電力の資料と文書にもとづいて値上げ内容を詳細に検討すると燃料費や経費の見積もりが過大であることが分かりました。値上げは大幅に減額でき、原子力発電は再稼動しなくても電力はまかなえることも分かりました。

つじつまが合わない東電の値上げ資料
 東京電力の今回の値上げ説明資料を見ると燃料費等は、「火力燃料費、核燃料費、購入電力料など」であるとして説明しています。その金額は平成20年度から大幅に増加するため、発電単価が平成20年度の8円から24年度には11円22銭になると言っています。
 しかしこの数値はつじつまが合いません。まず第一点は販売電力量です。平成20年度2,956億kwhあった電力量は平成24年度は2720億kwhと約8%減少します。ところが燃料費等は平成20年度2兆3,656億円から平成24年度には3兆521億円に29%(6,865億円)も増えます。販売量は減って燃料費等は大幅に増加するということはまつたくつじつまが合いません。

 第2点は燃料費等の金額です。東京電力は今回の値上げは「燃料費などの増加分に関する見直しであり、それ以外の費用(損害賠償、廃炉に係る追加費用など)は含めておりません」と説明しています。一般に「燃料費」以外に増えた費用がある場合、その費用は燃料費より低いのが普通です。
 東京電力の20年度有価証券報告書に記載されている火力発電のための燃料費(石炭、燃料油、ガス)は1兆4,329億円です。ところが値上げの説明に使っている「燃料費等」は燃料費1.6倍の2兆3,656億円です。平成20年度の営業費用で計上している火力発電費2兆3,753億円(汽力発電費、内燃力発電費)に近似した金額です。「燃料費」としては金額がケタ外れに水ぶくれしています。
 結局、東京電力の燃料単価計算は販売電力量を少なくする一方、「燃料費等」をより多く増やしてみかけのコストを上げています。

 第3点は、「燃料費等」は平成20年度の2兆3,656億円から平成24年に3兆521億円に6,865億円も増加すると見込んでいる点です。東京電力が平成22年度、原子力発電で作り出した発電電力量は838億4500万kwhです。この稼動にかかった運転費用(燃料費、人件費などすべての経費を含む)は5,186億2900万円です。そうすると6,865億円は22年度の原子力発電の発電実績をも上回る稼動を想定したものだといえます。しかしこれは現状をまつたく無視した空想的な稼動率です。

 福島第1原発(6基)は廃炉が決まっています。第2原発(4基)の稼動も不可能といわれています。10基の原子炉が稼動停止すればその分の運転費用は少なくなります。ところが値上げ理由の「燃料費等」はすべての原子力発電が稼動していた時よりも大幅に増えると想定しています。これはどう考えても、どこでそれだけの費用がかかるのか分かりません。東京電力はあくまで原子力発電を電力供給の中核にした電力事業に固執しています。

 今回の電気料金値上げも原子力発電に固執した事業展開のためであるとしたら福島第一原発事故を起こした反省はみじんもないということになります。
取り返しのつかない原発事故を発生させた反省はみじんも見せず、これまでみてきた通りの過大な見積もりによる電気料金値上げに正当性はありません。13.4%から18.1%の料金値上げは中小企業の経営を窮地に追い込む打撃的なものです。これほどの値上げをする理由として東京電力の説明は根拠がきわめて不透明で一方的です。まずは今回の値上げ発表を撤回して、だれもがなっとくできる説明をする姿勢に立つのが先決です。

大谷国夫:NPO法人「中小企業・地域振興センター」研究員/(当ブログは個人ブログです。NPO法人の考え、見解を述べたものではありません)