検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

提携融資のカラクリ 連載小説278

2013年04月30日 | 第2部-小説
「悪い話ではないように思いますが東方信金さんはどこで儲けるのですか」
 将太はずばり片桐に質問した。
「サン・アンド・アースからです」
 片桐は隠さず、カラクリを答えた。
「片桐さんのお話を聞いて、恐らくそういうことだろうと思いました。私が今日、お伺いした用件、決まったことでなくできるかどうか検討するためのものということでお聞きいただきたいのですが」
「はい、心得ました。で、何をやろうとなさっているのですか」
 片桐はすっかり銀行支店長の顔になっていた。

信用金庫の誘い 連載小説277

2013年04月26日 | 第2部-小説
「先ほどご案内いたしました太陽光発電の融資は一般融資ですがこれとは別に提携融資があります」
「提携というのは」
「太陽光パネル会社、サン・アンド・アースをご存知ですか?」
「最近、家電量販店が提携して販売している太陽光パネルの会社ですね」
「その企業です」
「設置費込みで4kW、190万円が売り出している。」
「よくご存知ですね」

「一応、情報収集をしていますから。だがその会社パネルはOEMのように思いますが」
「その通りです。台湾のパネルメーカーに製造委託しています」
「サン・アンド・アースは日本企業ですか」
「日本企業です。建築資材総合販売のコロニという会社はご存知ですか」
「国道沿いに展開している建築金物総合販売店でしょ」

「その会社コロニが太陽光パネルを販売するために昨年立ち上げたのがサン・アンド・アースです。実はコロニはこの山梨県が発祥の地で私どもの東方信金とは創業以来の取り引きがあります」と言った片桐支店長の顔は誇らしげだった。
 融資をした企業が成長するのは嬉しいものだ。その会社がさらに事業拡大をするための事業資金を東方信金にしてきた。事業は政府が買取価格、買取期間を国民に確約している太陽光パネルの販売だった。

 東方信金はコロニの販売網に乗せることで太陽光発電設置の注文を得ることはできると読んで融資を決定した。その時、1つの条件があった。
 顧客の支払いは全額即金払いと3年間のローン払いのいずれかを選択する。全額即金払いもローン支払いも金額は同じ。ようするにローンにしても金利はゼロだという。この説明を受けるとほとんどの人がローン契約をする。
 それが片桐支店長のいう「提携融資」だった。役所で利用してもらえないかと言った。しかし将太は首をたてに振らなかった。

信金のチラシ 連載小説276

2013年04月25日 | 第2部-小説
「よろしいですか?私の方からお話をさせていただいて」
「どうぞ、どうぞ」
 将太のすすめに片桐支店長は棚の封筒を取り寄せ、封書の中に入っているものを取り出した。1枚のチラシだった。
「これはこれから売り出そうと考えている私どもの商品です」
チラシには「応援します。太陽光発電。いまがチャンス」と書かれ、庭付き家の屋根に太陽光発電パネルが乗ったイラストが描かれていた。
「これは?」

「太陽光発電設置の融資です。私どもの信金が県で初めて売り出す商品です。これをぜひ利用していただきたい。冨田さんの自然エネルギー普及推進室の片隅に置かせていただく方法はありませんか?」
「さて、それはどうなるのか、私も役所の決まりがよく分かりませんから相談してご連絡するようにしたいと思いますが、いかがですか」
「ありがとうございます。ぜひ、お願いします」

「それにしても東方信金さんはなかなか熱心ですね。家庭用太陽光パネル設置の融資は小口でしょ。もうけよりかかる経費が多いのじゃないですか」
「そのようにおっしゃっていただけるとありがたいです。この不景気でしょ。信金全体として新規融資申し込みがなかなかございません。私どものこの支店は特に業績が最下位でございまして、いつ閉鎖されてもおかしくない。しかし役所の公金関係窓口をやらせていただいていますので閉めることはできない」

「こちらが店舗を出していただいていることでどれほど町民が助かっているか。もしお宅が閉店すると金融機関ゼロの町になりますから。残ってもらわないと困るお店です」
「地域に貢献するのが信金の理念ですからがんばっていますが私どもも私企業、奉仕だけでは持ちません。儲けを出ないとさない。いや、これは冨田さんに内部事情をついこぼしてしまいました。すみません」

「いや、謝られることはないですよ。私は以前勤めていた会社で経営陣のはしくれをしていたので銀行さんとの付き合いがいかに大切か、特に、私が勤めていた会社は中小企業でしたから信金さんとはお付き合いしてきたので、よく分かります」
「そうですか、それはありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。もうひとつお話しさせていただいてよろしいですか?」
片桐は将太の顔を覗き込むようにして言った。


信用金庫訪問 連載小説275

2013年04月24日 | 第2部-小説
 「自然エネルギー推進室」室長、将太は満開の白梅が放つ甘酸っぱい薫りただよう頃、信用金庫をたずねていた。訪問はあらかじめ連絡をしてあった。約束の時間きっかりに訪問するとすでに顔なじみになった東方信用金庫占部支店の片桐支店長は「やあ、お疲れ様です。どうぞ、どうぞこちらへ」と満面の笑顔で接客用ソファに案内した。若い行員が気の利いた湯飲みを盆に載せて入ってきた。

「室長さんは、太陽光発電の普及にずいぶん精力的にまわっておられますね。ご苦労様です」
 自分から話を切り出すのは商人の鉄則だ。片桐は体にピシッと合ったスーツは誂えたものだと一見して分かった。
「私のこと、噂になっていますか?」
「みなさん感心していますよ。熱心だって」
「それはありがとうございます」
「もうどれほどご訪問されているんですか?」
「ほぼ30軒ほどでしょうか」
「30軒もですか。それはすごい。一ヶ月足らずでしょ」
「そうですね。大体、そんなものですね」
「太陽光パネルが急に増えましたからね。ビックリしています」
「増えたと分かりますか」
「それは分かりますよ。車で走っていたら、ここにもある。そんな感じです」
「今日、お伺いしたのはその太陽光パネルの普及について、ぜひご検討していただきたいことがあってお伺いしました」

 将太が来訪の用件を切り出すと片桐支店長は「実は、私の方からもご検討していただきたいことがありまして。冨田さんをお訪ねさせていただこうかと思っていたところです」
「私にですか」
「ええ」
「どういうことで?そのお話を先にお伺いしましょうか」

目的は町おこし、町民所得を増やすこと 連載小説274

2013年04月23日 | 第2部-小説
 「なぜ、こうしてお邪魔して太陽光発電を設置して欲しいとお願いしているか。設置していただくことで確実に町おこしになることと、町民所得が増えるからです。そして町財政もうるおうからですよ」と大平町長は訪問先で、判を押したように必ず説明する。
 この説明をうっかり忘れると、太陽光発電のセールスに回っているように言い触らされる恐れがある。それほど用心していても庁舎で出会った議員の1人から「町長もセールスで忙しいのう」とニヤニヤ笑いながらいうのがいた。
将太は町長に「話題になるほど知れ渡ってきたと思いましょう」と気にしないように言った。

 何度か回を重ねるとさほど説明しなくとも相手の方から「こういうことが町おこしになるのかね」と言う人も現れるようになった。
 松本課長から出された訪問名簿は37人いた。その全員を訪問し終えたのは3月議会が始まる直前だった。その頃には11人が太陽光発電を自宅屋根や倉庫の屋根、空き地に設置した。だれもが10kW以上の出力で最大は60kWを建設した人がいた。町の風景に太陽光発電が目につくようになった。
 将太は設置した人をこまめに回るようにしていた。

「どうですか調子は」
「順調に発電しているよ。昨日は雪が降ったでしょ。雪が積もると正直だね。発電が悪くなる。だから箒で雪下ろしをした。朝から大働きだ!」
 そういう声は明るく、軽やかだった。
また「もうちょっと増やそうと考えている」という人もいた。

 取り付けて見ると思っていたより売電収入が見込めることが分かり、これだったら空いている土地があるのでそこにも建てようと考えているという。
 都会に隣接していると空き地は自動車駐車場にすれば収入が生まれるが占部町のような寒村ではそれは望めない。空き地はいつまでの空き地のままだった。その空き地が金を生むようになったのだ。

「いいものを教えてもらって、ばあさんも喜んでいるよ」と喜ばれることもあった。
 しかし、1回の訪問で趣旨に賛同し、設置してくれた人はお金に余裕がある人だ。これまでの設置は目標の1割にも満たない。爆発的な普及をさせる必要がある。そして懸案になっている問題があった。庁舎と町の公共建物に太陽光発電設置をすることだ。そのためには設置費を工面する必要がある。町にはお金がない。第一弾の反響を踏まえ、 将太は次の作戦を考えた


疑惑を抱かせない 連載小説273

2013年04月22日 | 第2部-小説
 それは物の販売、取り引きに関係すると必ずバックマージンや利益誘導の話がつきまとう。太陽光発電の普及を個別訪問までしてすすめると間違いなくへんな噂を立てられ恐れがある。松本副町長はそれを恐れ、個別訪問することはやるべきではないと言った。しかしそれでは町民の力を得ることができない。やはり直接、ひざ詰めでお願いしよう。松本副町長の恐れることは十分理解できるので特定のメーカー名はたとえ、相手から求められても言わない。どこの太陽光発電を取り付けるかはあくまでご本人が考えていただきたい。ただしすべてのメーカーのカタログは町の「自然エネルギー普及推進室」に揃えているので参考にしてください。そして必ず説明することがあった。

計算が速い金持ち 連載小説272

2013年04月20日 | 第2部-小説
「余剰電力って何んですか」
「太陽光発電で100kwh発電をしたと仮定した時、家で電気を使った消費電力が仮に60kWhあったとすると、60kWhは通常通り、電力会社は請求する。これは払わなければいけない。そして消費しなかった40kWhは余剰電力と呼ばれ、これが固定価格買取制度の価格で電力会社は買い取ります」

「家庭の電力料金はいくらですか。そして固定価格買取制度ですか、その買取価格はいくらですか」
 住民のほとんどが聞く。
「電力料金は基本料金と使用電力量の2つで決まるのでご家庭によって違いますが平均的には1kwhあたり約22円です。固定価格買取制度の場合は10kW未満と10kW以上も同じ価格で1kwhあたり42円です」
 この説明をするとほとんどの人が考え込み「それじゃ10kW以上が得ですね」と言う。

「そうなりますね」と将太は相手に賛同の意を伝えながら、金持ちは計算が速いと感心した。
 この訪問活動で町長と将太は注意していたことがあった。

太陽光発電普及に町長、歩く 連載小説271

2013年04月19日 | 第2部-小説
 一方、町長は町長当選以来、時間を作っては町内の資産家訪問に精力を費やしていた。対話と訪問を提案したのは将太だった。町に太陽光発電設置の力がなければ占部町の資産家に協力を求めよう。誠意をもって当たれば応えてくれる資産家はいるはず。昨年7月1日に実施された再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)とはどういうものか、知らない人が圧倒的に多い。

 資産家にはこれは投資としても安心、確実であることを知ってもらい。それによって占部町は電力自給の町を作ることができる。町づくり、町おこしにぜひ協力して欲しい。頭を下げ、丁寧に説明しようとすすめた。
 町長になった公平は2つ返事で「それはいい、やりましょう」と賛同した。訪問先リストは松本副町長が手配して作成した。
「折り入って、相談したいことがあります」
 町長みずからが電話して約束を取り付け、訪問した。

 随行したのは「占部町自然エネルギー普及推進室・室長」の冨田将太だった。将太は「固定価格買取制度」の一覧表と太陽光発電設置費用の最新情報と占部町の月別日照時間、出力5kWと12kWの年間発電量と売電予想電力量と収入見込みなどをまとめた資料を携えた。

 将太は「これは国が責任をもって実施している制度。出力が10kW未満の場合、余剰電力が10年売電でき、10kW以上の場合は全量、20年間、この価格で売電できる」と説明した。その説明は誇張でも控え目でもない。政府の制度をそのまま正確に説明している。ところが説明を受けたほとんどの人は聞き返す。

電力料金勉強会の計画 連載小説270

2013年04月18日 | 第2部-小説
 将太も役場はお金がないのをよく分かっていた。何をするにもお金が必要だし、お金がかかった。電気、ガス、燃料費の多いのにびっくりした。なかでも電力料金が高かった。どうしてこんなに高いのか。松本が聞いたことがある。

「最近は節電をかなりうるさくしているので電力料金は最盛期の3分の2ほどになっている。だが基本契約はどうにもならない」
「基本契約とは?」
「すべての電灯、すべての機器を稼動させた時の電力が基本契約電力になっている。この基本料金は使用電力料金と関係がない。例えば夏休み、学校はほとんど電気は使わないが基本料金は払わなければいけない。節電も限度があるんですよ」
と説明したことがある。

「なるほど、それは知らなかったなあ」
「でしょ。そうした問題は町民のみなさんにお話する機会がなかった。しかし自然エネルギー推進協議会が出来れば、ごく基本的にことも勉強してもらいたい」
「今、松本さんがおっしゃった勉強、これはどんな時も必要です。特に今回のように新しいことをする場合は特に必要です」

「まず、みなさんに勉強をしていただく。冨田さん、その計画を作っていただけませんか。私は協議会発足案を作り、次回議会で承認をとるようにします」

自然エネルギーを利用し、低炭素化社会を推進する会 連載小説269

2013年04月17日 | 第2部-小説
 推進母体の活動目的は何か。その話になったとき松本は「自然エネルギーを推進するのが目的ですね」と、言った。
「そうですね・・・・」

 将太は2つ返事で賛意の言葉を口にしたが、いや、そういうことでいいのかな?と疑問が頭をよぎった。言葉が止まって考える様子を見せた将太は松本は「推進するのが目的じゃだめなのか」と不満気に質問した。
「推進するのが確かに目的ではある。それはそうだが・・・・。メンバーは例えばどういう人たちになる?」
「メンバー?」
「そう、メンバーです。例えばこれまでのことで言えば、どういう方たちがメンバーになっている?。各種委員会とか協議会は」
「町の区長や各種組織・団体の中から、こちらからお願いしたり、推薦をしてもらって委員になっていただいている」

「そうですか、その方々では推進母体にはならないでしょ。私が思うのはそういう名誉職のような方々でなく、実際に自然エネルギーを始めたい、広げたいと思っている人たちです」
「それは理想として、それはいいと思いますよ。でもそんな人、いますか?」
「いるじゃないですか、太陽光発電を始めた人、始めたいと思っている人。それ以外に節電や省エネにこだわっている人。あるいはスローライフを志している方々とか」
「そこまで対象を広げるとメンバーが多くなって、大変ですよ」
「広げ過ぎですか」
「ええ、せいぜい10人程度にしないと」

 2人の話は広がったり、縮んだりしながら推進母体は意見を述べるだけでなく、推進のための活動に参加する。1人ひとりに仕事をしてもらうことにしょうと確認した。