波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

私、元気もらっちゃった

2012-12-14 07:36:59 | 超短編





☆ 私、元気もらっちゃった


彼は疲れていたから、人通りを避け、路地から路地へと抜けていった。たまに車道にぶ

つかると、習慣から左右を確認して渡る。車道を渡ると、また路地になる。そこを七、

八十メートル進むと、前から姿のいい茶のぶち猫が、よろめくようにして歩いてきた。

生まれて半年も経ったか経たないくらいの、中っ子猫。よほど疲れているようだったか

ら、慰めてやろうと、手をかざして優しく呼んだ。彼は自分も疲れていたから、そんな

気持ちになったのだ。

猫は誘いに乗って寄ってくる。しかし寄添う寸前、別の力が働いて彼から離れ、それか

らは歩みを跳躍に変えて、ぴょんぴょんと跳ねていく。

そこで車道にぶつかる。猫はそこも一気に跳ねて渡り、歩道に出ると、気を抜いて体を

横向きにし、彼のほうを振り返った。

やっぱり悪い人じゃなかったよ、あの人。私、元気もらっちゃった。

                            了










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