☆ 私、元気もらっちゃった
彼は疲れていたから、人通りを避け、路地から路地へと抜けていった。たまに車道にぶ
つかると、習慣から左右を確認して渡る。車道を渡ると、また路地になる。そこを七、
八十メートル進むと、前から姿のいい茶のぶち猫が、よろめくようにして歩いてきた。
生まれて半年も経ったか経たないくらいの、中っ子猫。よほど疲れているようだったか
ら、慰めてやろうと、手をかざして優しく呼んだ。彼は自分も疲れていたから、そんな
気持ちになったのだ。
猫は誘いに乗って寄ってくる。しかし寄添う寸前、別の力が働いて彼から離れ、それか
らは歩みを跳躍に変えて、ぴょんぴょんと跳ねていく。
そこで車道にぶつかる。猫はそこも一気に跳ねて渡り、歩道に出ると、気を抜いて体を
横向きにし、彼のほうを振り返った。
やっぱり悪い人じゃなかったよ、あの人。私、元気もらっちゃった。
了
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