航空管制の科学(2007年11月3日)
書名は「航空管制の科学」であるが、「さいら」は「航空管制官の仕事」として読んだ。著者にはそう言う読み方は不本意であろうが、そう読んで、充分楽しめた本である。
第1部の「航空機を管制する」では実際の管制業務を実況中継に近い形で現場の話を中心にして、進んでいく。実は「さいら」は関空開港直前に管制施設を見学したことが有る。
一つは管制塔。此処は確かに見晴らしが良い場所で如何にも管制の仕事場である。
もう一つは、薄暗い部屋の中で十台ほどのオレンジ色の画面のレーダーが設置されていた。多分、そこは、この本に出て来る「ターミナルレーダー管制所」である。管制塔以外の管制はレーダー管制である。レーダーと交信。この二つが管制手段の大部分を占める。何故二つの管制所が必要であるのか?良く分からなかった。管制業務は集中管理されていると考えていた。
まずその疑問にこの本は答えてくれた。管制空域の性格(航空路とか飛行場とか)が異なるために、管制所から管制所へ「ハンドオフ」されて行くのである。「ハンドオフ」は「手渡し」という意味で、アメフトから出ている様だ。
本書は千歳空港の管制業務を中心にして進んでいく。例えば、千歳空港から羽田空港への飛行は次の様に幾つかの管制所をハンドオフして管制が行われる。
最初に挿絵入りで、この全体の飛行の流れとそれぞれの管制所の役割を描いているのが、本書を読んでいく上で、後々、参考になる。 千歳は北海道最大の空港であるだけでなく、自衛隊の飛行場でもあり、それが管制業務を複雑にし、一層の臨場感がある。
演習のための自衛隊機の離発着、演習用の空域設定、スクランブルの緊急離陸や天候急変による緊急帰投。定期便だけでない千歳の故に管制官の判断が取り分け難しい。千歳をモデルにされた所以であろう。千歳での管制の状況を、それぞれの管制官とパイロットとの通信を再現しながら、場面・場面で臨場感一杯に述べられて行く。
「さいら」が日本語しか分からない。そう言う読者のために、通常の交信の英語とそれを翻訳した日本語で進められていく。
その中でも、最も複雑そうに見えたのが、あっちこっちから着陸を求めて、間もなく着陸態勢に入る飛行機に「安全な間隔(時間差)」を作り、「整列」させる管制業務である。フィダー管制と言う。管制対象の飛行機の性能(航法、速度、旋回能力など)が異なるために、レーダー機影の順番という訳にも行かない。それぞれの飛行機の性能、安全な飛行間隔、最も効率がよい滑走路の利用等を考えながら、管制している数機を旋回させることにより、待機させ、時間差を作り、着陸の順番を瞬時に付けて行く。空中では「止まることが出来ない」飛行機の特殊性である。それを、レーダー画面とパイロットとの交信で、的確に裁いていく。多分管制官は、緊張の連続であろう。その感じが漂ってくる。
2部の「空域を探求する」で、飛行機が飛んでいる空の現状を技術面・法制面・経済面から記述されている。ここは、前部の「航空機を管制する」の余韻が残っていて、内容は難しいのだろうが、なるほどと素人でも理解できる。
実は「さいら」は航空管制上の判断は全て電算機がやればよいと考えていた。それは全く不可能ではない。むしろ電算機が最も得意とする「多くの条件下での最適解」を瞬時に求める分野ではないかと考えていた。 その疑問にも答えてくれた。その方面の研究は進められているが、「緊急事態」や「人間の能力を超えたコンピュータ処理は簡単には手動に切り替えられない」と言うことである。納得である。
管制は「ハンドオフ」のチェーンである。陸上のリレーで最も大きな失敗はバトンの受け渡しである。このハンドオフが旨く行くためには、管制官一人の責任でなく、管制体制が課題になってくる。この本では著者の断りもあるが、管制官と管制官の会話、それを支援する職の方々との会話が殆どない。本当は、そこも重要なのではないかと「さいら」は考えている。hand in handで管制されることを祈って感想文を終える。
書籍のデータ
書名:航空管制の科学
叢書名:ブルーバックス
著者:園山耕司
発行所:(株)講談社
発行年月日:2003年1月20日 第1刷発行
書名は「航空管制の科学」であるが、「さいら」は「航空管制官の仕事」として読んだ。著者にはそう言う読み方は不本意であろうが、そう読んで、充分楽しめた本である。
第1部の「航空機を管制する」では実際の管制業務を実況中継に近い形で現場の話を中心にして、進んでいく。実は「さいら」は関空開港直前に管制施設を見学したことが有る。
一つは管制塔。此処は確かに見晴らしが良い場所で如何にも管制の仕事場である。
もう一つは、薄暗い部屋の中で十台ほどのオレンジ色の画面のレーダーが設置されていた。多分、そこは、この本に出て来る「ターミナルレーダー管制所」である。管制塔以外の管制はレーダー管制である。レーダーと交信。この二つが管制手段の大部分を占める。何故二つの管制所が必要であるのか?良く分からなかった。管制業務は集中管理されていると考えていた。
まずその疑問にこの本は答えてくれた。管制空域の性格(航空路とか飛行場とか)が異なるために、管制所から管制所へ「ハンドオフ」されて行くのである。「ハンドオフ」は「手渡し」という意味で、アメフトから出ている様だ。
本書は千歳空港の管制業務を中心にして進んでいく。例えば、千歳空港から羽田空港への飛行は次の様に幾つかの管制所をハンドオフして管制が行われる。
千歳管制塔→千歳ターミナルレーダー管制所→札幌管制部→東京管制部→東京アプローチ→東京管制塔。
最初に挿絵入りで、この全体の飛行の流れとそれぞれの管制所の役割を描いているのが、本書を読んでいく上で、後々、参考になる。 千歳は北海道最大の空港であるだけでなく、自衛隊の飛行場でもあり、それが管制業務を複雑にし、一層の臨場感がある。
演習のための自衛隊機の離発着、演習用の空域設定、スクランブルの緊急離陸や天候急変による緊急帰投。定期便だけでない千歳の故に管制官の判断が取り分け難しい。千歳をモデルにされた所以であろう。千歳での管制の状況を、それぞれの管制官とパイロットとの通信を再現しながら、場面・場面で臨場感一杯に述べられて行く。
「さいら」が日本語しか分からない。そう言う読者のために、通常の交信の英語とそれを翻訳した日本語で進められていく。
その中でも、最も複雑そうに見えたのが、あっちこっちから着陸を求めて、間もなく着陸態勢に入る飛行機に「安全な間隔(時間差)」を作り、「整列」させる管制業務である。フィダー管制と言う。管制対象の飛行機の性能(航法、速度、旋回能力など)が異なるために、レーダー機影の順番という訳にも行かない。それぞれの飛行機の性能、安全な飛行間隔、最も効率がよい滑走路の利用等を考えながら、管制している数機を旋回させることにより、待機させ、時間差を作り、着陸の順番を瞬時に付けて行く。空中では「止まることが出来ない」飛行機の特殊性である。それを、レーダー画面とパイロットとの交信で、的確に裁いていく。多分管制官は、緊張の連続であろう。その感じが漂ってくる。
2部の「空域を探求する」で、飛行機が飛んでいる空の現状を技術面・法制面・経済面から記述されている。ここは、前部の「航空機を管制する」の余韻が残っていて、内容は難しいのだろうが、なるほどと素人でも理解できる。
実は「さいら」は航空管制上の判断は全て電算機がやればよいと考えていた。それは全く不可能ではない。むしろ電算機が最も得意とする「多くの条件下での最適解」を瞬時に求める分野ではないかと考えていた。 その疑問にも答えてくれた。その方面の研究は進められているが、「緊急事態」や「人間の能力を超えたコンピュータ処理は簡単には手動に切り替えられない」と言うことである。納得である。
管制は「ハンドオフ」のチェーンである。陸上のリレーで最も大きな失敗はバトンの受け渡しである。このハンドオフが旨く行くためには、管制官一人の責任でなく、管制体制が課題になってくる。この本では著者の断りもあるが、管制官と管制官の会話、それを支援する職の方々との会話が殆どない。本当は、そこも重要なのではないかと「さいら」は考えている。hand in handで管制されることを祈って感想文を終える。
注記:この本は随分以前に読んだのであるが、最近、大阪空港と関空での管制官とパイロトとの間で復誦ミスがあり、大きな事故になるところであった。そのために、もう一度管制業務を考えてみた。
書籍のデータ
書名:航空管制の科学
叢書名:ブルーバックス
著者:園山耕司
発行所:(株)講談社
発行年月日:2003年1月20日 第1刷発行