羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

5→9~坊さん~ 1

2015-12-16 20:14:44 | 日記
清宮は堪えて潤子の体を離した。「ごめんなさい」「いや」力無い潤子。翌日、寺で高嶺が桜庭家の合鍵を見ていると「結局兄さんには1回も勝てなかったなぁ。潤子さんを選ぶと思ったんだけどなぁ。住職になれない俺の電話には業者も出てくりゃしないよ」私服に着替えたが、まだ少し含むところのある様な天音が現れた。「どうしたの? 死んだ人みたいな顔してる」高嶺は立ち去った。ELAでは顔を出した潤子を皆が祝福したが「潤子先生を振ってくれた星川さん様々っていうか」と蘭が口を滑らせ、やや気まずい空気になったりもしていた。夜、桜庭家では元気の無い潤子の事情を知らない母が潤子が蟹の次に好きだというアジフライを山盛り揚げていた。
「限度があるんだよね」潤子がボヤきつつ、訳を話そうとしたところで、高嶺が鍵を返しに来た。潤子と別れたという高嶺の話を冗談だと思う母達だったが「お邪魔しました」高嶺が鍵を置いて去り、潤子が泣いてアジフライを食べ出すと「話着けてくる」父は高嶺の後を追い掛けて行った。高嶺は潤子の父が見当違いの方へ自分を探しに行こうとしていたので思わず「お父さん、お父さん!」と呼び止めてしまった。近くのベンチに座った父と高嶺。
父は自分の半纏を高嶺の遠慮を押して着せて、銭湯の話を始めた。「昔、家族でよく行ってさぁ。俺、男湯でいつも一人ぼっちだった。ちょっと寂しかったんだ。息子がいたらなぁ、なんて、いつもそう思ったりして」俯く高嶺。「なんかごめんね、どうでもいい話して」「いえ」「それじゃ」父はそれ以上は何も言わず、団地に戻って行った。見送るしかない高嶺。その夜の内に、寧々から由希へ、由希から蜂屋へ、蜂屋から女性スタッフへとELA全体に話が伝わり、一同は潤子と高嶺を仲直りさせようと盛り上がった。
結果、仲直り方法の打ち合わせに
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5→9~坊さん~ 2

2015-12-16 20:14:34 | 日記
潤子本人も呼んでしまうかなり直球なELA一同。当の潤子は「一生懸命作ったお弁当、食べて欲しかったかなぁ」冗談めかして言ったが、切なそうな様子。「(英語で)閃いたっ」席から立ち上がるアーサー。後日、打ち合わせの勢いのままアーサー、山淵、蘭、毛利の付き添いで寺まで手作り弁当を持ってきた潤子。腰が引けていたが、院内に入り、挨拶回りを終えたらしい高嶺と香織に出会すと、「あ、あのこれ」おずおずと弁当を差し出そうとしたが、高嶺は無言で去って行ってしまった。そこへ「あらら、可哀想に」天音が現れた。
潤子は弁当を天音に渡した。「受け取ってくれてありがとね。持って帰るのキツかったから」帰ってゆく潤子。弁当には手紙も添えられていた。潤子と入れ替わりで高嶺が現れた。「聞いてたろ?」天音は弁当と手紙を高嶺に渡した。「俺、京都の寺に帰ることにしたから」「行かなくてよろしい」「え?」「あの人が家族を大事にするように、私もあなたを大切にすると決めたんです」天音は得意の軽口が出てこず、高嶺は弁当と手紙を持って立ち去った。夜になり、三嶋と酒を呑む潤子。「お前もどっかで気付いてたでしょ? 俺の気持ち」「三嶋」三嶋は博物館のチケットを差し出し、高嶺と行ってくるよう言った。「あの人、そういうの好きそうじゃん?」「三嶋」潤子はチケットを受け取った。三嶋は高嶺が来るよう根回しもするという。
さらに後日、件の博物館に来た潤子。程無く何か別件で呼び出された高嶺が来て「なぜあなたが?」潤子に驚いていると、周囲の着ぐるみ達がグイグイと二人を展示ホールの入口へと囲んで押し始めた。すると「おめでとうございます!! 3333組目のお客様がいらっしゃいました!」派手に祝われた潤子と高嶺はややうやむやに中へと入って行った。二人を押していた着ぐるみの中には
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5→9~坊さん~ 3

2015-12-16 20:14:25 | 日記
アーサー、山淵、毛利、蘭が入っていた。全て仕込みらしい。中では「博物館って、あんまり面白くないかなって」気が引ける潤子だったが「面白いです。博物館を侮ってはなりません」高嶺は展示の恐竜等の解説を始めた。
学生の頃からのお気に入りらしい。学生時代、年に200回も一人で通ったこともあるという高嶺に多少ビビる潤子。「こちらはオオツノシカ」展示を熱心に解説する高嶺。「あ、クリスマスツリーだ」潤子はそれよりも一角に飾られたシンプルなツリーに関心を示した。「そういえば、クリスマスツリーの前で写真撮るって約束してましたよね、レッスンで」「忘れました」高嶺は話を切り、展示解説を続けようとしたが、潤子は後ろから高嶺を抱き締めた。「離れて下さい」「離れません。あなたが言ったんですよ? 私から離れない、って」「忘れました。私は、香織さんと結婚します」「ふーんっ、あっそ」潤子は急に離れ、高嶺に背を向けて「ねぇ、この恐竜なんて名前」聞きながら泣き出した。
何もできない高嶺は「閉館時間です」守衛が来ても「5分で構わないので、このまま居させて下さい」と言うのが精一杯だった。ホールから出た廊下で「最後に、あなたの笑顔が見たいです」潤子は言ったが、高嶺は上手く笑えない。「もういいです、ごめんなさい。星川さん、誕生日に車で迎えに来てくれたの嬉しかったです。試験に落ちた時、靴プレゼントしてくれたのも。あの後は正直アレでしたけど」潤子は色々アレっだったことを含めて思い出を列挙していった。「ホントに好きでした。あなたのことが、とってもとっても。まあ、これも全部忘れちゃうんだろうけど。今まで、ホントにありがとう。グッバイ!」泣き笑いで言って、潤子は館から出て行き、高嶺は目に涙を溜めて「さよなら」と呟いた。
博物館から父のタクシーで帰る潤子。
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5→9~坊さん~ 4

2015-12-16 20:14:12 | 日記
「ダメだった」「そっか」「でもちゃんと笑顔でお別れできたよ」「そっか」「変な人だったなぁ。でもさ、優しい人だったんだよねぇ」「そっか」「好きだった」「そっか、そっか」泣く潤子に、父も運転しながら泣いた。それから、潤子は改めてELA の正社員採用試験を受けることをした。寺では寺田が「誰かを自分で愛してほしい。その切っ掛けにと思って仕組んだ見合いが、お前を傷付けてしまった。許してくれ、高嶺」謝っていた。「わたくしは感謝しております。家族を大切に思う気持ちを学びました。一生の思い出になりました」泣く寺田。「ただ、こんなにも辛く哀しいものなら、恋などしなければよかった」高嶺は部屋を出て行った。高嶺の机には、どう保存したものか? まだ取っていた潤子の弁当と、手紙が置かれていた。
悔恨の寺田は、手紙を手に取った。『星川高嶺さんへ、初めて手紙を書きますね。感謝したいことがたくさんあります。ELAの皆と、仲良くしてくれてありがとう。私の家族と仲良くしてくれてありがとう。あなたが、私の好きなものを好きでいてくれるから、私は、私のいる場所を今までよりも好きになりました。今、この場所にいる自分を、好きでいていいんだって、そう思えるようになりました。あなたのおかげです。本当に、ありがとう。始めはね、正直あなたを好きになるとは思ってせんでした。でも、あなたの真っ直ぐな言葉を好きになって、あなたの優しい声を好きになって、哀しい時に力強く抱き締めてくれるのも好きで、一番好きなのは、あなたの笑顔です。あなたの全てが大好きです。もっと傍に居たい。ずっとこれから先も、あなたの笑顔を見ていたい。そんな日が、また来ることを信じています。潤子より』
元の暮らしにすっかり戻ってゆく潤子。面接当日は母がカツ丼を作ってくれ、面接が始まると決意を持った顔で話し始める潤子。
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5→9~坊さん~ 5

2015-12-16 20:14:03 | 日記
寺では香織が知らずにいつかのELAでの結婚式の時の様に高嶺の手を取ったが、その手を振りほどかれていた。そして、面接に受かった潤子はニューヨーク行きの航空券を清宮に渡された。25日、クリスマスに出立が決まった。高嶺は紅い作務衣から洋装に替えた香織と香織の両親に挨拶を済ませ、潤子は寧々に「これ、貯まったね」とニューヨーク貯金箱を渡されたりしながら、出立の準備をしていた。そんな中、潤子の手紙は寺田からひばりにも渡され、24日のクリスマスイブとなり、高嶺からELAの一同や商店街の人々に感謝状が届いていた。
何も知らない潤子がELAに出勤すると清宮以外、誰もいなかった。「桜庭」「は、はい」戸惑う潤子。寺には高嶺からの感謝状を持ったELA一同や三嶋、商店街の人々が来ていた。表に出る高嶺、香織、ひばり、その他の寺の人々。様子を見る天音。 清宮は潤子に高嶺の感謝状には全て潤子のことが書かれていると話し「桜庭、あの人、まだお前のことを」「もう遅いです。明日ニューヨークに行くんですよ?」「明日だからこそ、会いに行ってこい。会いたい時に会えるって、当たり前のことじゃないんだぞ? 俺はもう会えないんだ。桜庭、俺はお前が好きだ。好きになって、またこうやって誰かを愛せたことが、本当に嬉しいんだ。だから、お前も好きな人と一緒になってほしい」それでも潤子は、動けずにいた。
寺からアーサー達が帰った後で、事態を見届けた香織は高嶺に言った。「高嶺様、痴話喧嘩には、もううんざり致しました。呆れて気持ちも冷めてしまいました。今度は、ちゃんとわたくしのことを好きでいてくれる方を探します。高嶺様、さよなら」去ろうとする香織に「ありがとうございました」高嶺が礼を言うと、香織はため息をつき、振り返って高嶺に軽く頭を下げ、前を向いて去って行った。
潤子がまだELAで
     6に続く