羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

無痛 1

2015-12-10 20:35:16 | 日記
イバラがサトミと共に姿を消した。早瀬達警察は誘拐とみて捜索を始めた。白神は引き出しから新薬データの入ったメモリがイバラに持ち去られたことに気付いていた。「君が、強くなる為の薬だ」白神はイバラにそう言って新薬を与えていた。「大切な人、大切な場所」走るトラックの荷台の中でいつか眠っていたイバラは呟き、目覚めた。傍にサトミがいる。「君は僕を見たって言った。何を見たんだ? 僕は何をしたの? 教えてほしい」答えないサトミ。トラックは湾で停まった。運転手が荷台から見ると、すでに降りていた二人。「痛い」近くの物陰から様子を伺い、緊張から強い力でサトミの腕を握っていたイバラはハッとして手を離した。「ごめん、僕は上手くわからないんだ」イバラは言った。
為頼と共に診療所に来て石川妻の記事の切り抜きを見ていた菜見子。間を置かず、早瀬から病室に残されたサトミのスマホの血痕がイバラの物であると為頼に知らせがあった。「サトミちゃん、ようやく喋ってくれたんです。事件について、思い出そうとしていました。イバラさんが過去の事件に関係あるのだとしたら」菜見子は誘拐に懐疑的だった。白神の病院にはマスコミが押し寄せていた。「もう、帰って下さい!」看護師長の橋本は対応に追われ、白神は横井に対し「逮捕されるだけで済まないっ」と言い放っていた。一定の合理性はあるものの、無痛新薬を無痛症イバラに使っていたことを奇妙に感じる為頼と菜見子。白神を調べる為に、二人は署へ向かうことにした。
警察はイバラの靴と石川一家殺人で見付かった靴が同一であることを突き止めていた。署から捜査に出ようとしていた早瀬はと白神に電話で呼び出されていた。為頼と菜見子は署へ着いたが、早瀬と入れ違いになっていた。仁川は為頼を胡散臭がったが菜見子は気に入ったらしく「話、聞いてあげなさい」と太田を促し、太田を困惑させた。
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無痛 2

2015-12-10 20:35:06 | 日記
病院へ来た早瀬。「彼は私を殺そうとしたんです」「白神先生を?!」メスも持ち出されたという白神。「見えたんですよ、イバラに表れていた犯因症が」虚実織り交ぜ早瀬を煽る白神。
港を離れ浜辺に来ていた足を引き摺るイバラとサトミ。「お腹空いた」サトミは不意に言った。二人は手近にあった釣具や食料品を取り扱う店に入ると慌ただしくパンや飲み物をあさり、女店主が声を掛けると商品を手に店を飛び出した。「泥棒っ!」逃げてゆく二人。女店主がうんざり顔で店に戻ると棚には千円札が置かれていた。一方、太田に白神の履歴を調べてもらっていた為頼。白神は優秀な経歴だが、同じく医師だった弟『玲児』が10年前、ネパールで登山中の事故で亡くなっていた。白神は弟と共同で論文も書いていた。
店から逃げたイバラとサトミはまた浜をあて無く歩いていたが、浜辺に扉を板で塞がれた物置小屋を見付けた。板を力任せに剥がすイバラ。二人は小屋に入った。座ったサトミはメロンパンを二つに割った。半分には割れず片方大きくなる。サトミは考えてから、大きい方を隣に無言で座るイバラに与えた。「どうしてついてきてくれたの?」「知りたいから。私も、私のこと」サトミは小学生時代の石川も加わっていたイジメを打ち明け、自分のメロンパンを食べ出し、イバラもパンを食べた。
為頼は「サトミちゃんにとって、あなたは帰る場所だから」と菜見子を診療所に戻し、一人で研修医時代の白神を知る教授の北山を訪ねていた。玲児との過去の論文は無痛医療では無かった。「白神君は生涯、研究者の道を全うするものだと思ってました」北山は白神の優秀さをしきりに語っていた。
早瀬により凶器のことが捜査本部に伝わり、事態は一気に緊迫する中、診療所に戻った菜見子は石川妻の記事の切り抜きを読み上げていた。「同じ小学校で教諭をしていた
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無痛 3

2015-12-10 20:34:53 | 日記
私達は出会った頃から、お互い結婚を意識していました」浜辺の小屋ではサトミがイバラに語り掛けていた。「石川先生なんて、死んじゃえって思って。あの日、だけど、行った時にはもう」 互いを見るサトミとイバラ。「大切な人との出会いが良い人生を作る。大切な人との出会いが、自分だけの大切な場所を、世界の片隅に作ってくれるんです」菜見子はそう記事を読み上げていた。
診療所に戻った為頼は北川教授から預かった昔の白神の学会での映像を見始めた。現在よ白神は、改めて呼び出した早瀬の様子を伺いながらイバラを逮捕しても刑法39条に守られ罰せられないと語り「イバラを止めるにはその命を断つしか無い。その行為は、きっと殺人とは呼ばない。市民の安全を守る為の、正義です」と囁いた。石川一家の最後を想い、早瀬は目の色を変えた。為頼は、学会映像から当時の白神の体調を『診て』驚いていた。
小屋にあったランプを点していた。サトミにスケッチブックを渡しされたイバラ。石川一家の死んだ絵。「ここにあなたが居た」「僕が、殺したの?」頷くサトミ。「僕が、この人達を。どうして? どうしてっ?」動揺するイバラ。サトミはイバラの顔の傷を見て、絆創膏を取り出し差し出した。「痛くないんだ。僕は、痛くないんだ」「でも、あげる」イバラは受け取った。
翌朝、早瀬が捜査本部に戻ると防犯カメラから港から逃げるイバラとサトミの映像が特定されていた。警察は拳銃携帯の許可を出した。切迫した様子で出動してゆく警官達。署に来た為頼は早瀬を見付けると「白神先生にわかったことがある。協力してくれ」と声を掛けたが「後にして下さい。白神先生の話では、ヤツは凶器を持っているっ!」早瀬は協力を断り、現場へ急行して行った。
一連の騒動にこれまで白神が接待してきた議員は
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無痛 4

2015-12-10 20:34:40 | 日記
新薬の認可の件を反故にしてきた。「お願いします! 患者を痛みから救いたいのですッ!」病院の廊下で土下座して周囲を驚かす白神。「私には関係の無いことだ」議員は去って行った。その場に為頼も来ていた。白神は醜態を為頼に見られていたことに気付き、院長室に戻ったが為頼も院長室に入ってきた。「早瀬刑事に何を言ったんですか?!」笑う白神。「為頼先生も診たんですねぇ。あの刑事に出ていた犯因症を」「あなたは」「事実を話しただけですよ」「何を恐れているのですか?」「当然でしょう。凶悪な犯罪者なんですから。もういいでしょう」為頼を引き取らせようとする白神。
為頼が白神を『診』出すと「診えましたか?」となげやりに言った。「北山教授に会ってきました」過去の学会の映像を見たことを告げる為頼。「私には診えたんです。心臓病、拡張型心筋症をあなたは患っていた。なのに、今の白神先生からはその症状が一切診えないんです! 取り替えたんじゃないですか? いつ? どこでそんな手術をっ!」「10年前に、海外でね」「まさか、その心臓というのは」「ええ、玲児の心臓です」胸に手を置く白神。「私には無痛治療を完成させるという使命がある。玲児の為にも。それを邪魔する者は許さない! 例えそれがあなたでも」「あなたは間違ってる」為頼は部屋を出て行った。白神は机の物を払い落とし、苛立った。「院長、仰って下さい、私にできることを」控えていた横井が声を掛けたが「出ていけ」「院長の為ならなんでもやります」「出て行けと言っている! お前はもう、必要無い」白神は突き放した。
早瀬は港近くで聞き込みを始め、釣具屋までたどり着き、イバラ達の話を聞いてすぐに追おうとしたが「ちょうど良かったこれ渡しといて」女店主は小銭を太田の掌に渡した。「お釣りよ」太田と早瀬は戸惑った。小屋では
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無痛 5

2015-12-10 20:34:29 | 日記
イバラがスケッチブックを捲っていた。サトミはうつらうつらとしていた。イバラはサトミが診療所で餃子を食べた時の絵を見た。「すてきな絵だね」目を覚ましたサトミは微笑んだ。「大切な人、大切な場所」「それは誰なの? どこなの?」イバラが答えられずにいると、サトミは呼吸が荒くなり、引きつった様な呼吸を始めた。「どうしたの?」「苦しい」倒れるサトミ。イバラは困惑した。
診療所に戻った為頼は早瀬と連絡を取ろうとしたが、電話に出ない早瀬。早瀬と太田は浜で件の小屋を見付けた。「イバラッ!」中へ突入する早瀬達。小屋にはスケッチブック等が残されていたが、イバラ達の姿は既に無かった。夜になり、診療所でずっと居る菜見子と夕飯の支度をしていた和枝は庭の物音にカーテンを開け「あーっ!!」驚いた。イバラがぐったりしたサトミを背負って来ていた。「この子を助けて下さい!」為頼は和枝に手伝わせ、すぐに治療に掛かった。
吸引器を使い、サトミに薬剤を吸わせる為頼。その頃、早瀬はスケッチブックの餃子を食べた時の絵と、警察無線のイバラが車で街の方へ移動したとの知らせから察っし、慌てる太田を残してパトカーで浜から離れていた。サトミは点滴も打たれ、寝かし付けられていた。「埃の多い所に居たからでしょう」菜見子に説明し為頼は石川妻の記事の切り抜きをイバラに見せた。「この記事のことだったのか?」イバラはポケットから白神のメモリを差し出した。「教えて下さい、僕のことを」メモリのデータを見る為頼。新薬、ドロールは過剰投与すると『記憶障害、意識混濁、狂暴性増加』の副作用があり、石川一家殺人が起きた日、イバラは過剰投与されていた。
「君は薬に操られんだ。白神先生に操られた!」イバラはその日のことを思い出した「これは、悪い人達なんだ」白神に記事を示されていた。
     6に続く