羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

うしおととら 1

2015-12-05 21:03:36 | 日記
「俺ら、足がダメになっちまったのよ」機械の様な人型の怪物を結界で押さえる流と日輪の足はズタズタになっていた。「獣の槍が先さ!」「グズグズせず行けっ!」二人に促され、腹を括った潮は先を急いだ。
「ワシが来たのはおめぇとは関係ねぇからなぁっ!」潮について来ながら悪態をつくとら。二人の進む先に九印が浮遊して待っていた。「へへっ、会いたかったぜ、九印っ!」「そうか、私もだ」潮はとらと九印の会話に構わず、石を拾うと突進した。「そこをどけぇッ!!」九印は触角伸ばして潮を殴り付け、吹っ飛ばした。「『友達』よ、本当になぜそんな愚かな者に憑いている? 私に『石』で立ち向かおうとする愚かな人間」「んんッ」苛立つ様なとら。
「ケッ、てめぇの知ったこっちゃねぇぜッ!!」とらは炎を吐いた。九印も仮面の頭部の下にある口から光線状の『気』を放ち、炎を相殺した。「やっぱりやるじゃねぇかよッ!」「こっちはやはり失望した。くだらぬ者に憑いてるだけあって君も弱いのだな」(くだらぬ者?! あれ? 何だぁ? 何でワシが)とらが自分の怒りと怒ることへの戸惑いに気を取られていると、トゲと化した地面が吹き出した九印の房の分かれた外套の様になった体の一部に全身を突き刺されるとら。「ぎぃあああぁッ!!」トゲで仰向けに張り付けにされるとら。
「とらっ! くそぉッ!!」潮が今度は素手で九印に突進すると、九印は肩から『気』の弾丸を軽く乱射して潮を再び吹っ飛ばした。「今まで霧雄は、一滴の血も流さず化け物を倒してきた。いちいち死にそうになりながらようやく殺している者とは違う」(ぬぅうッ? やっぱりおかしいな、ワシ!)奇妙ね苛立ちが収まらないとら。「と、とら。今助けてやるぜぇ!」言われた傍から血を『一滴』溢しながら、潮はまた『石』を手に今度はとらの元へよろめきながら近付いた。
     2に続く

うしおととら 2

2015-12-05 21:03:24 | 日記
『石』で何度も殴って九印のトゲを破壊しようとする潮。「余計な真似すんじゃねぇ!! ワシゃ人間に借り何か作りたかねぇぜぇっ!」「石喰いの時もっ、あやかしの時もっ、中国じゃ白面から守ってくれた!」「このっ阿呆チビッ! みんな、おめぇが喰いたくてやったんだよッ!!」トゲを殴ることをやめない潮。「行動に妥当性と一貫性が欠けている。よくもまぁ、そんな様で伝承者を名乗れたものだ」(グゥアアッ! 潮! チッ、本当によぉ。何でかなぁ)『心』がざわつくとら。
「どうした? 異論も無いところみると、君も愛想が尽きたかッ!」九印は外套状のトゲを潮に放った。とらは、全身と髪に力を込め全ての九印のトゲを打ち砕いた。(愛想なんざとっくに尽かしてるさ)地に降り立つとら。「なぁ、九印。霧雄はたった一人で化け物と闘ったことはあるか?」「戦術的不利を招くようなことを霧雄はしないッ!」九印は気弾をとらに放った。「でぇうッ!」これを腕で弾き、突進して髪をトゲと化して九印に連続で打ち込むとら。九印も外套状のトゲで応戦する。
「じゃあ武器を持って無ぇのに仲間を助けるとかのクソみてぇな訳で、化け物と殺り合うかよッ?!」「霧雄はそんな原因で闘うことは無いッ!」互いの両手を組み合い、力比べの形になるとらと九印。「なら、潮の方が強ぇかもなっ!」九印の手を握り潰し始めるとら。「失望だな、九印ッ! おめぇも、弱ぇぜぇッ!!!」頭突きを九印の仮面の頭部に打ち付けるとら。仮面がひしゃげて割れた。「ぐぅああっ?!」仰け反って後退する九印。「ほんっとに、何でかな? アイツにおめぇのこと言われると、妙に腹が立つ。ケッ、おめぇ何かでぇ嫌いなのによぉっ!」「とら」呟く潮。即、持ち直した九印とまたトゲの打ち合いになるとら。「コイツはワシが遊んでやらぁ! とっととやることやってこいッ!」
     3に続く

うしおととら 3

2015-12-05 21:03:12 | 日記
潮は九印をとらに任せ、走って行った。潮が九印の守っていた建物の扉を開けると溶解槽の上に赤い布で獣の槍が吊るされていた。「潮兄さん、一番いいところに間に合ったよ?」溶解槽の前に鎌を持った霧雄がいた。「させるかよッ!」「潮殿は見ていて下さい! この鎌があれば我々は白面の者と戦えるっ!」量産型のエレザールの鎌を持った若い僧達の一人が言ってくる。「獣の槍は破壊されねばならない、それ一本に拘る人々の目を覚まさせる為にね」得意気な霧雄。「冗談じゃねぇ」潮は溶解槽に走った。「喝ッ!」潮は霧雄に『気』を当てられ弾かれた。「いよいよ獣の槍の最後さ」ここでチェロの音色が建物内に響いた。斗和子が建物の端の方で弾いていた。
「獣の槍を送る、葬送曲よ」弾き終えた斗和子。「ママっ! 僕、言う通りにしたよ」嬉しそうに駆け寄る霧雄。「よくやったわね、霧雄。では、封じてしまいましょうね」(霧雄に母ちゃん何ていないぞ?! もしかして)僧達に抱えられている潮は引狭の日記の『女』を思い出した。『爪』を構える斗和子。「やめろぉッ!!」叫ぶ潮。斗和子は赤い布を切り裂いた。槍は溶解槽に落下してゆく。ジエメイを想う潮。槍は溶解槽に落ちた。「うわあああぁッ!!」叫んで僧達を振りほどき、溶解槽に駆け寄り、縁によじ登る潮。手を伸ばすが既に槍は底に落ちている。
「槍よ来いっ! 槍よ、来ぉいッ!!」呼んでも反応が無い。「無駄だよお兄さん、槍はこの世から消えたんだ」諭す霧雄。「消えた」呆然とする潮。「あの、その方は?」僧の一人が霧雄に聞いた。「ママだよ! ずーっと僕の傍に居てくれて、獣の槍を壊すことも教えてくれたんだよ!」「我々は、聞いておりませんが?」動揺し出す僧達。「無理も無い、全ては白面の者の企み」紫暮が来ていた。「よく見ろよ、これが獣の槍破壊計画の立役者だ。表れよっ、
     4に続く

うしおととら 4

2015-12-05 21:03:01 | 日記
化身ッ!!」紫暮は背に隠したまま旋回させて力を高めた千宝輪を斗和子に放った。牙を剥き出した口で受ける斗和子。半獣化した全裸の姿に変わる。後方に吹っ飛ばされながら、髪の矢を放ち数本、紫暮の肩に当てる斗和子。「ママッ!」叫ぶ霧雄。激突して壁を崩した斗和子は千宝輪をくわえたまま尻から『尾』を出し、唸っていた。唖然とする霧雄と僧達。
「我々は白面の者に踊らされて獣の槍をッ!」後ずさる若い僧。「もう手遅れよ、獣の槍は完全に封印された。後はお前達を始末するだけ!」飛び掛かってきた斗和子は量産型のエレザール鎌をことごとく砕き、僧達を痛め付けていった。「嘘だ。ママ、ずーっと僕を騙していたの?」何もできない霧雄。ふと、手を止めて霧雄を見る斗和子。「寒い日にコートを掛けてくれたのも」「好きなハンバーグも作ってあげたわ」「夜、寝る時、本を読んでくれたのも」「お帽子も買ってあげたわ。みーんな、あなたに獣の槍を壊してもらう為。あなたの為じゃないわねぇ? 霧雄」斗和子は獣の顔で嘲笑った。「でぃああああッ!!」泣いて叫んで、鎌で斗和子を斬り付けようとした霧雄は、即座に斗和子の『尾』で殴り飛ばされた。立てず、泣き続ける霧雄。
霧雄に構わず、僧達をなぶることに戻る斗和子。「くそうっ!」溶解槽にまた手をかざす潮。「槍よ来い!」「無駄よッ!」背後に来た斗和子に『尾』で溶解槽まで吹っ飛ばされる潮。溶解槽は既に冷えて固まっていた。(俺が弱い! 俺が情け無いからっ!)固まった溶解液に手をついて潮が悔しがっていると。「ツァンユエよ」固まった表面の一部が煮え立つ様になり、ギリョウの顔となった。「冥界より、今一度汝に問おおう。汝、我と来るか? 魂を我に削り与え、それでも白面の者を倒そうとするのなら。我が滅べば汝は自由の身。それでも我と闘うか?」
     5に続く

うしおととら 5

2015-12-05 21:02:47 | 日記
「槍を追ってる間、考えてた。強くなりてぇ、もっと力がほしいってさ。だけど引狭や霧雄みたいに守るもんが無ぇのに強ぇのって、寂しいな。槍が落ちた時、ジエメイさんを思い出したよ。もうあんなのはたくさんだよね?」「答えよ! 我と共に来るか?!」促すギリョウ。「行くさ、誰にも死んでほしくないんだ!」「ならば叫ぶがいい、血の海にお前を誘わんッ!」ギリョウは固まった溶解槽に戻り、槽から妖気が立ち上ぼり始めた。「んっ?」気付く斗和子。潮に変化が起きる。「感じる、獣の槍よッ! お前はまだ死んじゃいねぇ! 何度でも呼んでやるッ! 獣の槍よ、来いっ!」呼び出す寸前で斗和子の『尾』で肩を貫かれ、吊り上げられて槽の外へ放り出される潮。
「努力が徒労に終わる人間の目って好きよぉ?」「へへっ、お前の喜ぶことなんて、絶対してやんねぇ!」変化が解け、肩を刺されたまま体を起こす潮。笑っている斗和子。(獣の槍よ! 俺はぜってぇコイツを許せねぇ、白面の者! おめぇがどれだけのことをしたのか、俺が命に代えても教えてやるぜ!! だから槍よ、俺が闘う為に、俺が俺である為にっ! 獣の槍よ)槍と同調して離れたまま変化する潮。「来いッ!!」手を槽にかざす潮。固まった槽は砕け、槍は元の姿のまま飛び出してきた。赤い布も滅びていない。対応できない斗和子。槍は潮の肩に刺さっていた『尾』を斬り裂き、潮の手に戻った。
「赤い布も封じることができぬのか?! これが、槍の力かッ!!」斗和子は斬られた尾の断面から無数の針を潮に放った。打ち払う潮。(獣の槍よ、お前も俺も、もう負けたくねぇよなぁ!)潮は突進して斗和子の胸を槍で貫いた。「アアアァーッ!!!」絶叫して壁側まで下がる斗和子。「おいで、木偶ッ!」斗和子に応え、壁を突き破り、流と日輪を両手に握った人型機械の化け物が現れた。「流兄ちゃん! 日輪っ!」
     6に続く