羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

うしおととら 1

2015-10-31 20:19:45 | 日記
「気を付けてね」真由子から櫛を受け取った勇は「握手してくれる?」麻子と握手をした。「全部終わったら、皆で一晩中騒ごうねっ!」麻子にそう言われ、勇は崩れかける橋へと走っていった。(パパ、私に命の恩人を助けさせてね)着くと、橋でクラウチングスタートの構えを取る勇。(檜山勇、テイクオフっ!)櫛をくわえ、日輪と純の結界に縛られた潮に走り出した。勇が駆けた後ろで橋が崩れてゆく。「次の子が来るッ!」結界を解くタイミングを計る日輪、純も構える。結界を、解いた!「蒼月君ッ!!」叫ぶ勇、背後で崩れる橋。勇は潮の髪を一房、梳った。橋の中央は全て崩落した。潮の顔や半身が、一瞬元に戻る。
(婢妖めっ! これでは私はともかく、他の者は一時間と持つまい!!)婢妖群を結界で抑える紫暮は焦っていた。
「ヒィィーッ!!」潮は再び槍に引き込まれ、奇声を上げて森の中へ跳び去って行った。「真由子さーん! 麻子さーん! 後はお願いっ!!」崩れた橋の対岸に呼び掛ける勇。二人は頷き合って川に降りて行ったが、傍のとらは(ワシは何なってるんだろねぇっ、潮を人間に戻すのはやめて、あの女でも喰ってぇ)「おいっ、アレ見ろよ!」「ああ?」イズナに促されて川の方を見るとら。壊れた橋の板を伝って、真由子が先頭を歩くが足元が覚束ない。「ああっ、ああ?!」川に落ちそうな真由子。「この、たわけっ!」クレーンゲームの様に真由子の頭を摘まんで持ち上げるとら。
「川に落ちてばっちくなったら味が落ちるだろ?!」摘まんだまま、怒鳴るとらを平然と見る首が頑丈な真由子。ここで「とら君! 前に助けて貰ったよね? 遅くなったけど、どうもありがとうっ!」麻子が頭を下げてきた。「ケッ、筋合いじゃねーやっ」(さ、この女を喰ってズラかるかぁ)食べようとすると真由子はすとん、ととらの手から落ち、着地して
     2に続く

うしおととら 2

2015-10-31 20:19:35 | 日記
「麻子も助けて貰ってたのね! とらちゃんって、とってもいい人なのよっ! 今度もきっと助けてくれる」とらの腕に抱き付く真由子。「はぁ? ちょっとまてぇ!」小夜と礼子も降りて来て、困惑するとら。イズナが大ウケしていた。
山では、結界を抑え切れない純の連れの四人の僧が集中的に狙われ、そのまま破られそうになったが「グゲェエエエッ!!」「ワシャシャーッ!」悟の蛭と蟲の式神が侵入してきた婢妖群に喰らい付き、押し戻した。「選に漏れたとはいえ、お前達は法力僧だぞ?!」式神越しに悟に喝を入れられ、四僧は気合いを入れ直し、結界を立て直していた。
真由子が勇から櫛を受け取っていると、頭上にジエメイの霊が現れた。「急いでこちらへ」試練の洞へ飛んで案内するジエメイ。日輪と純は走らされたが、真由子達とイズナはとらに運ばれた。「白面の者の体の一部があるのです」ジエメイは潮が洞を目指す理由を明かした。到着すると、巨木の幹が二本、くり貫かれた先の鳥居の向こうに、洞はあった。周囲は薄原だが、その外周は森。姿を消すジエメイ。森から槍の鳴る音が聞こえる。「来るッ!」警戒するとら。「私行くわ! 応援しててねっ!」駆け出す真由子。「気を付けてねぇ!」後ろ姿に呼び掛ける麻子。(待てよ)思案するとら。潮が真由子を殺すと二人共喰えない。真由子を拐うと真由子だけは喰える。(決めたぁ! 女、ワシをお前を)嬉しそうに、真由子に襲い掛かろうとするとらだったが、真由子は立ち止まっていた。
薄原の向こうに目が石の様になった潮が、鳴り続ける槍を持って立っていた。(チィィッ! 潮っ!)構えるとら。(こうなったらお前を戻して、この女と共に喰ってやるぜっ!)「抜かるなよ、女!」「はいっ!」「直ぐ、そこに、白面の者の一部がぁあっ!!」呻き「邪魔するなぁッ!!」突進してくる潮。
     3に続く

うしおととら 3

2015-10-31 20:19:22 | 日記
「潮ォ!」電撃を放つとら。「ギッ!」槍で反射させる潮。真由子は足元に落ちた電撃に悲鳴を上げ、とらは「ぎゃああッ!!」直撃を受けて叫んだ。屈んでいた真由子に迫り、槍を振り上げる潮。振り下ろされた槍を櫛で受ける真由子。櫛が激しく光り、刃を防いだが、真由子は崖まで吹っ飛ばされた。「真由子ォっ!」崖の縁まで駆け寄る麻子。真由子は片手で岩に掴まっていた。もう片方の手で櫛を持っている。
「両手で掴まって!」「できないよ、この櫛は潮君を、助ける櫛だもの。皆の想いがこもった大切なっ」ポケットに入れるか、勇のように口にくわえればっ、と麻子は思ったはず!「皆、ごめんね」真由子は支えきれず、落下した。それを飛来してきて中空で受け止めるとら。「とらちゃん!」薄原の上空まで飛び上がるとら。「潮! 獣の槍っ! お前らの邪魔する女は死んでねぇぞ!!」「イィーッ!!」挑発に跳び上がってくる潮。「はははっ、来やがった!」笑うとら。
山の結界は限界にきていた。(この後は乱戦とするしかないっ、皆、生きるんだぞ!!)紫暮は結界を解き、後方へ駆け出した。婢妖群が押し寄せる!
飛べるらしい潮の、真由子を狙った槍の攻撃を避け続けるとら。「何だか段々腹立ってきたぞ。ワシは化け者だからいい、人を喰おうと無茶しようとよう。だけどよぉっ」「イーヤァアッ!!」飛んで突っ込んでくる潮。左胸の辺りを刺されるに任せ、貫かれるとら。「とらちゃあぁんッ!!」叫ぶ真由子。潮を抱え込んで捕まえるとら。「お前は人間だろうがぁッ!!! 汚くてズルくて浅ましいくせにっ、生きよう生きようと足掻く人間だろうがよっ! それをぶっ殺し、引き裂いて喰らうのが面白ぇんだよ!! それが何だ?! 白面の者をぶっ殺すだけのモンになりやがって、お前何てバケモノでも人間でもねぇやぁっ!」間近で怒鳴るとら。
     4に続く

うしおととら 4

2015-10-31 20:19:10 | 日記
「だから! 私が、私達がっ!」泣いて呼び掛ける真由子。コレまでのことを思い出す真由子。(神様お願いです。潮君を、返して下さい!)真由子はとらの腕から飛び出し、潮の髪を梳り、落下していった。
「麻子! 次っ!」真由子は落下しながら櫛を麻子へ投げた。「うんっ!」受け取る麻子。
紫暮、悟、流が合流し、洞の近くで結界を張り直して婢妖群を押し止め、日輪と純がやはり洞の近くで結界を張って婢妖を止める中、真由子はとらが伸ばした髪で足を掴まれて地面に激突するのを避け、潮はとらを突き飛ばして槍を抜き、離れて行った。反動でとらは薄原に真由子と落ちていったが、とらは髪を操り真由子を自分の腹の上に落とした。潮も着地してきた。本来の潮の顔と獣の潮の顔が交錯し、苦しみ出す。(少しずつ、人間に戻ってるんだわ!)随分慎重に、傍で様子を見ている麻子。
「ディワアアアアッ!!」そうこうしている内に、周囲の森に結界から溢れた婢妖達が吠えながら迫ってきた。「獣の槍だ!」「破壊しろっ!」「破壊しろッ!!」迫る婢妖。その時、薄原周囲の木々に貼られた呪符が強力な結界を貼り、婢妖達を押し止めた。「ヒョウ!」振り向くとら。印を構えながらヒョウが現れた。「3分と持たんだろう」呟くヒョウ。
(体が、消えてゆく!)内なる潮は髪に縛られ、折れた剣に囲まれ「お前はァっ! この槍に魂を奪われたのだ!!」すぐ目の前で火を吹き、剣を鍛え続ける男に呪わしく告げられていた。「もう、やめて。兄さん」兄と呼ばれた男は手を『止め』、振り向いた。「ジエメイ」現れたのはジエメイだった。「白面の者の憎む兄さんの気持ちはわかります。でも、その為に人々の魂を犠牲にするのはもう、やめて下さい」ジエメイは静かに言った。
「麻子、く、苦しいぜ」半ば元の潮に戻り、
     5に続く

うしおととら 5

2015-10-31 20:18:59 | 日記
傍の麻子にそう訴える潮。「何で、こんなことに」歩み寄りながら、泣く麻子。「あんたはバカで、考え無しで、落ち着きなくって、喧嘩っ早いよ」潮の頬に触れる麻子。「だけどさぁ、あたし、あの潮がいいよぉ。だから、帰ってきてよっ」麻子は潮の髪を梳った。
しかし、洞の奥の白面の者の欠片の気配に引かれた潮は獣の目に戻り、麻子を無視して奇声を上げて洞の方へ向き直った。「白面の者ォオッ!! そこかぁっ! この、獣の槍がぁあ!! 滅ぼしてくれるわぁあああッ!!!」洞へ突進しようとする潮。「潮ぉーっ!!!」麻子は潮に飛び付き、そのまま二人で崖へ飛び出してゆく麻子。「麻子ぉっ!」悲鳴を上げる真由子。(オイ、コラァ! 勝手にくたばんじゃねぇっ!)槍に貫かれたダメージで素早く対応ができず「ワシが喰うんだぞォーっ!!」吠えるとら。
(ごめんね、潮。でも一人じゃないからね!)子供の頃、乱暴だが上級生に強引に遊び場を取られそうになった時、ボロボロになりながら一人で上級生を撃退してくれた潮。(本当はね、ちょっと嬉しかったんだぞ?)潮に抱き付いたまま落下してゆく麻子。(潮。私ね、私、本当にあんたが)獣の潮を抱き締める麻子。潮の表情が動いた。落下しながら、獣の石の目が砕け、内から潮が戻る! そのまま二人は崖下に落下した。
ヒョウの呪符が弾け飛んだ、婢妖が溢れ、薄原中央の一同に迫ってくる。その瞬間、獣の槍が、婢妖群を一閃した。切り裂かれた線は爆発するように周囲に迫った最前の婢妖達を滅した。潮だった。唖然とするとらとイズナ。喜ぶ真由子。潮は変化はしているが、目は澄んでいた。「潮っ!」呼ぶとら。潮は気絶した麻子を薄原にそっと置いた。「とら、来いっ!」婢妖群は更に迫っていた。「人間に戻っただとぉッ?!」戸惑っている婢妖達。潮はとらの背に乗った。「蹴散らせ!」
     6に続く