善戦者不怒ブログ

日常・趣味に関するブログです。
将棋、彫刻、フットボール、音楽、読書。

【Jリーグ】浦和・鹿島戦

2010-08-28 22:20:01 | フットボール
1-1。





ロビーの素晴らしいシュートで得たリードを守りきれなかった。
堀之内の投入でクローズできるはずだったのだが…。堀之内の責任ではなく、チームとして逃げ切る技術がなかったということ。暢久がピッチに残っていれば、ということだが、ここからは阿部もいないことを想定しなくてはならない。

細貝、今は辛抱だ。これからはお前がこういう試合を勝ちにつなげるしかない。

金沢健一「音のかけら」川越市立美術館

2010-08-24 09:51:22 | アート
彫刻家、金沢健一が87年から始めた「音のかけら」をテーマとしたパフォーマンス。
金属の立体作品としてフロアに置かれた「音のかけら」。



円形の金属は細かく切断されている。それぞれの切片は固有の形状を持つが、それだけではなく固有の「音」も持っている。金沢のパフォーマンスは金属棒を手にあちこちを叩いて音を出すことから始まり、「音のかけら」の切片をも叩いてさまざまな波長の音像をクリエイトしていった。



さらにパフォーマーを増やして、さまざまな音のかけらを融合した音響世界が繰り広げられた。





「音のかけら」の上にボールを転がすと、叩くのとはまた違った金属音が生み出される。

鉄板の上に砂を撒き、鉄板を振動させることで共鳴による図形を描く「クラドニ図形」も披露。





数年前に埼玉県立美術館でパフォーマンスをしたときは、「演奏という意識はない」というようにおっしゃられていたと記憶しているが、このパフォーマンスでは音楽を創造しながら演奏しているようにも感じ取れた。機会があれば、このあたりを聞いてみたいものだ。

豊田犬山長野への旅・その四

2010-08-23 22:32:43 | 日常
豊田スタジアムなどという地獄から抜け出して、天国のような安曇野で蕎麦を食べよう、と提案してくれたのは用意周到なじぃじ氏。「長野に行けば美術館やワイナリーもあるよ」との言は、似非アート好きでリアル酒飲みのわたしを気遣ってくれてのことだ。じぃじ氏自身は酒は一滴も飲まないというのに、この気遣いはどうだろう。この旅で図らずも餡子に弱すぎという弱点を露呈したものの、そんなことでじぃじ氏への信頼感は揺るぎもしない。
安曇野まで来ると今度はKokiがスマートフォンで店の検索とルート確認に余念がない。「兄い、この常念って店が蕎麦と地酒で評判いいようでっせ」相変わらず何弁をしゃべっているのかよくわからないが、前にも記したようにKokiはなんとかリンガルだ。このころになるとout of HELLの安堵感からか、やたらとレッズのチャントにひっかけてものが聞こえてくる。



井原のコールに合わせて「じざけ、じざけ、じざけ~」のフレーズが脳裏にうかぶ。「じざけ、じ・ざ・け!」のあたりで「そば処 常念」へ到着。





民家をそのまま使った店構えの蕎麦屋で、じつに趣がある。広い入れ込みというか座敷に通され、品書きを見定める。可愛いJK風の女の子が注文を聞きに来た。「盛り蕎麦は1人前2枚って書いてあるけど、3枚でも頼めるの?」とじぃじ氏が聞く。「はい」「じゃあ4枚でもいいの?」「はい」「5枚でも?」「…」これではほぼセクハラである。女の子がちょっとかわいそうに思えたが、困っている女の子の風情もちょいと悪くない。地酒は「幻の酒 酔園 純米吟醸」を頼んでみる。



これは絶品で、ほどよくも主張ある酸味をうまくまろやかにまとめた感じがある。原料米は地元安曇野産美山錦100%だ。ここで販売もしていたので、帰りに4合瓶を1本、買い求めた。

蕎麦はIちゃんが温かいかき揚げ蕎麦を頼み、後の3人は盛りを頼んだ。品書きに「きのこ」とあり、Kokiはそれを頼む。ほどなくさきほどの女の子とは違う女将風の女性が蕎麦台を運んできた。

「きのこのお客さま?」

それを聞いたKokiの眼がすっと細くなり、みるみる殺気が噴出してきた。



「姐さん、わっしをきのこと呼びなすったね。これでも埼スタにけえれば“ゴル裏のKoki”と呼ばれる、このわっしをさ…」

信州はどこも蕎麦どころだが、帰路に通る上田には池波正太郎が贔屓にした「刀屋」がある。Kokiの言い草はまるで「鬼平犯科帳」の凶賊のせりふにしか聞こえないが、おそらくはこのような背景があるのだろう。女将はこともなげに蕎麦を卓に置き、涼しげに戻っていった。蕎麦はそれほどインパクトはないが、これも地元の蕎麦粉を使い、フレッシュですっきりした、後味のよい蕎麦だ。




蕎麦屋に隣接した建物には、主が収集したらしい骨董品の数々を収めた美術館があり、入ってみた。鉄瓶の立派なコレクションや、信州ゆかりの真田家に伝わったらしい、家紋の入った箪笥などが展示されている。真田といえば「六文銭」だが、この家紋は戦時に主に使われたらしい。



平時には、「結び雁金」「州浜」「割州浜」などの家紋を使用していた、とある。







この3つの家紋の意匠は、いずれも素晴らしい。特に「結び雁金」のSO CUTEなこと。真田の3つの家紋。…しかし、いくらレッズのチャントが脳内再生されているとはいえ、「サナダ、カモンカモンカモン!」などと間抜けなことは言えるはずもない。

おなかが落ち着いたところで、近くにある「大王わさび園」に。



生わさびを擂ったものを試食したら、これはとてつもなく美味い。売店では「わさびビール」「わさびソフト」を売っている。わさびソフトを食べるが、生わさびすりおろしほどのインパクトはない。Kokiがわさびソフトに手を出さない。「男だったら、馬韮でしょうが!」確かに信州は馬肉も名物だが、いくらなんでも馬と韮のフレイバーでソフトクリームはなかろう。それともバニラと言いたかったのだろうか。どうもやつの言語感覚はよくわからない。

じぃじ氏が「小諸ワイナリー」行きを提案してくれる。カシージャスのチャントで「コーモロワイナリー、ラララララ~」と盛り上がるが、電話すると4時半で閉まるらしい。残念だがまたの機会に、と車に乗って走り出すと、すぐそばで「ワイナリー」の表示がある。「安曇野スイス村」これぞ及時雨。売店で試飲(ワイルドなシャルドネが美味い)、お世話になっているソムリエールに赤ワインをお土産に買う。併設のホースランドを覗く。乗馬体験ができるようだ。





少しずつ暑さが和らいでくる。信州に来たかいがあった。



一路、上田市の別所温泉を目指す。途中の急な山道はところどころ崩落しそうな風情だが、 夏の山道はそれも楽しい。
「信州の鎌倉」とも称される別所温泉は、いくつかの国宝や重要文化財の寺、観音像などもある、山中にありながら古都の佇まいを残した温泉郷だ。
我々の目的は、「足湯」である。ここの足湯は国宝「安楽寺 八角三重の塔」をモチーフにした、八角形をしている。「コーモロワイナリー、ラララララ~」とわめいていたわりには即座にタオルを取り出す変わり身の速さはなんなのだろうか。

じぃじ氏が携帯を取り出し、湯に浸かった3人の足を写メっている。奥さんに送り、「誰の足だかわかる?」と聞いているらしい。すると即座に奥さんから返信があり、どうやら全的中のようだ。「足の甲より年の功よっ」とか返事が来たらしいが、渋滞姫といいじぃじ妻といい、SSSレディースは特にアタッカー陣に人材が豊富だ。しかし、男の足の写メを奥さんに送って喜んでいるじぃじ氏も、只者ではないという気がする。足湯の近くでは水車がゆったりと回っていた。



さて、濃密な旅も終わりに近づいてきた。上田で夕食を取ろうかという声があがったので、テクニカルエリアに飛び出し「蕎麦オリエンテッドな感じでポゼッションを高めていけ!」と指示を出す。じぃじ氏とKokiはすぐに理解したが、Iちゃんは「いや、後ろから放り込んでケネディの頭に合わせようよ」とのたまう。なんたるフットボール・リテラシーの欠如であろうか。しかし、蕎麦オリエンテッド・サッカーは実を結ばず、上田菅平ICに乗ってSAで何か食べるという放り込みになってしまったのは残念であった。

しかしほかに何のトラブルもなく、男4人旅はここで終わりに近づいた。高坂PAで交通費など精算。高速料金の千円政策のおかげもあり、ガソリン代含めて一人頭5千円ほど。

藤岡から多少渋滞したものの、全工程でほぼ渋滞もなかった。雨は少し降ったものの、これは雨男のせいで仕方ない。所沢ICで降りて浦和まで。着いたのは23時プラス1…。
金曜日の23時に出発し、48時間後に帰ってきた。総合プロデュースのじぃじ氏、あなたのプロデュース能力はすごすぎます。Iちゃん、実家はわからなかったけど、「イヌヤマ、オレ!」素晴らしい土地でした。またぜひ行ってみたい。Koki、これからもよろしく。

珍道中だったけど、なんかね、一生記憶に残るよ。


【Jリーグ】湘南・浦和戦

2010-08-22 01:44:39 | フットボール
1-4。



前半は完全に浦和の時間帯が続くも、得点に至らない。またいつものパターンか…。
しかし湘南も前半の守備に追われる時間の長さで消耗したのか、後半から入ったセルのアタックを止めきれない。10分、CKからのこぼれを左サイドで拾った宇賀神がフリーでクロスを入れると、ゴール前に残っていたスピラがヘッドであわせて先制。直後、今度はセルが突っかけ、左サイド寄りからファーを狙った技ありシュートで2点目。

33分には攻めあがった暢久がこれも狙いすましたシュートがポストを叩き、詰めたエジが決めて3点目。直後、またもエジがゴール。ロスタイムに1失点してしまったが、内容的には完勝。

スピラが攻守にわたっていい仕事をこなした。柏木が前節とはうって変わってまわりとうまく絡めた。それによってロビーの負担が減り、決定機に仕事をこなせた。

うまくまわるときはこんなものだが、さて次節の鹿島戦で同じように動けるのか。当たって砕けている場合ではなく、ここで結果がほしい。

阿部が前半で交代し、細貝はまだまだコンディションが完璧ではなく、セルは累積で次節は出場停止。スピラと暢久のCBが安定しているのが救いだが…。


【Jリーグ】浦和・仙台戦

2010-08-19 23:36:25 | フットボール
1-1。

柏木がフリーで走っている。しかしボールが出ない。

宇賀神がアタッカーに入り、前半はチャンスを多く作り出すが、得点まで至らないのはこのところのトレンドだ。あと一歩が出ないのはなぜか。

後半、右45度の絶好の位置でFKを与えてしまう。梁のキックは壁に当たってことなきを得たが、少し緊張がゆるんだか、23分にフェルナンジーニョにゴール際までえぐられ、オウン・ゴールでの失点。37分にエジのプレッシャーから相手オウン・ゴールで辛くも同点に追いついたが…。

柏木のように自分でスペースを作れる選手がいるのに、ショート・パスにこだわって?チャンスを逸することに何の意味があるのか。せっかくボールを持てるCMFが揃っているのだから、そこからオートマティックに展開すればいいだけではないのか。

ホームで「負けなくてよかった」とか言っていたくはない。

豊田犬山長野への旅・その参

2010-08-18 21:32:24 | 日常
(前回からの都築)

運転していたIちゃんが突然、「うわあっ」と絶叫した。

「実家がなくなってる!」とでもいうのかと思い、びっくりして運転席のIちゃんを見ると、
「昔あった煙草屋がなくなっちゃったよ~」とつぶやいた。PASMOの影響で街の煙草屋は打撃をこうむっているのだろう。

車はほどなく、犬山市民健康館「さら・さくら」に着いた。ここは明宝温泉の源泉を入れた露天風呂がある。Iちゃんの実家はいつの間にか通り過ぎていたらしい。
「さら・さくら」は地元の人でないと知らない健康施設だ。500円で温泉に浸かれ、タオルは100円で販売している。われわれはどう見ても地元民ではない風情で入っていったが、受付のおじさんはにこにこして迎えてくれた。露天風呂から上がり、座敷広間の休憩室に入る。まだ1時前で、休憩する人はそれほど多くない。
犬山は土地も人もいいところのようだ。「でも、“大山”っていう苗字の人がいたら、“てんなしさん”とか呼ばれちゃうんだろうね」とKokiに言うが、「浦和仮眠仮眠仮眠」とつぶやきながらすでに眠ってしまっていた。しかたなくわたしも横になる。それほど眠ってはいないのだが、少しテンションが上がっているせいか、あまり眠気はない。ごろごろしながら追想にふける。

2002年の日韓W杯(TM)ボランティアからスタートしたSSS、ボランティアが解散してからも、フットサルやなにやらのイベントを定期的に行い、なんと10年が過ぎた。ボランティア設立当初からかかわったIちゃん、中興の祖であるじぃじ、鉄砲玉のKoki。人との縁はまったく不思議なものだ。かくいうわたしも、30歳を過ぎてからこれだけロッカールームで時間を過ごすことになるとは夢にも思わなかった。そしてロッカールームで知り合った仲間との濃密な時間が、これほど大切になるとは思ってもいなかった。

3時になった。もうチェックイン可能とのことで、まず宿に入る。引き続きIちゃんのハンドルで、豊田市へ向かった。知人には名古屋に行くと言ったので「じゃあお土産はういろう」とか言われたが、名古屋を通り越して犬山、また通り越して豊田なので、名古屋市内には入らない。少し道は混んでいたが、順調に豊田市内に到着。トヨタ車に囲まれてアウェーの洗礼を感じながらも、空いてるタワーパーキングを見つけて車を止める。

じぃじ氏とKokiは着替え始める。と、Kokiが横目でこちらを睨んで「戦闘服はどうしたんですかい、兄い」と言う。Kokiはいつもは気のやさしい男だが、この旅では「若頭」とか「グラサン」とか言いながら気分に浸っているようだ。何の気分なのかはさっぱりわからない。ともかくスタジアムに入るからには戦闘服がなければならないが、木曜日の夜は飲みに出て、金曜の夜も集合まで遊んでいたので荷造りをあわてたせいで、戦闘服を忘れてきたのだ。それでも「タオマフがあれば闘えるさ」とうぞぶくつもりだったのだが、どうぼんやりしていたのか、なんとそのタオマフは宿に置いてきてしまった。「田尾マフならあるよ」とドラゴンズユニに着替えたIちゃんが言うが、もちろんそんなものはいらない。豊田スタジアムまで歩く。



スタジアムの手前に「にぎりの徳兵衛 豊田挙母店」がある。見たところたいへん混んでいるが、時間のないときの腹ごしらえには手っ取り早い。しばらく待ち、4人かけの席に座る。4皿ばかり食べるうちに、じぃじ氏は10皿ほどを重ねている。旺盛な食欲だ。鯵のにぎりは悪くなかった。6時半近くなり、店を出る。いつもならば遅くとも「そろそろ、行こうか!」までには入っているのだが、今回は呉越同舟のバックスタンドということもあり、あまり慌てて入る雰囲気ではない。このあたりが男4人旅の呼吸でもあろうか。しかし、スタジアムに近づくと知らずのうちにテンションは高くなる。

ゲートをくぐると、スタジアム内から名古屋の4番の選手紹介アナウンスが聞こえてきた。じぃじ氏とKokiはすかさず「ブゥーッ!!」と反応する。浦和の漢だ。一瞬遅れてわたしも「ブブブブー」と続く。すると前を歩いていたIちゃんが、冷たい眼で振り返り「なんだ、ブブゼラかよ」と言う。タオマフすら持っていないわたしは反撃もできない。すでに気持ちで負けているのか。気づくとIちゃんは鯱ユニを纏っている。ドラゴンズユニと思ったのは錯覚だったのだろうか。



スタジアムに入り、出た。正味2時間もスタジアムに滞留しなかったのは初めてのことだ。豊田スタジアムはいいサッカー場だが、コンテンツがもう少し充実しないとレッズ・サポはリピートしないだろう。地方のハコものの課題でもある。帰路、コンビニで買出しをして宿に戻り、部屋飲み。ビール、マッコリと進んで最後は日本酒もあったようだが、たぶんKokiが飲んだのだろう。翌朝は9時半に集合して宿を出立。まず向かったのは昨朝と同じく「コメダ珈琲店犬山五郎丸店」である。

初日と同じくコメダのメニューだが、一度来訪して勝手知ったるとばかりに注文をした。
それぞれ飲み物を頼み、モーニングセット。さらにサンドウイッチなどを頼む。地元出身のIちゃんが「小倉トースト」と追加し、場は緊張した。別に不思議な食べ物ではないと思うが、昨日の豊田スタジアムの後では、何かあるのかと思うほうが普通だろう。
銘々が注文したものを平らげ、最後に小倉トーストが残っている。「ぜんぜんOKですよ。僕は嫌いだけど」とIちゃんがわからんことを言い、かっとしたわたしがつい手を出した。勢い、トーストにマーガリンを塗り、小倉餡を乗せ、口に運ぶ。これはっ…

「トーストにあんこを乗せた味がする!」



要は、美味い。べつだんおかしな食べ物ではない。ほっとしたようにKokiも手を出し、小倉トーストを作るが…最後にひっくり返して食べている。Kokiの語学力は駐在先のアメリカで培われたようだが、かの地でかような不思議な食べ方を覚えたのだろうか。粘度の高い小倉餡のおかげで剥落することはなかったようだが、それにしても不思議な食べ方だ。

じぃじ氏がトーストに手を出さない。さっきまで注文したサンドウイッチをエメのごときスピードで平らげていたのだが、今のじぃじ氏はエジ並みの突破力しか示せていない。どうしたことだろうか。しかし、この小倉トーストは本当に美味い。トーストのしっかりした食感と小倉餡の少しぼそっとした皮の違和感をマーガリンが絶妙に中和している。「コメダ珈琲店」は都内や埼玉にも進出しているようなので、今後はじぃじ氏にも慣れていただきたいものだ。

「コメダ珈琲店」のモーニングは11寺まで。ここからはのんびりと長野県をまわることとした。

(続く)






豊田犬山長野への旅・その弐

2010-08-17 22:34:12 | 日常
犬山城は国宝だ。国宝の城は彦根、姫路、松本、そして犬山の4城しかない。
1537年に織田信長の叔父、信康が建造。有名な小牧長久手の戦いで豊臣秀吉が入場し、小牧城の徳川家康と対峙したことでも知られている。



現在残るのは天守閣だけだが、この中に上ると裏の木曽川が一望でき、絶景である。





寝不足のKokiはよたよたと急階段を上るが、中の畳敷きを見るなり「ここで横になってもいいすか?」と聞く。高所恐怖症のわたしはそんな戯言に付き合っている気分ではなく、そそくさと階下に下りる。

城は素晴らしいものだったが、実はその近くにあるもうひとつの国宝のほうが気になっていた。じぃじ氏とKokiは再び「仮眠仮眠仮眠」と唱えつつ車に戻る。Iちゃんは地元で元カノと遭遇しやしないかとそわそわし、仮眠どころではないらしい。そこで、連れ立って徒歩5分ほどの「有楽苑」へと向かった。



ここは「ゆうらくえん」ではなく「うらくえん」だ。織田信長の実弟である大茶匠、織田有楽斎が、京都建仁寺境内に建てた茶室、如庵がここに移築されている。





国宝の茶室は待庵(伝千利休作)、密庵(小堀遠州好)、そしてこの如庵しかない。犬山とはなんという土地なのであろうか。有楽苑の広々とした敷地はただならぬ手入れがなされ、美しい苔があたりを覆っている。いつまでも歩いていたいような庭園の真ん中に如庵があり、隣の旧正伝院書院(重要文化財)の縁側で、抹茶のもてなしを受けることができる。入園と抹茶、合わせて1,300円の券を買っていたので、迷わず抹茶をいただく。



如庵の中には残念ながら入れないが、にじり口から覗いただけでも、その斬新な意匠には感銘を受けた。



いつまでも庭園にいたいが、そうもいかない。もうすぐ時分時だ。仮眠の二人を電話で起こし、合流してから犬山の街路をのんびり散歩する。電線の地中化ですっきりした街並みだ。山車を納めた建屋がある。春に開催される「犬山祭り」は、カラクリ人形が仕込まれた車山が大勢繰り出し、なかなか盛大なものらしい。
「この建屋に山車じゃなくて出汁が入ってたらどうだろうね」とKokiに言う。「そりゃ、扉を開けた途端におひたしになるって寸法ですかい、旦那」城下町を歩くと、言葉遣いもこうなってしまうらしい。自販機で缶入りの「カレーうどん」を売っているのも情緒がある。

20分ほども歩いて、「菜めしでんがく 松野屋」に到着。11時に開店したばかりだが、すでに店内は賑わっている。入れ込みの座敷とテーブル席、さらに奥にも別棟があるようだ。老舗らしい佇まいがいい感じだ。
品書きには田楽と菜めししかない。千円で菜めしの付いた定食の田楽は豆腐。そのほかに単品の芋、肉、田螺の田楽がある。それぞれ定食を頼み、単品の田楽も頼んで分けることにした。
定食の菜めしは大中小。わたしが小を頼むと、Kokiが「ビールも頼むぞなもし」と急に伊予弁になった。「菜めし」と「なもし」をかけるのは夏目漱石以来習いある覚えである。Kokiは英語がペラペラだけあって、言語感覚に秀でている。
豆腐田楽は1人前8本もあるが、小ぶりでふわりとした豆腐なので、これはいくらでも食べられる。少し甘めの八丁味噌が焦げる香ばしさが、生ビールとの絶妙なマリアージュを醸し出す。運転をする3人はもちろん飲まない。一人で飲むのは罪悪感があるが、昨日は飲んでいないからいいだろう、と納得する。自分勝手とはまさにこのことだ。





ひっきりなしにお客さんが入ってくる。観光客らしき人もいるが、地元の方も多い。手ごろな値段で美味しく食べられるものが身近にあるのは素晴らしいだろう。田螺の田楽は癖もなく、こりっとした食感が楽しめた。

食事が済むと、次の目的地は温泉だ。前日夜に出発してから途切れ途切れの仮眠しかとっていない。豊田スタジアム入りまではまだまだ時間がある。健康ランドの類がいろいろあるようだが、地元出身のIちゃんが安くてくつろげるところを知っているというので、そこを目指すことになった。
地元に帰省したというのに、Iちゃんは実家に顔を出さないのだろうか。「いや、またすぐ来ることになってるから…」というのだが、不審な挙動だ。まあ、シャイなIちゃんらしくもある。SSSにはシャイな人が多い。SSSレディースはどうか知らないが。「これから実家の前を通るので、それだか当ててみてよ」とIちゃん。そんな無茶な話があるものか。でも、表札でわかるかもしれないので、道沿いの家を眺めながら進む。

車が十字路にさしかかったところで、運転していたIちゃんが突然、「うわあっ」と絶叫した。

「実家が…なくなってる!」

(続く)