善戦者不怒ブログ

日常・趣味に関するブログです。
将棋、彫刻、フットボール、音楽、読書。

「浦和再生」島崎良純・著

2010-04-26 22:23:35 | 読書


ハードディスク・レコーダーの容量が一杯になりそうなので、昨シーズンのゲームの録画を消去しつつある。消去しながらもちょこちょと試合を見ていると、本書に書かれているフィンケ監督を迎えた09シーズンの記憶がリアルに蘇ってきた。今シーズンの参戦へのガイドとしてはよい本だと思う。

という思いとある意味、逆になるのだが、いちばんはっとしたのは、74ページの記述にある監督のコメント。

「すべてのチームが同じシステムでプレーして、いつもそれぞれの選手が固定したポジションでプレすることになると、最も優れた選手たちを揃えるチームが順位表でトップにいることでしょう。そして、あまり強い個性を持たない選手たちがいるチームは下位に沈む傾向になる。しかし、これではサッカーの可能性がなくなってしまいます」

フィンケ監督はドイツで教師をしていた人だが、クラブ監督としての能力を発揮してフットボール界で活躍してきた。そうした出自が影響しているのかはわからないが、このコメントからは、自分の率いるクラブだけの隆盛というより、その国のフットボール環境全体のほうに視点があるように思える。新たな視点を日本のサッカー界に持ち込んでくれること、それはそれでよい。しかし、この監督で浦和も強くなって欲しい。その二律背反(になるのか?)を、しばらく楽しんでみたい。




【繰り返し読む本】池波正太郎「仕掛人・藤枝梅安」

2009-08-13 23:37:56 | 読書
時代小説にまったく興味はなかったのだが、20代中盤の頃、
通勤時に読む本がなくなり、当時住んでいた東高円寺駅上の書店で、
「まあこれもありか…」と手にとったのが池波正太郎「鬼平犯科帖」だった。

はあ~、こんなに面白く読みやすいのか!というのが正直な感想。それから1日1冊、毎日買い足していくはめになった。書店の店員さんはどう見ていたのだろう?

「鬼平犯科帖」はさておくとして、「仕掛人・藤枝梅安」。同じ作者によるシリーズ。池波さんの作品ではいちばん好きなシリーズだ。たぶん、職業殺人者である梅安が、暗殺を終えるたびに安息を求め、そこに料理が関わっているからだろう。

自宅で食事をするときの梅安は当時の江戸の食文化らしく、「根深汁と飯」「鯊の煮付け」「鰹の中落ち」などを食べる。暗殺の厳しさと対になった食事の切実さがシリーズのリアルさを醸し出しているのだろうか。



北方謙三「楊令伝第十巻」

2009-07-30 22:23:07 | 読書
前巻、宋禁軍・童貫を討ったところでそろそろ完結かと思っていたのだが、
まったく終わらない。

水滸伝リメイクでリアリティを追求した結果、単なる好漢武勇伝で終わらないことはもちろん承知だが、楊令に新たな建国、しかも戦を前提としない構想を持たせるというのは驚いた。こうなると呉用、杜興の存在感が増してくるのは当然で、さらにまったりとしてくるわけだ。

あまりにまったりしているわけにもいかず、韓世忠が拠った梁山湖に李俊と項充で攻め込むあたりはビビッド。二世の行く末、公孫勝や戴宋の今後、女真から西夏、契丹と地理的にも広がる要素をどうまとめるのか。まだまだ続きそうな空気。

村上春樹「1Q84」

2009-06-02 20:36:14 | 読書
「贖罪」や「再生」や「犠牲」、キーワードはあまり変わらないのだろうが、モラルに関する意識の変化に応じて、作家の造形に微妙な変化があるのかもしれない。

「羊をめぐる冒険」にせよ「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」にせよ、ある意味「アフターダーク」も同じような世界を描いているのだろうけれど、キャラクターは再生の旅路へと発っていけている(そこに希望のあるなしはさておき)。しかし、青豆は(“空気さなぎ”による再生の予感ははらみつつも)、あゆみを救いきれなかったという自己への絶望をぬぐいきれずに、こうした最期を選択せざるをえない。ただ、青豆の希望は天吾に受け継がれる。

天吾もさまざまな喪失に直面しながら、最後は前を向いていく。
それは、「再生の孤独な旅路へと発つ」のではなく、「喪失の痛みを分かち合いながら共生する」ということへの変化か。

ドナルド・E・ウェストレイク

2009-01-03 23:59:40 | 読書
昨年暮れに、メキシコで亡くなったとのこと。75歳。

とにかくプロフェッショナルな作家、というイメージなのだが、脚本家としても活躍していたという一面がそのイメージを増幅しているのだろうか? 「悪党パーカー」はシリーズ化するつもりはなかったらしいが、駄作でもそこそこの水準を保っている。「ドートマンダー」ものも、お決まりのネタがときに鼻につくこともあれ、際立ったキャラクター造形がストーリーを引っ張っていく。キャラクター造り、ストーリーのひねり、いずれにも才能を発揮できた器用さがあったのだろうが、それだけにとどまらない読み応えをもたらしたのは、どれほど乾いた場面でも滲み出たユーモアのセンスがあったからだと思う。

「殺し合い」「憐れみはあとに」「斧」が好みのベスト3。