竹取翁と万葉集のお勉強

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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻九

2020年08月09日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
己々末幾仁安多留未幾
巻九

己比乃宇多比止
恋歌一

歌番号五〇七
加良宇之天安比志利天者部利个留飛止尓徒々武己止安利天
阿比可多久侍計連者
加良宇之天安比志利天侍个留人尓徒々武己止安利天
阿比可多久者部利計連者
からうじて逢ひ知りて侍りける人に、つつむことありて、
逢ひがたく侍りければ

美奈毛堂乃武祢由幾乃安曾无
源宗于朝臣
源宗于朝臣

原文 安徒末地乃佐也乃奈可也末奈可/\尓安飛三天乃知曽和飛之可利个留
定家 安徒末地乃佐也乃中山中/\尓安飛見天乃知曽和飛之可利个留
和歌 あつまちの さやのなかやま なかなかに あひみてのちそ わひしかりける
解釈 東路の小夜の中山なかなかに逢ひ見てのちぞわびしかりける

歌番号五〇八
志乃比多利遣流飛止尓毛乃可多利之者部利遣留遠
飛止乃佐者可之久者部利个礼者満可利加部利天
徒可者之个累
志乃比多利遣流人尓毛乃可多利之侍遣留遠
人乃佐者可之久侍个礼者満可利加部利天
徒可者之个累
しのびたりける人に物語りし侍りけるを
人の騒がしく侍りければ、まかり帰りて
つかはしける

徒良由幾
従良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 安可従幾止何可以飛个武和可留礼者与為毛以止己曽和比之可利个礼
定家 暁止何可以飛个武和可留礼者夜為毛以止己曽和比之可利个礼
和歌 あかつきと なにかいひけむ わかるれは よひもいとこそ わひしかりけれ
解釈 暁と何かいひけむ別るれば宵もいとこそわびしかりけれ

歌番号五〇九
美奈毛止乃於保幾可々与比者部り个留遠乃知/\者満可良春奈里
者部利尓个礼者止奈利乃加部乃安奈与利於本幾遠者徒可尓
見天徒可者之遣流
源乃於保幾可々与比侍个留遠乃知/\者満可良春奈里
侍尓个礼者止奈利乃加部乃安奈与利於本幾遠者徒可尓
見天徒可者之遣流
源巨城が通ひ侍りけるを後々はまからずなり
侍りにければ隣の壁の穴より巨城をはつかに
見てつかはしける

春累加
春累加
するか(駿河)

原文 満止呂万奴加部尓毛飛止遠三川留可奈満左之可良南者留乃与乃以女
定家 満止呂万奴加部尓毛人遠見川留哉満左之可良南春乃夜乃夢
和歌 まとろまぬ かへにもひとを みつるかな まさしからなむ はるのよのゆめ
解釈 まどろまぬ壁にも人を見つるかなまさしからなん春の夜の夢

歌番号五一〇
安飛志利天者部利遣流飛止乃毛止尓可部利己止三武止天
徒可者之个留
安飛志利天侍遣流人乃毛止尓返事見武止天
徒可者之个留
あひ知りて侍りける人のもとに返事見むとて
つかはしける

毛止与之乃美己
元良乃美己
元良のみこ(元良親王)

原文 久也/\止満川由不久礼止以末者止天加部留安之堂止以徒礼万左礼利
定家 久也/\止満川由不久礼止今者止天加部留朝止以徒礼万左礼利
和歌 くやくやと まつゆふくれと いまはとて かへるあしたと いつれまされり
解釈 来や来やとまづ夕暮れと今はとて帰る朝といづれまされり

歌番号五一一
可部之
返之
返し

布知八良乃加徒美
藤原加徒美
藤原かつみ(藤原勝美)

原文 遊不久礼者末従尓毛加々留之良川由乃越久留安之堂也幾衣者々川良武
定家 遊不久礼者松尓毛加々留白露乃越久留朝也幾衣者々川良武
和歌 ゆふくれは まつにもかかる しらつゆの おくるあしたや きえははつらむ
解釈 夕暮れは松にもかかる白露の送る朝や消えば果つらむ

歌番号五一二
也満止尓安飛之利天者部利个留比止乃毛止尓
徒可者之遣流
也満止尓安飛之利天侍个留人乃毛止尓
徒可者之遣流
大和にあひ知りて侍りける人のもとに
つかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 宇知返之幾美曽己飛之幾也満止奈留布留乃和佐多乃於毛比以天川々
定家 宇知返之君曽己飛之幾也満止奈留布留乃和佐田乃思以天川々
和歌 うちかへし きみそこひしき やまとなる ふるのわさたの おもひいてつつ
解釈 うち返し君ぞ恋しき大和なる布留の早稲田の思ひ出でつつ

歌番号五一三
可部之
返之
返し

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 安幾乃堂乃以祢天不己止遠加遣之可波於毛比以徒留可宇礼之遣毛奈之
定家 秋乃田乃以祢天不事遠加遣之可波思以徒留可宇礼之遣毛奈之
和歌 あきのたの いねてふことを かけしかは おもひいつるか うれしけもなし
解釈 秋の田の稲てふ事をかけしかば思ひ出づがうれしげもなし

歌番号五一四
於无奈尓徒可者之个累
女尓徒可者之个累
女につかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 飛止己不留己々呂者可利者曽礼奈可良和礼者和礼尓毛安良奴奈利个里
定家 人己不留心許者曽礼奈可良我者和礼尓毛安良奴奈利个里
和歌 ひとこふる こころはかりは それなから われはわれにも あらぬなりけり
解釈 人恋ふる心ばかりはそれながら我は我にもあらぬなりけり

歌番号五一五
満可留止己呂志良世寸者部利个留己呂
末堂安比之利天者部利个累於止己乃毛止与利
飛己呂堂川祢和日天宇世尓堂留止奈武
於毛比川留止以部里遣礼者
満可留所志良世寸侍个留己呂
又安比之利天侍个累於止己乃毛止与利
日己呂堂川祢和日天宇世尓堂留止奈武
思川留止以部里遣礼者
まかる所知らせう侍りけるころ、
又あひ知りて侍りける男のもとより、
日ごろ訪ねわびて、失せにたるとなむ
思ひつると言へりければ

以世
伊勢
伊勢

原文 於毛比可者堂衣寸奈可流々美川乃安者乃宇多可多飛止尓安者天幾衣女也
定家 於毛比河堂衣寸奈可流々水乃安者乃宇多可多人尓安者天幾衣女也
和歌 おもひかは たえすなかるる みつのあわの うたかたひとに あはてきえめや
解釈 思ひ河絶えず流るる水の泡のうたかた人に逢はで消えめや

歌番号五一六
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

美无祢乃幾无多々
三統公忠
三統公忠

原文 於毛比也累己々呂者川祢尓加与部止毛安不佐加乃世幾己衣寸毛安留可奈
定家 思也累心者川祢尓加与部止毛相坂乃関己衣寸毛安留哉
和歌 おもひやる こころはつねに かよへとも あふさかのせき こえすもあるかな
解釈 思ひやる心は常に通へども相坂の関越えずもあるかな

歌番号五一七
於无奈尓徒可者之遣留
女尓徒可者之遣留
女につかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 幾衣者天々也美奴者可利可止之遠部天幾美遠於毛日乃志留之奈个礼者
定家 幾衣者天々也美奴許可年遠部天君遠思日乃志留之奈个礼者
和歌 きえはてて やみぬはかりか としをへて きみをおもひの しるしなけれは
解釈 消え果てやみぬばかりか年を経て君を思ひのしるしなければ

歌番号五一八
可部之
返之
返し

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 於毛比多尓志留之奈之天不和可三尓曽安者奴奈个木乃加寸者毛衣个留
定家 於毛比多尓志留之奈之天不和可身尓曽安者奴奈个木乃加寸者毛衣个留
和歌 おもひたに しるしなしてふ わかみにそ あはぬなけきの かすはもえける
解釈 思ひだにしるしなしてふ我が身にぞあはぬなげ木の数は燃えける

歌番号五一九
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 保之加天尓奴礼奴部幾可奈加良己呂毛加者久多毛止乃世々尓奈遣礼者
定家 保之加天尓奴礼奴部幾哉唐衣加者久多毛止乃世々尓奈遣礼者
和歌 ほしかてに ぬれぬへきかな からころも かわくたもとの よよになけれは
解釈 ほしがてに濡れぬべきかな唐衣乾く袂の世々になければ

歌番号五二〇
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 世止々毛尓安不久満可者乃止遠遣礼者曽己奈留可計遠三奴曽和日之幾
定家 世止々毛尓安不久満河乃止遠遣礼者曽己奈留影遠見奴曽和日之幾
和歌 よとともに あふくまかはの とほけれは そこなるかけを みぬそわひしき
解釈 世とともに阿武隈河の遠ければ底なる影を見ぬぞわびしき

歌番号五二一
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 和可己止久安飛思不比止乃奈幾止幾者不可幾己々呂毛加比奈可利个里
定家 和可己止久安飛思不人乃奈幾時者深幾心毛加比奈可利个里
和歌 わかことく あひおもふひとの なきときは ふかきこころも かひなかりけり
解釈 我がごとくあひ思ふ人のなき時は深き心もかひなかりけり

歌番号五二二
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 伊川之可止和可末従也万尓以末者止天己由奈留奈三尓奴留々曽天可奈
定家 伊川之可止和可松山尓今者止天己由奈留浪尓奴留々袖哉
和歌 いつしかと わかまつやまに いまはとて こゆなるなみに ぬるるそてかな
解釈 いつしかとわが松山に今はとて越ゆなる浪に濡るる袖かな

歌番号五二三
於无奈乃毛止尓徒可者之遣流
女乃毛止尓徒可者之遣流
女のもとにつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 飛止己止八満己止奈利个利志多比毛乃止个奴尓志留幾己々呂止於毛部八
定家 飛止己止八満己止也个利志多比毛乃止个奴尓志留幾心止思部八
和歌 ひとことは まことなりけり したひもの とけぬにしるき こころとおもへは
解釈 人言はまことなりけり下紐の解けぬにしるき心と思へば

歌番号五二四
於无奈乃毛止尓徒可者之遣流
女乃毛止尓徒可者之遣流
女のもとにつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 无寸比遠幾之和可志多比毛乃以末万天尓止个奴者飛止乃己比奴奈利个利
定家 結遠幾之和可志多比毛乃今万天尓止个奴者人乃己比奴也个利
和歌 むすひおきし わかしたひもの いままてに とけぬはひとの こひぬなりけり
解釈 結び置きし我が下紐の今までに解けぬは人の恋ひぬなりけり

歌番号五二五
於无奈乃毛止尓川可者之遣流
女乃毛止尓川可者之遣流
女の人のもとにつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 保可乃世者布可久奈留良之安寸可々者幾乃不乃布知曽和可三奈利遣留
定家 保可乃世者布可久奈留良之安寸可河昨日乃布知曽和可身奈利遣留
和歌 ほかのせは ふかくなるらし あすかかは きのふのふちそ わかみなりける
解釈 ほかの瀬は深くなるらし明日香河昨日の淵ぞわが身なりける

歌番号五二六
可部之
返之
返し

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 布知世止毛以左也志良奈三堂知左波久和可三飛止川者与留可多毛奈之
定家 布知世止毛以左也志良浪立左波久和可身飛止川者与留方毛奈之
和歌 ふちせとも いさやしらなみ たちさわく わかみひとつは よるかたもなし
解釈 淵瀬ともいざや白浪立ち騒ぐ我が身一つは寄る方もなし

歌番号五二七
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 飛可利満川々由尓己々呂遠々个留三者幾衣可部利川々与遠曽宇良武留
定家 飛可利満川々由尓心遠々个留身者幾衣可部利川々世遠曽宇良武留
和歌 ひかりまつ つゆにこころを おけるみは きえかへりつつ よをそうらむる
解釈 光待つ露に心を置ける身は消えかへりつつ世をぞ恨むる

歌番号五二八
安留止己呂尓於保三止以比个留飛止乃毛止尓徒可者之遣流
安留所尓近江止以比个留人乃毛止尓徒可者之遣流
ある所に近江と言ひける人のもとにつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 志保見多奴宇美止幾个者也世止々毛尓三留女奈久之天止之乃部奴良无
定家 志保見多奴宇美止幾个者也世止々毛尓見留女奈久之天年乃部奴良无
和歌 しほみたぬ うみときけはや よとともに みるめなくして としのへぬらむ
解釈 潮満たぬ海と聞けばや世とともにみるめなくして年の経ぬらん

歌番号五二九
安徒与之乃美己満宇天幾多利个礼止安者寸之天
加部之天末多乃安之多尓徒可者之遣留
安徒与之乃美己満宇天幾多利个礼止安者寸之天
加部之天又乃安之多尓徒可者之遣留
敦慶親王まうで来たりけれど、逢はずして帰して、
又の朝につかはしける

可従良乃美己
桂乃美己
桂のみこ(桂内親王)

原文 可良己呂毛幾天可部利尓之佐与寸可良安者礼止於毛遠宇良武良无八多
定家 唐衣幾天帰尓之佐与寸可良安者礼止思不遠宇良武良无八多
和歌 からころも きてかへりにし さよすから あはれとおもふを うらむらむはた
解釈 唐衣着て帰りにし小夜すがらあはれと思ふを恨むらんはた

歌番号五三〇
安飛満知个留比止乃飛佐之宇世宇曽己奈可利个礼者
徒可者之个累
安飛待知个留人乃飛佐之宇世宇曽己奈可利个礼者
徒可者之个累
あひ待ちける人の、久しう消息なかりければ
つかはしける

幾乃女乃止
幾乃女乃止
きのめのと(紀乳母)

原文 加計多尓毛三衣寸奈利由久也末乃為者安左幾与利末多三川也多衣尓之
定家 影多尓毛見衣寸奈利由久山乃井者安左幾与利又水也多衣尓之
和歌 かけたにも みえすなりゆく やまのゐは あさきよりまた みつやたえにし
解釈 影だにも見えずなりゆく山の井は浅きより又水や絶えにし

歌番号五三一
加部之
返之
返し

多比良乃左多不无
平定文
平定文

原文 安左之天不己止遠由々之美也末乃為八保利之尓己利尓加計者三衣奴曽
定家 浅之天不事遠由々之美山乃井八保利之濁尓影者見衣奴曽
和歌 あさしてふ ことをゆゆしみ やまのゐは ほりしにこりに かけはみえぬそ
解釈 浅してふ事をゆゆしみ山の井は掘りし濁りに影は見えぬぞ

歌番号五三二
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 以久多比可以久多乃宇良尓堂知加部利奈三尓和可三遠宇知奴良寸良无
定家 以久多比可以久多乃浦尓立帰浪尓和可身遠打奴良寸良无
和歌 いくたひか いくたのうらに たちかへり なみにわかみを うちぬらすらむ
解釈 いく度か生田の浦に立ち帰る浪に我が身をうち濡らすらん

歌番号五三三
加部之
返之
返し

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 堂知加部利奴礼天者飛奴留志本奈礼八伊久多乃宇良乃佐可止己曽三礼
定家 立帰利奴礼天者飛奴留志本奈礼八伊久多乃浦乃佐可止己曽見礼
和歌 たちかへり ぬれてはひぬる しほなれは いくたのうらの さかとこそみれ
解釈 立ち帰り濡れては干ぬる潮なれば生田の浦のさがとこそ見れ

歌番号五三四
於无奈乃毛止尓
女乃毛止尓
女のもとに

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 安不己止者以止々久毛為乃於本曽良尓太川名乃美之天也三奴者可利可
定家 逢事者以止々雲井乃於本曽良尓太川名乃美之天也三奴許可
和歌 あふことは いととくもゐの おほそらに たつなのみして やみぬはかりか
解釈 逢ふ事はいとど雲井の大空に立つ名のみしてやみぬばかりか

歌番号五三五
加部之
返之
返し

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 与曽奈可良也満无止毛世須安不己止八以末己曽久毛乃多衣万奈留良女
定家 与曽奈可良也満无止毛世須逢事八今己曽雲乃多衣万奈留良女
和歌 よそなから やまむともせす あふことは いまこそくもの たえまなるらめ
解釈 よそながらやまんともせず逢ふ事は今こそ雲の絶え間なるらめ

歌番号五三六
末多於止己
又於止己
又、男

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 以末乃美止堂乃武奈礼止毛志良久毛乃多衣万者以川可安良无止寸良无
定家 今乃美止堂乃武奈礼止毛白雲乃多衣万者以川可安良无止寸良无
和歌 いまのみと たのむなれとも しらくもの たえまはいつか あらむとすらむ
解釈 今のみと頼むなれども白雲の絶え間はいつかあらんとすらん

歌番号五三七
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 遠也美世春安女左部布礼者左波三従乃万佐留良无止毛於毛本由留可奈
定家 遠也美世春雨左部布礼者沢水乃万佐留覧止毛於毛本由留哉
和歌 をやみせす あめさへふれは さはみつの まさるらむとも おもほゆるかな
解釈 小止みせず雨さへ降れば沢水のまさるらんとも思ほゆるかな

歌番号五三八
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 以女尓多尓三留己止曽奈幾止之遠部天己々呂乃止可尓奴留与奈个礼八
定家 夢尓谷見留事曽奈幾年遠部天心乃止可尓奴留夜奈个礼八
和歌 ゆめにたに みることそなき としをへて こころのとかに ぬるよなけれは
解釈 夢に谷見る事ぞなき年を経て心のどかに寝る夜なければ

歌番号五三九
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 三曽女寸天安良万之毛乃遠加良己呂毛堂川名乃美之天幾留与奈幾加奈
定家 見曽女寸天安良万之物遠唐衣堂川名乃美之天幾留与奈幾哉
和歌 みそめすて あらましものを からころも たつなのみして きるよなきかな
解釈 見そめずてあらまし物を唐衣立つ名のみして着る夜なきかな

歌番号五四〇
於无奈乃毛止尓徒可者之遣留
女乃毛止尓徒可者之遣留
女のもとにつかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 加礼者川留者奈乃己々呂者徒良可良天止幾寸幾尓个留三遠所宇良武流
定家 枯者川留花乃心者徒良可良天時寸幾尓个留身遠所宇良武流
解釈 枯れはつる花の心はつらからて時すきにける身をそうらむる
和歌 枯れ果つる花の心はつらからで時過ぎにける身をぞ恨むる

歌番号五四一
加部之
返之
返し

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 安多尓己曽知留止三留良女幾美尓美奈宇川呂日尓多留者奈乃己々呂遠
定家 安多尓己曽知留止見留良女君尓美奈宇川呂日尓多留花乃心遠
和歌 あたにこそ ちるとみるらめ きみにみな うつろひにたる はなのこころを
解釈 あだにこそ散ると見るらめ君にみな移ろひにたる花の心を

歌番号五四二
曽乃本止尓加部利己无止天毛乃尓万可利个留飛止乃本止遠寸久之天
己左利个礼者徒可者之个累
曽乃本止尓帰己无止天毛乃尓万可利个留人乃本止遠寸久之天
己左利个礼者徒可者之个累
そのほどに帰り来んとてものにまかりける人の、ほどを過ぐして
来ざりければつかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 己武止以比之従幾比遠春久寸遠者寸天乃也末乃八川良幾毛乃尓曽有个留
定家 己武止以比之月日遠春久寸遠者寸天乃山乃八川良幾物尓曽有个留
和歌 こむといひし つきひをすくす をはすての やまのはつらき ものにそありける
解釈 来むといひし月日を過ぐす姨捨の山の端つらき物にぞ有ける

歌番号五四三
加部之
返之
返し

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 従幾比遠毛加曽部遣留可奈幾美己不留加寸遠毛志良奴和可三奈尓奈利
定家 月日遠毛加曽部遣留哉君己不留加寸遠毛志良奴和可身奈尓也
和歌 つきひをも かそへけるかな きみこふる かすをもしらぬ わかみなになり
解釈 月日をも数へけるかな君恋ふる数をも知らぬ我が身なになり

歌番号五四四
於无奈尓止之遠部天己々呂左之安留与之遠乃多宇比和多利遣利
於无奈奈保己止之遠多尓満知久良世止多乃女个留遠
曽乃止之毛久礼天安久留者留万天以止川礼奈久者部利个礼者
女尓年遠部天心左之安留与之遠乃多宇比和多利遣利遠
女猶己止之遠多尓満知久良世止多乃女个留
曽乃年毛久礼天安久留春万天以止川礼奈久侍个礼者
女に年を経て心ざしあるよしをのたうびわたりけり。
女、「なほ今年をだに待ち暮らせ」と頼めけるを、
その年も暮れて、明くる春までいとつれなく侍りければ

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 己乃免者留/\乃也末多遠宇知可部之於毛日也美尓之飛止曽己比之幾
定家 己乃免者留/\乃山田遠打返之思也美尓之人曽己比之幾
和歌 このめはる はるのやまたを うちかへし おもひやみにし ひとそこひしき
解釈 このめはる春の山田をうち返し思ひやみにし人ぞ恋ひしき

歌番号五四五
己々呂左之安利奈可良衣安者寸者部利个留於无奈乃毛止尓川可八之个留
心左之有奈可良衣安者寸侍个留女乃毛止尓川可八之个留
心ざしありながらえ逢はず侍りける女のもとにつかはしける

於久留於保萬豆利古止乃於保萬豆岐美
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 古呂遠部天安比三奴止幾者之良堂末乃奈美多毛者留者以呂万佐利个利
定家 古呂遠部天安比見奴時者白玉乃涙毛春者色万佐利个利
和歌 ころをへて あひみぬときは しらたまの なみたもはるは いろまさりけり
解釈 ころを経てあひ見ぬ時は白玉の涙も春は色まさりけり

歌番号五四六
可部之
返之
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 飛止己布留那美堂者者留曽奴留美个留太衣奴於毛比乃和可寸奈流部之
定家 人己布留涙者春曽奴留美个留太衣奴於毛比乃和可寸奈流部之
和歌 ひとこふる なみたははるそ ぬるみける たえぬおもひの わかすなるへし
解釈 人恋ふる涙は春ぞぬるみける絶えぬ思ひのわかすなるべし

歌番号五四七
於止己乃己々加之己尓加与比寸武止己呂於本久天
川祢尓之毛止者左利个礼者於无奈毛末多以呂己乃美奈留奈
多知計累遠宇良美者部利个留可部之己止尓
於止己乃己々加之己尓加与比寸武所於本久天
川祢尓之毛止者左利个礼者女毛又色己乃美奈留名
多知計累遠宇良美侍个留返事尓
男の、ここかしこに通ひ住む所多くて
常にしも訪はざりければ、女も又色好みなる名
立ちけるを、恨み侍りける返事に

美奈毛堂乃堂乃武可武寸女
源堂乃武可武寸女
源たのむかむすめ(源頼女)

原文 徒良之鞆以加々宇良美武保止々幾寸和可也止知可久奈久己恵者世天
定家 徒良之鞆以加々怨武郭公和可也止知可久奈久声者世天
和歌 つらしとも いかかうらみむ ほとときす わかやとちかく なくこゑはせて
解釈 つらしともいかが怨む郭公我が宿近く鳴く声はせで

歌番号五四八
可部之
返之
返し

安徒与之乃美己
安徒与之乃美己
あつよしのみこ(敦慶親王)

原文 左止己止尓奈幾己曽和多礼保止々幾寸春美可佐堂女奴幾美堂川奴止帝
定家 里己止尓鳴己曽渡礼郭公春美可定奴君堂川奴止帝
和歌 さとことに なきこそわたれ ほとときす すみかさためぬ きみたつぬとて
解釈 里ごとに鳴きこそ渡れ郭公すみか定めぬ君訪ぬとて

歌番号五四九
盈可多可留部幾於无奈遠於毛日可个天川可者之遣留
盈可多可留部幾女遠思可个天川可者之遣留
得がたかるべき女を思ひかけてつかはしける

者留三知乃徒良幾
春道乃徒良幾
春道のつらき(春道列樹)

原文 加春奈良奴美也末加久礼乃保止々幾寸飛止之礼奴祢遠奈幾徒々曽布留
定家 加春奈良奴美山加久礼乃郭公人之礼奴祢遠奈幾徒々曽布留
和歌 かすならぬ みやまかくれの ほとときす ひとしれぬねを なきつつそふる
解釈 数ならぬ深山隠れの郭公人知れぬ音を鳴きつつぞ経る

歌番号五五〇
以止志乃日多留於无奈尓安比可多良日天乃知
飛止女尓徒々美天万多安比可多久者部利个礼者
以止志乃日多留女尓安比可多良日天乃知
人女尓徒々美天又安比可多久侍个礼者
いとしのびたる女にあひ語らひてのち、
人目につつみて、又逢ひがたく侍りければ

己礼多々乃美己
己礼多々乃美己
これたたのみこ(是忠親王)

原文 安布己止乃加多以上止曽止者志利奈可良多末乃遠者可利奈尓々与利个无
定家 逢事乃加多糸曽止者志利奈可良玉乃遠許何尓与利个无
和歌 あふことの かたいとそとは しりなから たまのをはかり なにによりけむ
解釈 逢ふ事の片糸ぞとは知りながら玉の緒ばかり何に縒りけん

歌番号五五一
於无奈乃毛止与利和春礼久左尓布美遠川个天遠己世天者部利个礼八
女乃毛止与利忘草尓布美遠川个天遠己世天侍个礼八
女のもとより忘草に文をつけておこせて侍りければ

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 於毛不止者以不毛乃可良尓止毛寸礼者和春留々久左乃者奈尓也者安良奴
定家 思止者以不物可良尓止毛寸礼者和春留々草乃花尓也者安良奴
和歌 おもふとは いふものからに ともすれは わするるくさの はなにやはあらぬ
解釈 思ふとはいふ物からにともすれば忘るる草の花にやはあらぬ

歌番号五五二
可部之
返之
返し

太以不乃己止以不飛止
太以不乃己止以不人
たいふのこといふ人(大輔の御という人)

原文 宇部天三留和礼者和寸礼天安多比止尓万川和寸良留々者奈尓曽有个留
定家 宇部天見留我者和寸礼天安多比止尓万川和寸良留々花尓曽有个留
和歌 うゑてみる われはわすれて あたひとに まつわすらるる はなにそありける
解釈 植ゑて見る我は忘れてあだ人にまづ忘らるる花にぞ有ける

歌番号五五三
多比良乃左多不无可毛止与利奈尓者乃可太部奈武万可留止
以比遠久利天者部利个礼者
平定文可毛止与利奈尓者乃方部奈武万可留止
以比遠久利天侍个礼者
平定文がもとより、難波の方へなむまかると
言ひ送りて侍りければ

止佐
土左
土左

原文 宇良和可寸三留女可留天不安満乃三者奈尓可奈尓八乃可太部之毛由久
定家 浦和可寸見留女可留天不安満乃身者何可奈尓八乃方部之毛由久
和歌 うらわかす みるめかるてふ あまのみは なにかなにはの かたへしもゆく
解釈 浦わかずみるめ刈るてふ海人の身は何か難波の方へしも行く

歌番号五五四
可部之
返之
返し

左多不无
定文
定文

原文 幾美遠於毛布可佐久良部尓川乃久尓乃本利衣三尓由久和礼尓也八安良奴
定家 君遠思布可佐久良部尓川乃久尓乃本利江見尓由久我尓也八安良奴
和歌 きみをおもふ ふかさくらへに つのくにの ほりえみにゆく われにやはあらぬ
解釈 君を思ふ深さ比べに津の国の堀江見に行く我にやはあらぬ

歌番号五五五
徒良久奈利尓个留比止尓徒可者之遣流
徒良久奈利尓个留人尓徒可者之遣流
つらくなりにける人につかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 伊可天加久己々呂比止川遠布多之部尓宇久毛川良久毛奈之天三寸良无
定家 伊可天加久心比止川遠布多之部尓宇久毛川良久毛奈之天見寸良无
和歌 いかてかく こころひとつを ふたしへに うくもつらくも なしてみすらむ
解釈 いかでかく心一つをふたしへに憂くもつらくもなして見すらん

歌番号五五六
堂以之良春
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 止毛寸礼者太末尓久良部之満寸可々三比止乃多可良止三留曽可奈之幾
定家 止毛寸礼者玉尓久良部之満寸可々三比止乃多可良止見留曽悲幾
和歌 ともすれは たまにくらへし ますかかみ ひとのたからと みるそかなしき
解釈 ともすれば玉に比べします鏡人の宝と見るぞ悲しき

歌番号五五七
志乃比多留比止尓川可者之遣留
志乃比多留人尓川可者之遣留
しのひたる人につかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 伊者世也万多尓乃之多三川宇知志乃日々止乃三奴万者奈可礼天曽布留
定家 伊者世山谷乃之多水宇知志乃日人乃見奴万者流天曽布留
和歌 いはせやま たにのしたみつ うちしのひ ひとのみぬまは なかれてそふる
解釈 磐瀬山谷の下水うちしのび人の見ぬ間は流れてぞ経る

歌番号五五八
比止遠安比志利天乃知飛左之宇世宇曽己毛
川可者左々利个礼者
人遠安比志利天乃知飛左之宇世宇曽己毛
川可者左々利个礼者
人をあひ知りてのち、久しう消息も
つかはさざりければ

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 宇礼之遣尓幾美可多乃女之己止乃者々加多美尓久女留三従尓曽安利个留
定家 宇礼之遣尓君可多乃女之事乃者々加多美尓久女留水尓曽有个留
和歌 うれしけに きみかたのめし ことのはは かたみにくめる みつにそありける
解釈 うれしげに君が頼めし言の葉はかたみにくめる水にぞ有りける

歌番号五五九
堂以之良寸
題之良寸 題しらす
題知らず

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 由幾也良奴以女知尓満止不多毛止尓八安満川曽良奈幾川由曽遠幾个留
定家 由幾也良奴夢地尓満止不多毛止尓八安満川曽良奈幾川由曽遠幾个留
和歌 ゆきやらぬ ゆめちにまとふ たもとには あまつそらなき つゆそおきける
解釈 行きやらぬ夢路にまどふ袂には天つ空なき露ぞ置きける

歌番号五六〇
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 三者々也久奈良乃美也己止奈利尓之遠己比之幾己止乃万多毛布利奴可
定家 身者々也久奈良乃宮己止成尓之遠己比之幾己止乃万多毛布利奴可
和歌 みははやく ならのみやこと なりにしを こひしきことの またもふりぬか
解釈 身は早く奈良の都となりにしを恋しきことのまだもふりぬか

歌番号五六一
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 寸三与之乃幾之乃之良那美与留/\者安満乃与曽女尓三留曽可奈之幾
定家 住吉乃岸乃白浪与留/\者安満乃与曽女尓見留曽悲幾
和歌 すみよしの きしのしらなみ よるよるは あまのよそめに みるそかなしき
解釈 住吉の岸の白浪寄る寄るは海人のよそめに見るぞ悲しき

歌番号五六二
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 幾美己不止奴礼尓之曽天乃加者可奴八於毛日乃保可尓安礼者奈利个利
定家 君己不止奴礼尓之袖乃加者可奴八思日乃外尓安礼者奈利个利
和歌 きみこふと ぬれにしそての かわかぬは おもひのほかに あれはなりけり
解釈 君恋ふと濡れにし袖の乾かぬは思ひの外にあればなりけり

歌番号五六三
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 安者佐里之止幾以可奈利之毛乃止天可堂々以万乃万毛見祢者己比之幾
定家 安者佐里之時以可奈利之物止天可堂々以万乃万毛見祢者己比之幾
和歌 あはさりし ときいかなりし ものとてか たたいまのまも みねはこひしき
解釈 逢はざりし時いかなりし物とてかただ今の間も見ねば恋しき

歌番号五六四
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 与乃奈可尓志乃不累己飛乃和比之幾者安比天乃々知乃安八奴奈利个利
定家 世中尓志乃不累己飛乃和比之幾者安比天乃々知乃安八奴奈利个利
和歌 よのなかに しのふるこひの わひしきは あひてののちの あはぬなりけり
解釈 世の中にしのぶる恋のわびしきは逢ひての後のあはぬなりけり

歌番号五六五
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 己比遠乃美川祢尓寸留可乃也末奈礼者布之乃祢尓乃三奈可奴日八奈之
定家 恋遠乃美常尓寸留可乃山奈礼者布之乃祢尓乃三奈可奴日八奈之
和歌 こひをのみ つねにするかの やまなれは ふしのねにのみ なかぬひはなし
解釈 恋をのみ常に駿河の山なれば富士の嶺にのみ泣かぬ日はなし

歌番号五六六
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 幾美尓与利王可身曽川良幾太末多連乃見寸者己比之止於毛者末之也波
定家 君尓与利王可身曽川良幾玉多連乃見寸者恋之止於毛者末之也波
和歌 きみにより わかみそつらき たまたれの みすはこひしと おもはましやは
解釈 君により我が身ぞつらき玉垂れの見ずは恋しと思はましやは

歌番号五六七
於止己乃者之免天於无奈乃毛止尓満可利天安之多尓
安女乃布留尓加部利天徒可者之遣流
於止己乃者之免天女乃毛止尓満可利天安之多尓
雨乃布留尓加部利天徒可者之遣流
男の初めて女のもとにまかりて、朝に
雨の降るに帰りてつかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 以末曽志流安可奴和可礼乃安可従幾者幾美遠己比知尓奴留々毛乃止八
定家 今曽志流安可奴別乃暁者君遠己比知尓奴留々物止八
和歌 いまそしる あかぬわかれの あかつきは きみをこひちに ぬるるものとは
解釈 今ぞ知るあかぬ別れの暁は君を恋路に濡るる物とは

歌番号五六八
可部之
返之
返し

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 与曽尓布留安女止己曽幾計於保川可那奈尓遠可日止乃己比地止以不良无
定家 与曽尓布留雨止己曽幾計於保川可那何遠可人乃己比地止以不良无
和歌 よそにふる あめとこそきけ おほつかな なにをかひとの こひちといふらむ
解釈 よそに降る雨とこそ聞けおぼつかな何をか人の恋路といふらん

歌番号五六九
徒良可利个留於止己尓
徒良可利个留於止己尓
つらかりけるおとこに

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 堂衣者川留毛乃止者三川々佐々加尓乃以止遠太乃女留己々呂本曽左与
定家 堂衣者川留物止者見川々佐々加尓乃以止遠太乃女留心本曽左与
和歌 たえはつる ものとはみつつ ささかにの いとをたのめる こころほそさよ
解釈 絶えはつる物とは見つつささがにの糸を頼める心細さよ

歌番号五七〇
可部之
返之
返し

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 宇知和多之奈可幾己々呂者也川者之乃久毛天尓於毛不己止者堂衣世之
定家 宇知和多之長幾心者也川者之乃久毛天尓思事者堂衣世之
和歌 うちわたし なかきこころは やつはしの くもてにおもふ ことはたえせし
解釈 うちわたし長き心は八橋の蜘蛛手に思ふ事は絶えせじ

歌番号五七一
於毛不比止者部利个留於无奈尓毛乃乃多宇飛遣礼止
徒礼奈可利个礼者川可者之遣留
思不人侍个留女尓物乃多宇飛遣礼止
徒礼奈可利个礼者川可者之遣留
思ふ人侍りける女に物のたうびけれど、
つれなかりければつかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 於毛不比止於毛者奴日止乃於毛不比止於毛者佐良奈无於毛日志留部久
定家 思不人於毛者奴人乃思乃人於毛者佐良南思日志留部久
和歌 おもふひと おもはぬひとの おもふひと おもはさらなむ おもひしるへく
解釈 思ふ人思はぬ人の思ふ人思はざらなん思ひ知るべく

歌番号五七二
可部之
返之
返し

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 己加良之乃毛利乃志多く左可世者也三日止奈遣木八於比曽日尓个利
定家 己加良之乃毛利乃志多草風者也三人奈遣木八於比曽日尓个利
和歌 こからしの もりのしたくさ かせはやみ ひとのなけきは おひそひにけり
解釈 木枯らしの森の下草風早み人のなげ木は生ひそひにけり

歌番号五七三
於止己乃己止於无奈武可不留遠三天
於也乃以部尓万可利加部留止天
於止己乃己止女武可不留遠見天
於也乃家尓万可利加部留止天
男の異女迎ふるを見て、
親の家にまかり帰るとて

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 和可礼遠者可奈之幾毛乃止幾々之可止宇之呂也寸久毛於毛保由留可奈
定家 別遠者悲幾物止聞之可止宇之呂也寸久毛於毛保由留哉
和歌 わかれをは かなしきものと ききしかと うしろやすくも おもほゆるかな
解釈 別れをば悲しき物と聞きしかどうしろやすくも思ほゆるかな

歌番号五七四
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 奈幾多武留堂保止己本礼留遣左三礼者己々呂止个天毛幾美遠於毛八寸
定家 奈幾多武留堂本己本礼留遣左見礼者心止个天毛君遠於毛八寸
和歌 なきたむる たもとこほれる けさみれは こころとけても きみをおもはす
解釈 泣きたむる袂凍れる今朝見れば心とけても君を思はず

歌番号五七五
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 三遠和遣天安良満本之久曽於毛本由留比止者久留之止以比个留毛乃遠
定家 身遠和遣天安良満本之久曽於毛本由留人者久留之止以比个留毛乃遠
和歌 みをわけて あらまほしくそ おもほゆる ひとはくるしと いひけるものを
解釈 身を分けてあらまほしくぞ思ほゆる人は苦しといひけるものを

歌番号五七六
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 久毛為尓天比止遠己比之止於毛不可奈和礼者安之部乃堂川奈良奈久尓
定家 雲井尓天人遠己比之止思哉我者葦部乃堂川奈良奈久尓
和歌 くもゐにて ひとをこひしと おもふかな われはあしへの たつならなくに
解釈 雲井にて人を恋しと思ふかな我は葦辺の田鶴ならなくに

歌番号五七七
比止尓川可者之遣留
比止尓川可者之遣留
人につかはしける

美奈毛堂乃比止之乃安曾无
源比止之乃朝臣
源ひとしの朝臣(源等)

原文 安佐地不乃遠乃々志乃者良之乃不礼止安満利天奈止可日止乃己比之幾
定家 安佐地不乃遠乃々志乃原忍礼止安満利天奈止可人乃己比之幾
和歌 あさちふの をののしのはら しのふれと あまりてなとか ひとのこひしき
解釈 浅茅生の小野の篠原忍ぶれどあまりてなどか人の恋しき

歌番号五七八
比止尓川可者之遣留
比止尓川可者之遣留
人につかはしける

加祢毛里
加祢毛里
かねもり(兼盛王)

原文 安女也満奴乃幾乃堂満三従加寸之良須己比之幾己止乃万佐留己呂可奈
定家 雨也満奴乃幾乃玉水加寸之良須恋之幾事乃万佐留己呂哉
和歌 あめやまぬ のきのたまみつ かすしらす こひしきことの まさるころかな
解釈 雨やまぬ軒の玉水数知らず恋しき事のまさるころかな

歌番号五七九
己々呂美之可幾也宇尓幾己由留比止奈利止以比个礼者
心美之可幾也宇尓幾己由留人奈利止以比个礼者
心短きやうに聞こゆる人なりと言ひければ

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 以世乃宇美尓者部天毛安万留堂久奈者乃奈可幾己々呂者和礼曽万佐礼留
定家 伊勢乃海尓者部天毛安万留堂久奈者乃長幾心者我曽万佐礼留
和歌 いせのうみに はへてもあまる たくなはの なかきこころは われそまされる
解釈 伊勢の海にはへてもあまる栲縄の長き心は我ぞまされる

歌番号五八〇
比止尓川可者之个留
人尓川可者之个留
人につかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 以呂尓以天々己比寸天不名曽多知奴部幾奈美多尓曽武留曽天乃己遣礼八
定家 色尓以天々恋寸天不名曽多知奴部幾涙尓曽武留袖乃己遣礼八
和歌 いろにいてて こひすてふなそ たちぬへき なみたにそむる そてのこけれは
解釈 色に出でて恋すてふ名ぞ立ちぬべき涙に染むる袖の濃ければ

歌番号五八一
比止尓川可者之个留
人尓川可者之个留
人につかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 加久己不留毛乃止志利世八与留者遠幾天安久礼者幾由留川由奈良万之遠
定家 加久己不留物止志利世八与留者遠幾天安久礼者幾由留川由奈良万之遠
和歌 かくこふる ものとしりせは よるはおきて あくれはきゆる つゆならましを
解釈 かく恋ふる物と知りせば夜は置きて明くれば消ゆる露ならましを

歌番号五八二
比止尓川可者之个留
人尓川可者之个留
人につかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 安飛毛三寸奈計幾毛曽女寸安利之止幾於毛不己止己曽三尓奈可利之可
定家 安飛毛見寸歎毛曽女寸有之時思事己曽身尓奈可利之可
和歌 あひもみす なけきもそめす ありしとき おもふことこそ みになかりしか
解釈 あひも見ず嘆きもそめず有りし時思ふ事こそ身になかりしか

歌番号五八三
比止尓川可者之个留
人尓川可者之个留
人につかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 己比乃己止和利奈幾毛乃者奈可利个利加川武川礼川々加徒曽己比之幾
定家 己比乃己止和利奈幾物者奈可利个利加川武川礼川々加徒曽己比之幾
和歌 こひのこと わりなきものは なかりけり かつむつれつつ かつそこひしき
解釈 恋のごとわりなき物はなかりけりかつむつれつつかつぞ恋しき

歌番号五八四
於无奈乃毛止尓徒可者之个留
女乃毛止尓徒可者之个留
女のもとにつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 和多川宇美尓布可幾己々呂乃奈可利世者奈尓可八幾美遠宇良三之毛世无
定家 和多川海尓深幾心乃奈可利世者何可八君遠怨之毛世无
和歌 わたつうみに ふかきこころの なかりせは なにかはきみを うらみしもせむ
解釈 わたつ海に深き心のなかりせば何かは君を恨みしもせん

歌番号五八五
於无奈乃毛止尓徒可者之个留
女乃毛止尓徒可者之个留
女のもとにつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 美那加美尓以乃留可比奈久奈三多可者宇幾天毛日止遠与曽尓三留可奈
定家 美那神尓以乃留可比奈久涙河宇幾天毛人遠与曽尓見留哉
和歌 みなかみに いのるかひなく なみたかは うきてもひとを よそにみるかな
解釈 みな神に祈るかひなく涙河浮きても人をよそに見るかな

歌番号五八六
可部之
返之
返し

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 以乃利遣流美那加美左部曽宇良女之幾个不与利保可尓加計乃三衣年八
定家 以乃利遣流美那神左部曽宇良女之幾个不与利外尓影乃見衣年八
和歌 いのりける みなかみさへそ うらめしき けふよりほかに かけのみえねは
解釈 祈りけるみな神さへぞ恨めしき今日より外に影の見えねば

歌番号五八七
多以布尓川可者之遣流
大輔尓川可者之遣流
大輔につかはしける

美幾乃於保伊萬宇智岐美
右大臣
右大臣

原文 以呂不可久曽女之多毛止乃以止々之久奈美多尓佐部毛己佐万左留可奈
定家 色深久染之多本乃以止々之久奈美多尓佐部毛己佐万左留哉
和歌 いろふかく そめしたもとの いととしく なみたにさへも こさまさるかな
解釈 色深く染めし袂のいとどしく涙にさへも濃さまさるかな

歌番号五八八
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 三留止幾者己止曽止毛奈久三奴止幾者己止安利加本尓己比之幾也奈曽
定家 見留時者事曽止毛奈久見奴時者己止有加本尓恋之幾也奈曽
和歌 みるときは ことそともなく みぬときは ことありかほに こひしきやなそ
解釈 見る時は事ぞともなく見ぬ時はこと有り顔に恋しきやなぞ

歌番号五八九
於止己乃己武止天己左利个礼者
於止己乃己武止天己左利个礼者
男の来むとて来ざりければ

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 也末左止乃万幾乃以多止毛佐々左里幾堂乃女之日止遠万知之与比与里
定家 山左止乃万幾乃以多止毛佐々左里幾堂乃女之人遠万知之与比与里
和歌 やまさとの まきのいたとも さささりき たのめしひとを まちしよひより
解釈 山里の真木の板戸も鎖さざりき頼めし人を待ちし宵より

歌番号五九〇
者之免天於无奈乃毛止尓川可者之遣留
者之免天女乃毛止尓川可者之遣留
初めて女のもとにつかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 由久方毛奈久世可礼多留也末三従乃以者万本之久毛於毛本由留可奈
定家 由久方毛奈久世可礼多留山水乃以者万本之久毛於毛本由留哉
和歌 ゆくかたも なくせかれたる やまみつの いはまほしくも おもほゆるかな
解釈 行く方もなく塞かれたる山水のいはまほしくも思ほゆるかな

歌番号五九一
於无奈女尓川可八之个留
女尓川可八之个留
女につかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 比止乃宇部乃己止々之以部者志良奴可奈幾美毛己比寸留遠利毛己曽安礼
定家 人乃宇部乃己止々之以部者志良奴哉君毛恋寸留折毛己曽安礼
和歌 ひとのうへの こととしいへは しらぬかな きみもこひする をりもこそあれ
解釈 人の上の事とし言へば知らぬかな君も恋する折もこそあれ

歌番号五九二
可部之
返之
返し

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 徒良可良者於奈之己々呂尓川良可良无川礼奈幾比止遠己比武止毛世寸
定家 徒良可良者於奈之心尓川良可良无川礼奈幾人遠己比武止毛世寸
和歌 つらからは おなしこころに つらからむ つれなきひとを こひむともせす
解釈 つらからば同じ心につらからんつれなき人を恋ひむともせず

歌番号五九三
於无奈女尓川可八之个留
女尓川可八之个留
女につかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 比止之礼寸於毛不己々呂者於本之万乃奈留止者奈之尓奈計久己呂可奈
定家 人之礼寸思心者於本之万乃奈留止者奈之尓奈計久己呂哉
和歌 ひとしれす おもふこころは おほしまの なるとはなしに なけくころかな
解釈 人知れず思ふ心は大島のなるとはなしに嘆くころかな

歌番号五九四
於止己乃毛止尓川可者之遣流
於止己乃毛止尓川可者之遣流
をとこのもとにつかはしける

奈可川可佐
中務
中務

原文 者可奈久天於奈之己々呂尓奈利尓之遠於毛不可己止八於毛不良无也曽
定家 者可奈久天於奈之心尓奈利尓之遠思不可己止八思良无也曽
和歌 はかなくて おなしこころに なりにしを おもふかことは おもふらむやそ
解釈 はかなくて同じ心になりにしを思ふがごとは思ふらんやぞ

歌番号五九五
可部之
返之
返し

美奈毛堂乃左祢安幾良
源信明
源信明

原文 和飛之左遠於奈之己々呂止幾久可良尓和可三遠寸天々幾美曽加奈之幾
定家 和飛之左遠於奈之心止幾久可良尓和可身遠寸天々君曽加奈之幾
和歌 わひしさを おなしこころと きくからに わかみをすてて きみそかなしき
解釈 わびしさを同じ心と聞くからに我が身を捨てて君ぞ悲しき

歌番号五九六
満可良寸奈利尓个留於无奈乃比止尓奈多知个礼八川可八之个留
満可良寸奈利尓个留女乃人尓名多知个礼八川可八之个留
まからずなりにける女の、人に名立ちければつかはしける

美奈毛堂乃左祢安幾良
源信明
源信明

原文 左堂女奈久安多尓知利奴留者奈与利者止幾者乃末川乃以呂遠也者三奴
定家 定奈久安多尓知利奴留花与利者止幾者乃松乃色遠也者見奴
和歌 さためなく あたにちりぬる はなよりは ときはのまつの いろをやはみぬ
解釈 定めなくあだに散りぬる花よりは常盤の松の色をやは見ぬ

歌番号五九七
可部之
返之
返し

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 寸三与之乃和可三奈利世八止之布止毛末川与利保可乃以呂遠三万之也
定家 住吉乃和可身奈利世八年布止毛松与利外乃色遠見万之也
和歌 すみよしの わかみなりせは としふとも まつよりほかの いろをみましや
解釈 住吉の我が身なりせば年経とも松より外の色を見ましや

歌番号五九八
於止己尓川可者之个留
於止己尓川可者之个留
をとこにつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 宇川々尓毛者可奈幾己止乃安也之幾者祢奈久尓由女乃三由留奈利个利
定家 宇川々尓毛者可奈幾己止乃安也之幾者祢奈久尓由女乃見由留奈利个利
和歌 うつつにも はかなきことの あやしきは ねなくにゆめの みゆるなりけり
解釈 うつつにもはかなきことのあやしきは寝なくに夢の見ゆるなりけり

歌番号五九九
於无奈乃安者春者部利个留尓
女乃安者春侍个留尓
女の逢はず侍りけるに

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 之良奈美乃与留/\幾志尓太川与利天祢毛三之毛乃遠寸三与之乃末川
定家 白浪乃与留/\岸尓立与利天祢毛見之物遠寸三与之乃松
和歌 しらなみの よるよるきしに たちよりて ねもみしものを すみよしのまつ
解釈 白浪の寄る寄る岸に立寄りて寝も見し物を住吉の松

歌番号六〇〇
於止己尓川可者之个留
於止己尓川可者之个留
男につかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 奈可良部天安良奴万天尓毛己止乃者乃布可幾者以可尓安者礼奈利个利
定家 奈可良部天安良奴万天尓毛事乃葉乃布可幾者以可尓安者礼奈利个利
和歌 なからへて あらぬまてにも ことのはの ふかきはいかに あはれなりけり
解釈 ながらへてあらぬまでにも言の葉の深きはいかにあはれなりけり
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