瀬崎祐の本棚

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詩集「黄色い木馬/レタス」  草野理恵子  (2016/09)  土曜美術社出版販売

2016-11-01 18:55:05 | 詩集
 第2詩集。111頁に25編を収める。
 すべての作品タイトルは、「黄色い木馬/レタス」のように二つの名詞がスラッシュで区切られて続いている。これらのふたつのものが、どのように結びついて物語を形づくるのかと思わせる。
 「冬/姉」。雪深い奥地では人々は粗末な木の箱に籠もって過ごすようだ。子どもたちが箱の中の地面を掘ると、地中を泳ぐ毛皮や魚が湧き出してくる。そしてお姉ちゃんは、土をかけて、と言うのだ。ここには、貧しい地方で家族を支えるために自己犠牲になるようなイメージもついてくる。それから何十年もの長い冬を抜けてようやく春が来て、

   赤い下着を皮膚のように張りつけた若い女の死体は
   まだ生きているようにみずみずしい
   箱は永遠のように並んでいる
   女だけを取り出し箱はまた置いておく
   女は高い値段で売れる
   心優しい箱開け人は
   女が握っている小さな男の子の人形をそのままにしておく

 この作品をはじめとしてどの作品も重く、悪夢のような辛さをともなった物語世界が展開される。それも親切そうな装いの人が実はとても意地悪であるような、嫌な後味を残す辛さなのだ。妙なのだが、その味わいが魅力的なのだ。
 「ライオンゴロシ/白鳥」。ライオンゴロシというのは棘のような硬い突起が無数に付いている植物(拙同人誌「どぅるかまら」17号の表紙絵にもなっている)。そして私はコーヒーに白鳥の型をした砂糖を入れる。この作品の面白さは、そのライオンゴロシが彼になり、白鳥は本物になってと、どんどんと変容していくところ。血を流す白鳥を片付けようとポリ袋に入れ、

   ポリ袋の半分は血の海になり そこに白鳥が浮かんでいた
   黒目だけの白鳥の目がこちらを見ている
   賞味期限の切れたヨーグルトも入れた 白い小さな島を作った
   白鳥の骨が君に刺さった
   君は抜こうとしてその指が君に刺さった
   急に情けない表情になり私を見た まだ背中を丸めたまま

 私が君を抱きしめれば、私には君の棘が突き刺さるのだ。最後には、私の胸を君の手が貫くのだ。
  「あとがき」には著者の日常の一端が吐露されている。これらの作品の陰に、というか、これらの作品が支えるものとして、作者の日常はある。これを知ることが読み手としてのわたしに必要だったのか否か、少し途方に暮れた。
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