第3詩集。矩形版で80頁。
カバーの惹き文句に「凝視された文字や言葉は解体され新しい変法則で再構築された。その間隙に詩は発生する」とある。独特な味わいのこの詩集について簡潔に言い表している。前詩集「変奏曲」でも作者は同音異義語を自在に操っていた。”粘菌”と”年金”であるとか、”漏洩”と”朗詠”などといった具合だ。この詩集ではその手法をさらに押し広げている。
たとえば、「Ⅰ章 考える脚」の中の1編「踵 heel」は、
千里を駆ける俊足
勇者アキレスにも
たったひとつ弱点があった
ホメロスはおしゃべり好き
物語は頁を重ね
”踵”という文字が”足”、”千”、”里”に分解され、元の文字とはまったく異なる風景を見せている。これは楽しい。
ひらがなでは同音異義で迫ってくる。「まゆ」という作品は身体部分を題にした章に収められているので当然”眉”なのだが、作品は、
ほの明るい絹の棺の中で
目が覚めた
ありふれた三日月の罠
唾をつけた
羽は濡れたまま
解れない
という具合に”繭”に変身してしまっているのだ。文字や言葉から触発されてどこまでも自由に跳んでいる。この軽やかな跳び方が魅力的である。
Ⅱ章、Ⅲ章と進むにつれてこの飛翔はさらに自由なものになっていく。「愛」という作品は、
天窓をすこし押し上げて
ソッと覗いている
この心臓の鼓動を誰にも
覚られないうちに
タタタと走って
逃げるか
あるいは
又
爪部の形が”天窓を押し上げている”ように見えるという発見には感心した。”心”、”タタタ”、“又”と、参りましたという他はない。
作者はあとがきで「文字や言葉たちが元来の意味から離れて別の新しい世界を形作る詩が書きたかった」としている。漢字には象形文字や会意文字、形声文字などがあるが、そんな細かいことは一足飛びに乗り越えたところで作者は”新しい世界”を構築している。この豊かな創造力には脱帽である。
カバーの惹き文句に「凝視された文字や言葉は解体され新しい変法則で再構築された。その間隙に詩は発生する」とある。独特な味わいのこの詩集について簡潔に言い表している。前詩集「変奏曲」でも作者は同音異義語を自在に操っていた。”粘菌”と”年金”であるとか、”漏洩”と”朗詠”などといった具合だ。この詩集ではその手法をさらに押し広げている。
たとえば、「Ⅰ章 考える脚」の中の1編「踵 heel」は、
千里を駆ける俊足
勇者アキレスにも
たったひとつ弱点があった
ホメロスはおしゃべり好き
物語は頁を重ね
”踵”という文字が”足”、”千”、”里”に分解され、元の文字とはまったく異なる風景を見せている。これは楽しい。
ひらがなでは同音異義で迫ってくる。「まゆ」という作品は身体部分を題にした章に収められているので当然”眉”なのだが、作品は、
ほの明るい絹の棺の中で
目が覚めた
ありふれた三日月の罠
唾をつけた
羽は濡れたまま
解れない
という具合に”繭”に変身してしまっているのだ。文字や言葉から触発されてどこまでも自由に跳んでいる。この軽やかな跳び方が魅力的である。
Ⅱ章、Ⅲ章と進むにつれてこの飛翔はさらに自由なものになっていく。「愛」という作品は、
天窓をすこし押し上げて
ソッと覗いている
この心臓の鼓動を誰にも
覚られないうちに
タタタと走って
逃げるか
あるいは
又
爪部の形が”天窓を押し上げている”ように見えるという発見には感心した。”心”、”タタタ”、“又”と、参りましたという他はない。
作者はあとがきで「文字や言葉たちが元来の意味から離れて別の新しい世界を形作る詩が書きたかった」としている。漢字には象形文字や会意文字、形声文字などがあるが、そんな細かいことは一足飛びに乗り越えたところで作者は”新しい世界”を構築している。この豊かな創造力には脱帽である。