瀬崎祐の本棚

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ココア共和国  15号  (2014/05)  宮城

2014-04-29 18:46:17 | 「か行」で始まる詩誌
 秋亜綺羅の個人誌で、三上寛や小林坩堝の寄稿作品も載っている。しかし、今号で一番魅せられたのは「鮎川小学校1968年度2年3組」(千葉勲・編)と題された特集だった。
 およそ45年前に小学校2年の生徒たちが書いた作品である。なぜ魅せられたか、とにかく作品をひとつ紹介する。

    し(詩)のせかいへのカード  せとまきこ

   もらったカード
   よるのカード
   くびをちょっきん
   くびをつけ
   手をちょっきん
   足をちょっきん
   くすくすときっていく
   しのせかいの谷間にむかって
   やきぐるまの下の道
   ちのさくらのきんかい
   カードはふえて 人は
   すくなく
   人の はらの 中から
   しのせかいへの
   道がくだけた    (全)

 どうだろう。なぜ魅せられたかを説明する必要もないだろう。何も付け加えることはない。作者の年齢を考え合わせる必要もないほどに、作品世界がひとりで彼方まで出かけようとしている。
 もうひとつ、あべじゅんこ「チリチリ チリリ」の始めの部分を紹介する。

   チリチリチリリうごいている。うみがもえてる
   チリチリチリリ。くももいっしょにもやそうよ。
   てつもいっしょにもやそうよ。チリチリチリリ。
   ゆきをもやせば 水火になる
   クレヨンいっしょにとけていく。
   学校いっしょにとけていく。
   「ほうかりんごは やくにたたないぞ。」
   ほうかりんごもとけていく。

 この子供たちが言葉の中に見ていたものはどんなものだったのだろう。45年が経って、そのときに見えたものは今はどのように見えているのだろうか。
 感想などではなく、こういう作品世界が作られたことがあったという紹介を、とにかくしたかった。
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「Aa」  7号  (2014/04)

2014-04-24 19:18:40 | ローマ字で始まる詩誌
 いつも意欲的な作品が並ぶ6人の同人誌(一人が作品発表を休止しているのが残念)。前半には「町」というテーマでの各自の作品が載っている。後半に「詩編」。
 その中から 「孔雀書店」高塚謙太郎。
 不思議な肌触りの作品。「ある日やってきた孔雀まみれの/段々畑をまわっていく」と小屋がみえてきて、「恋をしたのだ」と断定されるのだ。書かれている内容にもよく意味がわからないという不思議さがあるのだが、それ以上に、意味がよくわからないのに何か楽しくなるような、何かを期待するような軽やかさを感じることができることが、不思議だ。
 「孔雀の上でミシンを踏」んだり、「うすく心が段々畑に靄ってい」ったりしている。何をしているのかもよくわからないが、どこか不安定なものを感じさせながらも、世界はわたしに肯定されているようなのだ。それに、「恋は/人びとの口寄せみたいなものだから/本棚から段々畑を降りてくる」なんて言われると、やはり楽しい。

   恋人はいうのだった秋には
   ノドのあたりに染みついた
   一つの記号をつけそこなった者には
   わたしのダンスを導き出せない
   とき同じくしてわたしは
   指をうしなった

 もちろん形づくる世界に期待するものがあるからには、それを形づくる不安もつきまとうわけだ。これは切り離すことは出来ない。
 作品の最後、孔雀はいつまでも踊り続けているようなのだ。あでやかなはずの孔雀がなぜか薄汚れているようにも感じられてくると、軽やかさは楽しいばかりではなくなってくるようだ。
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詩集「龜裂」  寺岡良信  (2014/03)  まろうど社

2014-04-21 23:24:49 | 詩集
 第4詩集。83頁に23編を収める。
 「あとがき」で作者は、「近代詩以来の蒼古たる美の系譜にしがみつきながら」「日本語を彫琢することを」「自己の詩的課題として」いると述べている。たしかにすべてのタイトルが二字熟語とされた作品は、ところどころに見える旧仮名遣いとも相まって、時代を遡った感を与える。
 たとえば「鍵穴」という作品では年老いた看守が夜の見回りをしている。

   愛する囚人たちの寝息を
   鍵穴から確かめては
   独房の表札を裏返してゆくのが
   老人の仕事だから
   彼もまた深々と跪き
   暁の闇に耐えた
   そんなとき
   逃亡した少年の
   切れ長の目が
   看守の胸をよぎる

 ここには、かっての少年雑誌のざらついた誌面に載っていた物語を蘇らせるような、不思議な魅力がある。言葉を美しいものだと信じて、それによって美しい何ものかを現出させたいという頑なな意志があるようだ。潔い。
 「姿態」は、「星屑の海から」投身した女の形をした流木を詩う。英雄ばかりではなく、わたしもまた密かな欲望を隠し持っていたのだが、

   だから
   死に漂流する以外
   贖ふすべをもたない
   わたしのために
   砂丘は独り波の縛に就かうとしてゐる

 半ば無意識になるまで自己を解放して放たれる言葉による作品の、ほぼ対極にあるような作品である。禁欲的にも思える言葉に対するその態度が、やはり潔い。
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詩集「牢屋の鼠」  劉暁波(田島安江・馬麗 訳・編)  (2014/02)  書肆侃侃房

2014-04-17 00:11:33 | 詩集
 劉暁波はノーベル平和賞を受賞しているが、長く中国の獄中にあり、授賞式に出席することも許されなかった。思想家として著名な彼だが、詩集は妻・霞との共著である「劉暁波劉霞詩選」が唯一のものだとのこと。本詩集はその中から劉暁波の作品73編を訳したもの。
 四度にわたる投獄生活を強いられて、獄中で書かれた作品が大部分ではないかと思われるのだが、まず感嘆したことは、すべての作品が妻である霞氏に捧げられていることであった。生はどのようにあるのか、そして生はどのようにあるべきなのか、という自省が妻の存在を通して語られているのだ。

   鋼の棒は沈着かつ忍耐強い
   踏みつけられた思いを足蹴にし
   たまにじっと
   瞑想に集中している哲学者のように
   形而上の難題に耽溺する
   偉大なる眩暈はどんなおどしにも動じない
   少しずつ衰弱していく
   少しずつ干からびていく
                    (「リルケを読む--僕と同様リルケが好きな霞へ」)

 詩作品はその成立過程などとは切り離されて存在するべきだというのは全く正しいことなのだが、それでもなおここにある作品を前にしたときには、背後にある重いものを否応なく感じてしまう。

   まるで俗世界の外に身を置かれた傍観者のように
   冷ややかで悠然としている
   驚異的な切れ味
   驚異的に完璧な美
   全部ナイフの刃の裏に隠されている
                    (世界を深く刺すナイフ--僕の霞へ」)

 巻末に訳者である田島安江のあとがきが載っているが、劉暁波の概要並びに本質が端的に述べてられており、非常に参考になるものであった。
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詩集「橋を渡ろうとして」  山本萌  (2014/05)  書肆夢ゝ

2014-04-15 18:56:37 | 詩集
 第7詩集。77頁に21編を収める。
 詩集のはじめには金魚や猫、虫などの小さな生きものをとおして、この世界で続けられている生の有り様が語られている。
 「老いた金魚」は、玄関の外の水甕にいる盲目の大きな金魚を詩っている。「夢から戻ったばかりの様子で 恍惚と口を突き出し」ていつも歌っている彼は、見えない餌を探して一日中泳ぎまわっている。何が彼には在るのだろうかという問いかけのような作品だが、最終連には救いともとれるものが用意される。それは作者自身も必要としたものだったのだろうか。

   「遠くを 見ないとね」 ぽっと点ったそれは 誰からの消息だったか。蟲では
   なく 鳥でなく ヒトでもない。老いた金魚は 慥(たし)かにいつか受け取ったのだ。

「夢殿のS池」。それは降り止まぬ雨でできた水たまりに私たちがつけた名前である。その巨大な水たまりを右回りに半周すれば君と往き会うはずだったのだが、

   雨について
   そのゆえしれぬ気圧の凶暴について
   湿潤な含みについて
   私たちは悲しく無知だったとしても
   漬かった後の 青い額を凍らせ
   君は どこの半周を歩んで行ってしまったのか

そこは”夢殿”であるので、求めるものの実像は存在しないのかもしれない。しかしそれでもなおそれを求める気持ちが端正な表情の言葉で綴られている。その思いの意味を探っている。
 表紙カバーを作者自身の水彩画が飾っている。作者は毎年、水彩画やドロウイングをあしらったカレンダーを作成しており、私(瀬崎)の書斎にも掛けられている。
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