瀬崎祐の本棚

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詩誌「凪」 4号 (2023/12) 福岡

2024-02-23 22:34:58 | 「さ行」で始まる詩誌
石川敬大が呼びかけてX(旧Twitter)で詩を発表していた有志が結集した詩誌のようだ。103頁。
25人の同人の詩に加えて、本号ではゲストの松尾真由美、和田まさ子の詩が載っている。

「厚子糖蜜」鈴木奥。厚子の家は広くて汚くて蠅が多かったとのこと。厚子はべとっとした食べ物を服にこぼし、時に鯨だったりした。いつも男を絡め取っているようで、魅力的な異形の者なのかもしれない。

   厚子がカーテンを開ける。窓を開ける。うまい、と言いながら呼吸
   する。厚子の指が生えてくる。デッキブラシで床をこする。腐った
   肉を捨てる。犬が白くなる。シャンプーを買いに行く。ついでに箸
   も買う。
   厚子が今日、蠅を食べなくなる。

ぐるんぐるんと世界が回っている。厚子はいったい何者なのか。理屈などとっくに跳び越えた甘いべとっとした世界がひろがっている。

「哀川翔が港町を走った」滝本政博。たぶん恋人であろう「あんた」が出血するような喧嘩をして警察沙汰になる。「それから時がたち/工場では水が冷たく/見上げれば屋根ばかり見える」ようになる。この何気ない季節の移り描写が好い。木々の葉も落ちてしまったわけだ。

   スーパーで総菜を買い物して
   部屋で一人食べる
   この頃には波風もたたぬ

諦観なのか、それとも達観なのか。過ぎていくそんな一日にたまたま観た映画のなかでは走っている男がいたわけだ。それこそ良質の映画を観たような気にさせられる作品だった。

自分のなかでともっている火を、具体的な外部事象に反映させている「待ち受ける火」水木なぎも印象的だった。
これらの作品をはじめとして始めて読む方の作品が多く、その自由な感性を楽しんだ。

石川敬大が「詩に纏わる断章」という連載記事を書いている。その欄で、拙詩集「水分れ、そして水隠れ」について「カフカの迷宮、あるいは天岩戸前の舞いの所作にも似た、ダイアローグではなくモノローグによる詩語生成劇とみた」と評してくれている。感謝。
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1 コメント

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ありがとうございました (水木なぎ)
2024-02-24 14:14:55
ありがとうございました。
瀬崎祐さまにお言葉をいただけるなんて
感激で、とても励みになります。

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