瀬崎祐の本棚

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詩集「もこもこ島」 岩井昭 (2024/04) なずき書房

2024-04-02 17:26:57 | 詩集
第12詩集か。B6飯、65頁に15編を収める。

詩集タイトルの”もこもこ島”は冒頭の作品「空をおよぐ」に出てくる。この作品は、みあげた空にヒトがおよいでいる、というもの。そして話者は「あのヒトは/夢のなかを/およいでいるのだろう」と思うのだ。そんなヒトが空の高みに見えるという世界はクレパスで描いた童画のようで、心がさまざまな制約から解き放たれた優しさがある。

   夢をみることは
   想像することに
   にているね
   なんだかよぶんに
   いきたようで
   とくした気分

なるほど、そう言われればそんなものかもしれない。そしてむこうにある雲が”もこもこ島”なのだ。空をおよぐヒトを見ているのも、また夢のなかでなのだろう。

前詩集は実に233編を納めたものだったが、本詩集は平仮名を多用した平易な語り口の作品をそっとまとめました、という風情になっている。作品はとげとげしたものを気持ちから取り去って書かれていて、読む人をやわらかく包みこんでくれる。

「きおくのなかにすんでいる」では、夜が明け明るくなってきた世界のどこに自分は存在しているのだろうという素朴な疑問に話者はとらわれている。

   きのうときょうとあしたのくらしが
   みみのよこを通り過ぎていく
   だれのきおくのなかにいるのだろう
   ぼくは

おそらくそれはなんでもないことの顔つきをしてそのあたりに転がっているようなことなのだろう。ぼくのことを覚えていてくれる他者は確かにいるはずなのだ。そしてそう思えたならば、自分のいる世界が満ちたりたものになるのだろう。最終連は「ぼくはここにいるよ/と/感じられる/ぼくだけのあさ」。気持ちにふと訪れるかすかなものをそのままの形で掬い上げようとしている作品だった。
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