第11詩集。93頁に21編を収める。
詩集タイトルの作品はないが、冒頭の「誕生日」は、「いくつもの夜を通って/わたしはうまれたのです」とはじまっている。「わたしは夜を旅するものです」との一行もある。
「呼ばれて」では、眠りのなかで誰かと争ってもいる。誰か、知らない人との関係もあるようなのだ。
夜を旅するものは
知らない名前で呼ばれるときがある
はい と
いつまでも治らない傷や鞄をかかえて
夜の深みに入っていく
(死も生も 新しく生きるために)
作者は深く夜の中に入り込んでいくことで新たな自分となるのだろう。そして、「一本の傘で」では、「わたしの夜は/いつも/なにかを失って生きている」と書く。夜に入っていくということは、昼間の自分からなにかを捨てなければならないということでもあるようなのだ。
母の影はいたるところで作者の思いに深い陰影を作っている。「這うもの」では、”夜を這うもの”としてあらわれたシマ蛇が草むらに消えたあとに、もう今はいない母が「おかえり」とよみがえりの秋にわたしを呼ぶのだ。
そして「夜が泣いた」。夜中に目が覚めると、少し開いていたドアから誰かが出ていったか、あるいは帰ってきたような気がするのだ。母とふたりで月をながめていたことがあったのに、母の「もう帰えれえ 暗うならんうちに」との言葉に
わたしは一人帰っていく
深まる秋を踏みしめると
足元できゅっきゅっと
夜が泣いた
夢のなかでわたしはどこかへ母に会いに行くのだろう。
このように、作者は夜ごとに夜を旅している。「嵐のあと」では、夢のなかで「泣きながら歩いているのだ」。そんなわたしはもちろん今のわたしではなくて、夜を旅するまったく別のわたしなのだ。
こんな夜どこかで泣いている
きれぎれに聞こえる声は
どのときのわたしだろう
始めにも少し書いたが、作品を読んでいると、それは昼間のわたしから余分なものをすべて取りのぞいたわたしなのかもしれないとも、思えてくるのだ。
詩集タイトルの作品はないが、冒頭の「誕生日」は、「いくつもの夜を通って/わたしはうまれたのです」とはじまっている。「わたしは夜を旅するものです」との一行もある。
「呼ばれて」では、眠りのなかで誰かと争ってもいる。誰か、知らない人との関係もあるようなのだ。
夜を旅するものは
知らない名前で呼ばれるときがある
はい と
いつまでも治らない傷や鞄をかかえて
夜の深みに入っていく
(死も生も 新しく生きるために)
作者は深く夜の中に入り込んでいくことで新たな自分となるのだろう。そして、「一本の傘で」では、「わたしの夜は/いつも/なにかを失って生きている」と書く。夜に入っていくということは、昼間の自分からなにかを捨てなければならないということでもあるようなのだ。
母の影はいたるところで作者の思いに深い陰影を作っている。「這うもの」では、”夜を這うもの”としてあらわれたシマ蛇が草むらに消えたあとに、もう今はいない母が「おかえり」とよみがえりの秋にわたしを呼ぶのだ。
そして「夜が泣いた」。夜中に目が覚めると、少し開いていたドアから誰かが出ていったか、あるいは帰ってきたような気がするのだ。母とふたりで月をながめていたことがあったのに、母の「もう帰えれえ 暗うならんうちに」との言葉に
わたしは一人帰っていく
深まる秋を踏みしめると
足元できゅっきゅっと
夜が泣いた
夢のなかでわたしはどこかへ母に会いに行くのだろう。
このように、作者は夜ごとに夜を旅している。「嵐のあと」では、夢のなかで「泣きながら歩いているのだ」。そんなわたしはもちろん今のわたしではなくて、夜を旅するまったく別のわたしなのだ。
こんな夜どこかで泣いている
きれぎれに聞こえる声は
どのときのわたしだろう
始めにも少し書いたが、作品を読んでいると、それは昼間のわたしから余分なものをすべて取りのぞいたわたしなのかもしれないとも、思えてくるのだ。