瀬崎祐の本棚

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詩集「まだ空はじゅうぶん明るいのに」  伊藤悠子  (2016/04)  思潮社

2016-05-06 21:05:39 | 詩集
 第3詩集。93頁に28編を収める。
 作品がとても丁寧に書かれてている。それは余分なものを排して、必要な言葉だけを注意深く選び取っている、といったようなことだ。描かれたものには飛躍があり、その真剣さが余韻を深くしている。
 「焼かれていく」では、秋が冷気に焼かれていく。青かった花は赤みがかり、蕾も茶色く焼かれていくのだ、時は十二月で(無情に)移ろっていくのだ。この作品ではただそのことだけが詩われている。そして最終部分は、

   あした思いきってだれかに手紙を書きます
   あさっても書きます
   思い出してみます

 「影」。枯れたフキの茎や葉が黒ずんでいて、駅のホームが暗いようなのだ。まちがえたホームから地下道を行くと、「白い布をまとった人たちが/両側に横たわっていて/ある人は顔をあげて見つめ」てくるのだ。そして別のホームも変わりはしなかったのだ。

   遠くに大きな人影が見えたので
   明瞭な声をととのえて言った
   声はひとすじ渡っていった

   わたしは負けました

 はて、わたしは何に負けたのか。なぜ、遠くの人影に告げなければならなかったのか。説明は何もないが、わたしは何かに納得したのだろう。その納得したわたしは潔く思える。

 作者はこの詩集と同時にエッセイ集「風もかなひぬ」(思潮社)も発行している。詩誌「左庭」などに発表されていたもので、何編かは読んでいた。しかし、こうしてまとまってみると、作者の人柄がその歩んできた道のりと一体となって親しげに押し寄せてきた。特に「ほとりにたたずむ」の7編は素晴らしく読ませてくれた。
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