伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

「穏やかな人」「控えめな人」こそ選ばれる30の戦略 静かな営業

2023-08-31 22:48:19 | 実用書・ビジネス書
 今どきの客は明るく元気な声の大きい営業を求めていない、むしろ押しつけがましくない、話を聞いてくれる、信頼できる人の方が売れるということを主張する本。
 確かに自分の経験でも、押しつけがましい、断ってもしがみつくようなセールスに対しては嫌悪感しか持たず、2度と電話してくるなと言いたくなりますが、と言って、口下手で控えめなら話を聞く気になるかというと、セールスの電話など相手がどういう人であれ迷惑なだけです。そういうことからすると、元気か、静かかとは別にセールスのきっかけ、話を聞いてもらう場をどうつくるかは考えないといけないでしょうね。
 最後のコラムで、「個人事業主は『営業しない』ことを考えるべき」と題して、例えばカウンセラーなら一番大事なことはカウンセリングを行うことで、しっかりとしたカウンセリングを行うことでリピーターになってもらうことにこそ一番時間を使うべきとしています(218~219ページ)。「個人事業主は営業に時間をかけてはならない」、いかに営業しないで集客するかを考えるべきというのです(220~221ページ)。至言ではありますが…


渡瀬謙 PHP研究所 2023年8月2日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

倒産続きの彼女

2023-08-30 21:52:30 | 小説
 弁護士400名余の大手法律事務所山田川村・津々井法律事務所のコーポレートチームに属する28歳の弁護士美馬玉子が、チームのボスの津々井弁護士の指示で顧客の内部通報窓口に来た、経理部の女性従業員がこれまで転職の度に会社を倒産させてきた、不正行為をして潰して回っているんじゃないかという通報について、1年先輩の剣持麗子とともに調査を進めるというミステリー小説。
 傲慢でキレやすいが能力はある弁護士を、内心で嫌いやっかむ凡庸な弁護士が、凡庸ながらに努力するという展開で、この作品を読ませるとともに、デビュー作「元彼の遺言状」の主人公の剣持麗子を、そのキャラを変えることなくふつうの弁護士の目から取っ付きにくいが実はいいところもあると評価させることで、読者までもが鼻持ちならないやつという評価から親しみを感じられるように誘導して、シリーズとしても好感度を上げるという、作者の作家としての巧みさを感じました。
 他方で、企業側の弁護士の業務面での描写の説得力が、闇の勢力を敵として設定することで(正確には、その部分についてリアリティのある描写がないことで)削がれてしまっている感があるのが残念に思えました。


新川帆立 宝島社文庫 2022年10月20日発行(単行本は2021年10月)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この世の果ての殺人

2023-08-29 22:15:20 | 小説
 2023年3月7日に直径7.7kmの小惑星「テロス」が熊本県阿蘇郡に衝突し衝撃波とその影響で30億人以上が死亡し、生き残った者も粉塵による気象・環境への影響(寒冷化等)により餓死か凍死するという予測が後に「不幸な水曜日」と呼ばれることになった2022年9月7日に発表され、大半の人が避難し少なからぬ人が絶望から自殺し、ゴーストタウンと化した福岡県太宰府市で、なぜか自動車教習を受ける23歳の小春と、教習を続ける元警察官の自動車学校教官イサガワが、教習所の車のトランクから他殺死体を発見し、正義感に駆られて捜査を始めるイサガワに引きずられて警察を訪ねるうちに類似した殺人事件が続いて起こっていることを知って…というミステリー小説。
 人類が滅びることがほぼ決まっている状態で、人はそれまでどうやって過ごすか、何を大事にするのかというテーマで、実際にはそれまでとさほど変わらぬ生活を送り、降りかかる運命・できごとに翻弄されながらそれに対処していくのだろうという思いを持ちました。
 20XX年とかいう書き方にもあまりいい印象は持たないのですが、2023年3月7日と特定されてしまうと、それ以後に読む身にはちょっと白けてしまいます。「ノストラダムスの大予言」とかの騒ぎを今思い出すような…難しいところですが。


荒木あかね 講談社 2022年8月22日発行
2022年江戸川乱歩賞受賞作

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人体と病気まるわかり大全

2023-08-28 23:42:19 | 自然科学・工学系
 人間の体の仕組みについて、消化器、呼吸器、循環器、腎臓、代謝・内分泌、免疫・アレルギー、感覚器、運動器、脳・神経に分けて、解説した本。
 説明がわかりやすく、コラムは興味深いことがらを少し踏み込んで書いていたりして、読みやすく勉強になった気がします。
 パルオキシメーターが指先にクリップで付けるだけで血中酸素飽和度を測定できるのは血液の色を測定して酸素と結合したヘモグロビン(赤い)と酸素と結合していないヘモグロビン(黒っぽい)の割合をみている(100ページ)とか、血圧計は腕に収縮期血圧以上の圧力をかけていったん動脈をぺちゃんこにして血液が流れないようにして徐々に圧力を下げて血液が流れ出す圧力(収縮期血圧を判定)とその血流が乱流状態(聴診器を当てると雑音がある)を脱した圧力(拡張期血圧を判定)を測定している(136ページ)など、以前からの疑問が解けました。水の中で目が痛くなるのも、鼻に水が入るとツンとするのも、体液との塩分濃度の違いが原因(179ページ)、星をよく見ようとすると却って見えなくなるのは網膜の中央部には明るいところで色を判別する錐体細胞が、周辺部には暗いところで光の強さを判別する桿体細胞が分布しているところ、凝視しようとすると桿体細胞がない網膜の中心部に像が結ばれるので光を感知しようとする能力が下がるため(235ページ)なども、「目からうろこ」の思いです。


福冨崇浩 主婦と生活社 2023年6月26日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

歯医者選びの新常識 あなたにとって最良の歯医者に出会うために

2023-08-27 22:57:54 | 実用書・ビジネス書
 虫歯治療で歯をどの程度削るか、補綴物の選択とそのために歯をどれくらい削るか、歯を抜くか抜かないか、根管治療、インプラント、歯石除去、定期検診等のさまざまなトピックを採り上げつつ、歯科医の目からどのような歯医者がよい歯医者なのかを論じた本。
 歯科医院で歯石を除去し歯面清掃をしても歯周病の発症や進行の予防にならない(言われてみれば当然ですが、プラーク(歯垢)は歯科医がいくらきれいにしても翌日には再沈着するもので、毎日歯ブラシで除去するしかない:41~51ページ)、歯を抜いた後何も入れなくても(ブリッジや入れ歯、インプラントなど入れなくても)問題は起こらない(「歯が動くことはほとんどない」と108ページに書かれていて、他方で「歯が大きく動くのは歯周病の治癒過程」と110ページでは言っているなど、記述にややブレは感じますが、「大変なことになる」ことはないという限度で)(106~113ページ)など、なるほどと思いました。
 最新の技術を用いても患者にとっていい治療とは限らない一方で、50年前に著者の父が行った根管治療について現在の治療のレベルから見れば「プアーな治療」ということになるが歯根破折も起こしておらず歯根の周囲に大きな問題も見当たらず神経を取って50年以上も経過しているにもかかわらずブリッジの支台として十分に使える状態だった、この患者にとっては父はよい歯医者だったという紹介をしています(21~22ページ)。その患者の状態・条件によって最適な治療が違ってくることもあり、うまくいった、いい状態が続いている患者にとってはよい歯医者という説明ではあるのですが、ここはその現在の視点からは「プアーな治療」がそのケースでは何故うまく持ったかの説明が欲しいところです。「歯科治療では理屈通りにいかないことが多々あるのです」(131ページ)ということはあるのでしょうけれど。
 すべての患者にとってよい歯医者というのがいるわけでもなく、すべてを歯医者に任せて歯の健康が保てるものではない(毎日の歯磨きが重要な意味を持つのですし)、患者が自覚を持って歯医者とよいコミュニケーションを心がける必要があるというのも、心しておきたいところです。


小西昭彦 阿部出版 2023年5月1日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

わたしは広島の上空から地獄を見た エノラ・ゲイの搭乗員が語る半生記

2023-08-26 00:13:19 | ノンフィクション
 広島に原爆を投下した「エノラ・ゲイ」(隊長ポール・ティベッツの母親の名前)と名付けられた爆撃機B29の尾部射撃手であり、エノラ・ゲイが投下後直ちに退避行動に出た(尾部が爆心地の方向を向いている)ために爆発の様子を唯一目撃し、その様子(有名なキノコ雲等)を写真撮影した著者の半生を綴ったノンフィクション。
 爆発の実質的に唯一の目撃者であり、また原爆投下の直接の様子を知っているという点で、貴重な記録、ではありますが、その人物自身の生い立ちとか、女性関係自慢を読む価値がどれだけあるのかという思いが募りました。
 1995年の本を今になって日本で出版すること、そして原題と大きく異なる「わたしは広島の上空から地獄を見た」という邦題をつけること、被爆2世の訳者が著者を非難すべきでないと言うこと(441~442ページ)に私は違和感を持ちました。原爆を投下するために日本に向かうエノラ・ゲイの機内にヌード写真が貼り付けられていたこと(396ページ)、原爆投下後の機内で乗組員のひとりが「あの噴煙の中にあるものは、死だけなんだ」とつぶやいたが、著者は写真を撮り続け、隊長に聞いたのは「このたびのことをやり遂げるのに、どれだけの人間がかかわったのでしょうか?」(原爆開発の苦労の話)という質問だった(415~418ページ)というのは、貴重な体験談ですが、著者の意識に投下された側が味わう「地獄」があったようには見えません。本人自身、原爆の投下を「少しも後悔していません」と述べている(441ページ)というのですし、一番最後にある「わたしは、エノラ・ゲイの尾部から見たあの朝の光景を、ほかの誰にも決して見せたくないと願っているのです」(433ページ)という2行がいかにもとってつけたようで浮いています。訳者はその2行をもって著者が良心の呵責を感じていた(被爆者たちが「あのような悲劇は二度とくり返してはならない」と悲痛な思いで訴える言葉とも重なるとまで言っています)という(441~442ページ)のですが、私にはとてもそうは感じられません。


原題:FIRE OF A THOUSAND SUNS
ジョージ・R・キャロン、シャルロット・E・ミアーズ 訳:金谷俊則
文芸社 2023年5月15日発行(原書は1995年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

滅茶苦茶

2023-08-25 23:11:42 | 小説
 大手広告代理店H社でチーフディレクターを務め窓から東京タワーが見える都心のマンションに1人住まいの今井美世子もうすぐ37歳がマッチングアプリで知り合った年下の中華系マレーシア人劉貴福に誘われ、群馬県の県内一の進学校に入学したが勉強についていけない二宮礼央が電車の中で絡まれて再会した小学時代の同級生の半グレ男田辺聖也とその仲間たちに誘われ、父親から受け継いだラブホテル3軒を経営しラブホテルがコロナ禍の持続化給付金の対象外とされたことにキレて役所に怒鳴り込み愚痴を言い続ける戸村茂一が飲み屋のママ恵39歳に誘われ、それぞれに転落していく様子を描いた小説。
 コロナ禍の下での人々の焦燥感や振る舞い、対策等を茶化す思いがベースにあるように感じられます。それを書くならコロナ禍の最中に書けばいいのに、今頃になって、安全な場所から今なら読者も反発はするまいと踏んで書くのには、私はなんだかイヤな感じを持ちました。
 ラストも、3者を並行して話を続けた以上は3者ともオチをつけるのがふつうだし読者もそれを期待すると思うのですが、こじらせるだけこじらせてオチをつけられなくなって放り出したような印象です。


染井為人 講談社 2023年5月8日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シャイロックの子供たち

2023-08-23 23:33:58 | 小説
 大田区の住宅街にある東京第一銀行長原支店での銀行員たちの悲喜こもごもを綴った短編連作。
 世間的には羨まれている銀行員の苦しくも哀しい日常と人生が描かれています。
 映画を見て半年後に原作を読みました(映画を見て疑問に思って原作を図書館で予約したところ、予約多数で、半年後にようやく回ってきました)。映画は、第3話、第4話、第7話、第8話、第9話を使い、それに新たなオリジナルエピソードを追加して変形したということのようです。映画を見たときに、終盤に、西木(映画では阿部サダヲ)が沢崎(柄本明)の耐震偽装ビルを売りつけるというところに強い違和感がありました。耐震偽装が発覚しないのならわかりますが、建築士が自白寸前と認識しているのですから、売りつけた後であっても欠陥建築とわかれば、売主は買主から代金返還なり損害賠償なりの請求を受けます。耐震偽装発覚直前に代金を支払わせても、身元が明らかな沢崎は逃げられません。マンション業者の株を高値のうちに売り抜けるという場合(その場合は、インサイダー取引の問題があれば別として、売ってしまえば勝ち)とは全然違います。それを、発覚前に金を払わせてしまえば勝ちみたいな描き方をしているのを見て、何だこれ?と思いました。他のエピソードはきちんと考えられているのに、こんなバカな話を銀行員出身の作家が書くのかと釈然としませんでした。それで原作を読んでみたのですが、やはりこの部分は原作にはなく、法律や不動産取引のことを知らない人が追加したのですね。


池井戸潤 文春文庫 2008年11月10日発行(単行本は2006年1月)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

セカンドチャンス

2023-08-22 23:01:08 | 小説
 高血圧、高脂血症で、このままでは60代で心筋梗塞とかで命を落とすと言われて、指導ナースからウォーキングプール通いを勧められた泳げない大原麻里51歳が、名門のスイミングスクールであったが今は寂れているスポーツセンターに通うことになり、そこで知り合ったコーチや中高年の会員らとともに水泳を覚え、さまざまな力量と事情を持ったメンバーでフィットネスクラブの競技会への出場を目指すという小説。
 基本的に、大人の事情を抱えた人々の水泳への思いと挫折、困難を乗り越えようとする姿を描く小説ですが、主人公が独身女性であり、友人の励ましや制止も受けながらのラブストーリー部分もあります。
 「投身」「血も涙もある」に続いて50歳前後の女性の恋愛が登場する小説を読むことになりましたが、こちらが一番爽やかに感じられました。


篠田節子 講談社 2022年6月27日発行
「小説現代」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

血も涙もある

2023-08-21 21:48:28 | 小説
 人気のある料理研究家沢口喜久江50歳と、その10歳年下の夫で売れないイラストレーターの沢口太郎、パーティーのケータリングサービスを手伝っていて見出されて沢口喜久江の助手になった和泉桃子35歳の間で、太郎と桃子が不倫の関係になり、沢口喜久江が見て見ぬフリをして平静を装うという様子を、桃子視点の「 lover 」、喜久江視点の「 wife 」、太郎視点の「 husband 」の順で展開する小説。
 ジコチュウである上、自分は鈍感ではない、わかっていると錯覚しているとてつもなく鈍感な人物の語りを楽しめるかが、作品の評価、読後感を大きく左右する読み物だろうと思います。率直に言って、私にはハードルが高いものでした。


山田詠美 新潮社 2021年2月25日発行
「小説新潮」連載
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする