伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

祖母の手帖

2017-10-15 18:14:27 | 小説
 熱烈に思いを寄せた相手とは続かず、娘の奔放さを不安に思いさらには一族の恥と呪う母親から戦災で疎開してきた男と結婚するよう無理強いされ、愛のない結婚生活を続ける主人公が、流産の末その原因が腎臓結石と診断されて医師のすすめで温泉療法を行い、その逗留先でやはり結石を持つ片足が義足の妻子ある帰還兵と知り合い、惹かれてゆくという官能恋愛小説。
 主人公と夫の夫婦関係が、スタート時点で主人公が「わたしはあなたを愛していないし、ほんとうの妻には決してなれないだろう」と言い、夫も「心配はいらない」と答えた、彼の方も彼女を愛してはいなかったのだ(10ページ)と描かれ、新婚1年目に主人公がマラリアにかかり夫が献身的に看病をした(11~12ページ)が、二人は同じベッドで離れて寝て触れあうこともなかった(13~14ページ)ところ、ある夜主人公が夫に売春宿に通うのはやめるように言い自分が売春宿の女と同じサービスをすると言い出し(22~23ページ)それからは肉体関係を結びながら、「祖母は、愛というのはなんておかしなものなんだろう、といつも思った。愛は、ベッドをともにしても、優しくしたりよい行いをしたりしても、生まれないときには決して生まれない。一番大切なものなのに、どんなことをしても呼び寄せることができないなんて、ほんとうにおかしなものだと思った。」(25~26ページ)と設定され描かれています。そのサービスのリストには女体盛りとか犬のまねとかノーパン喫茶のメイドのような屈辱的なものがあり(それでも主人公は帰還兵にそれを「誇らしげに」挙げたというのですが:60ページ)、夫に「もう売春宿に行く必要がなくなったわけですが、わたしのことを愛していますか」と聞いたが夫は主人公の方を見ずに一人で微笑みらしきものを浮かべ、彼女のお尻を平手で軽くたたいただけで質問にはまったく答える素振りも見せなかった(63~64ページ)という状態で、その夫婦関係に満足できない主人公の焦燥感、愛への渇望感が、ポイントになっています。
 語り手は、主人公の息子の娘という設定で、当然知らないはずの主人公の若かりし頃の話を、伝聞形ではなく直接見たように語り、読んでいてわかりにくいというか違和感があります。回想の形もなく時期は行きつ戻りつし、しかも後半ではときどき語り手がいつの間にか主人公の妹になっていたりする(同じ章の連続するパラグラフで、主人公を「祖母」と呼んでいたのがその次のパラグラフでは何の断りもなく主人公を「姉」と呼んでいたりします)のも混乱を招きます。


原題:Mal di pietre
ミレーナ・アグス 訳:中嶋浩郞
新潮社(クレストブックス) 2012年11月30日発行 (原書は2006年)
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

恋の法廷式

2017-10-10 00:57:16 | エッセイ
 著者が傍聴した刑事裁判の中から、恋愛が絡む事件での検察官、弁護人、被告人の様子を採り上げたエッセイ集。
 私も娘が一度行きたいというので、東京地裁で一日、法廷傍聴をしたことがありますが、自分に利害関係がない事件というのは気楽に見ていられるし岡目八目で弁護士の法廷活動が第三者からどう見えるのか(見える人にはどれくらいあらが見えるか)わかって興味深い反面、事件そのものにそれほど興味が持てずに下手な尋問が続くと眠くなるものです。私が行ったとき準強姦の事件で被告人質問があって、1時間ほどの間に、これまでの人生で経験したことがないほどの頻度で「セックス」という単語が女性検事の口から出続けて赤面しました。ものを書くためとはいえ、その種の事件の傍聴を続ける著者の熱意には、頭が下がると言いますか・・・
 内縁の妻は見捨てないという項目、「夫が罪を犯したとき、妻は離婚するか否かを考えるが、そこには世間体が絡んできやすい。」「内縁の妻の多くはそれがない。判断の基準は、刑務所にいる間、寂しさに耐えて待つに値する愛の深さがあるかどうかである。」(85~86ページ)。至言かも。そして逮捕されたあと、これまで身近にいたけれど恋愛関係になかった人が毎日面会に来てくれて愛が芽生え結婚の約束をしたというケース(256~259ページ)。こういうところ、微笑ましいと思う。もちろん、犯罪を犯した後の人生、そんなに甘いもんじゃないと思うけれど。この本で取り扱っている事件の被告人の大部分の行動や主張が、身勝手で一方的な思い込み、一般人にはとても理解できない勝手な論理に満ちているのですが、そういう微笑ましいケースもあるのが、ちょっとホッとします。


北尾トロ 朝日文庫 2017年8月30日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

親権と子ども

2017-10-08 22:26:59 | 実用書・ビジネス書
 親権の内容と性質、離婚の際の親権者の決定、監護権者の指定、養育費、面会交流、虐待と親権(親権の停止、喪失)について解説した本。
 親権は、権利とされていますが、2011年改正で「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」とされたように、子どもの養育される権利がその本質で、親にとっては子に対する義務の側面が強く、子の監護や教育に対して不当に介入する者(国や社会)に対して介入を拒む(排除する)権利という点で権利性を有するものです。
 離婚の際の親権者の決定や監護権者の指定、面会交流等では、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」とされています。少子化を反映して親権や面会交流が争われるケースが増えていますが、親権者が母親となるケースは今なお増え続けていて2015年には母親が親権者となった割合は84.3%に及んでいます(78~79ページ)。無原則な「母親優先」に批判がなされ、父親が親権を求めて争うケースが増えている中で、母親が親権者となる割合が増え続けているのはややショッキングでもあります。
 親権と虐待についての第3章は、虐待を繰り返す父母に対して児童相談所が子どもを保護し里親に委託する事例を紹介しています。このあたり、自戒を込めてではありますが、確かにここで挙げられているケースを読めば、虐待に心が痛みこのような親から子を保護するのは当然だと思いますが、現実の事件では「客観的事実」が明確とは言えず、行政側がそう認定したといってもそれがどこまで確実なのか、権力の行使を無批判に賞賛していてよいのかが問われます。弁護士の中でも、民事介入暴力(暴力団対策)や犯罪被害者の権利、女性の権利(両性の平等)、子どもの権利等の領域では、警察の取り締まりの強化を求める意見が強く優勢になりがちで、簡単にそう言っていいのかと思う場面が多々あります。虐待を放置してよいということにはもちろんならないのですが、弁護士として、悩ましいところです。


榊原富士子、池田清貴 岩波新書 2017年6月20日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

10秒でズバッと伝わる話し方

2017-10-01 23:38:08 | 実用書・ビジネス書
 相手に聞いてもらい相手を動かすために核心部分を短くかつ相手が受け入れやすいように話す話し方を解説した本。
 人間は30秒以上興味がない話が続くと急に集中力が落ちる(68ページ)ので、基本10秒(20~30字)で話をまとめようというのが、この本での目標となります。そのために①無駄な口癖(え~、あの、まぁ等)をなくす、②自分が言いたい言い訳や自分の主観・思惑ではなく相手が知りたいことから先に話す:「ニーズファースト」、③自分が一番言いたいことを抽出するにはここで自分が言いたいことは「ズバリ」何かと自問する、④話すとき主語と述語をくっつける(間に修飾節を挟まない)、短文に切る、指示代名詞(あれ、それ)を使わない、⑤画像を示したり例え話でイメージを描かせる、⑥言いにくいことを言うときに前置きを長くせず結論を予測させる(相手に覚悟させる)ひと言と相手への気遣いの言葉を入れた「プリフレーム」を述べてから結論に入る、⑦逆接(相手の話に対する否定)から入らずいったん受け止める、⑧ミーティング(会話)のゴール(目標)を設定するというようなことを挙げています。①~③が自分の伝える話を短くする、④と⑤は相手が理解しやすい(誤解しにくい)ように話す、⑥と⑦は相手が受け入れやすいように話す、⑧が会話全体を短くすることに通じるということでしょう。
 私には、③と⑥と⑧が、なるほどなぁと思えました。ズバリどれ?と聞かれたら、⑥でしょうか。⑤は、使う例え話自体から想起するものが自分と相手で違うというリスクがあり、かえって誤解を拡げる可能性もありそうです。


桐生稔 扶桑社 2017年9月30日発行(えっ、昨日?)
コメント (2)
この記事をはてなブックマークに追加