伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

夢の彼方への旅

2008-08-31 17:43:16 | 物語・ファンタジー・SF
 交通事故で両親を亡くしたイギリス人少女マイアが、アマゾンの奥地でゴム農園を営む親戚カーター氏にマイアの遺産狙いで引き取られ、家庭教師とともにアマゾンに渡って、船で知り合った旅芸人のクロヴィス、なぜか賞金をかけて追われている死んだ博物学者の息子フィンらとともに困難を乗り越えていく青春冒険物語。
 アマゾンでもイギリス流の生活を貫き地元の食べ物は食べず殺虫剤と消毒液にまみれて暮らすカーター一家に、マイアは最初から違和感を持ち、使用人のインディオに関心を持ち、家庭教師のミントン先生からカーター一家に隠れてポルトガル語や地元の地理を習ってインディオと交流を深めていきます。マイアはイギリスでアマゾンのジャングルを想像して心躍らせ、ジャングルでの生活に憧れ、最初の書きぶりは、これはこれでブラジルへの偏見じゃないかとも感じましたが、マイアは最後までその線で行動し、異文化への理解・尊重・共感が謳われています。ストーリー上もインディオとの交流がマイアを助けます。
 家庭教師のミントン先生がストーリー展開上意外なキーパースンになりますが、厳格で堅物のようで一面さばけたこのミントン先生の性格設定もなかなか楽しめます。


原題:Journey to the River Sea
エヴァ・イボットソン 訳:三辺律子
偕成社 2008年6月発行 (原書は2001年)
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最終弁論 歴史的裁判の勝訴を決めた説得術

2008-08-24 17:02:57 | 人文・社会科学系
 アメリカ裁判史上に残る優れた最終弁論を6件選んで掲載した本。
 著者3名のうち2名が検察官出身ということもあってか、6件のうち3件が検察官の最終弁論(日本の制度でいえば「論告」)で弁護側の最終弁論が2件、民事事件の最終弁論が1件となっています。
 弁護士の立場から言うと、一般の方には、弁護士の仕事として法律上の主張の展開を期待される方が少なくありません。現実の裁判では、法律論そのものが主要な戦場になることは少なく、証拠に基づく事実関係が主戦場になることが普通です。ですから、最終弁論も、主要な主張は法律論ではなく、法廷に出された証拠についてそれをどのように評価し、どのような事実が認定されるべきかが中心で、法律論を展開する場合でもその具体的な事実関係に絡めて主張するのが普通です。そういうことを何度も説明するのですが、一般の方にはなかなか理解していただきにくいというのが実情です。この本では、現実の裁判でなされた最終弁論を基本的にそのまま掲載していますので、こういう本を読んでいただければ、裁判での最終弁論、ひいては弁護士の仕事について具体的に理解していただけるのではと、弁護士としては期待します。
 ただ、そういう内容だけに私たちの業界の人間以外には読み通すのが苦痛かなという気がしますし、掲載されている最終弁論のうち4件はかなり長い。
 それから、アメリカでの裁判ということで、日本の場合と異なり、陪審員を対象に文書なしでしゃべって弁論していることから日本の裁判でのスタイル、ポイントの置き方とは異なる部分が多いので、そこは頭に置いて欲しいところです。
 そして掲載されている6件のうち弁護側の最終弁論で長いものは、クレランス・ダロウというアメリカでも屈指の著名弁護士の弁論だそうですが、選ばれた事件が事実関係は争わず終身刑か死刑かだけを争う事件で、しかもダロウが選んだ争点が情状に関する事実関係を展開するよりも年少であることと病んだ精神による犯罪であることに絞られているため、証拠についての指摘が少なく、法律論中心のものとなっています。
 むしろ私たちが読んで現実の最終弁論らしいのは、シャロン・テートらの連続殺人事件とベトナム戦争でのミライ村の虐殺事件での検察側の最終弁論です。このあたりを読んで、現実の裁判での弁護士や検察官の仕事について実感していただけるといいなと、一弁護士としては思います。


原題:LADIES AND GENTLEMEN OF THE JURY : GREATEST CLOSING ARGUMENTS IN MODERN LAW
マイケル・S・リーフ、H・ミッチェル・コールドウェル、ベン・バイセル 訳:藤沢邦子
ランダムハウス講談社文庫 2008年6月10日発行 (単行本は2002年、朝日新聞社、原書は1998年)
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きみの遠い故郷へ

2008-08-20 22:29:15 | 小説
 洗羊液中毒から化学物質過敏症となって納屋で暮らす精神を病む夫ディビッドを持ちBB(民宿)を経営する44歳のフィオナが、アメリカから死んだ元妻の遺言に従い遺灰をウェールズの山頂に撒きに来た50歳のアメリカ人詩人アレックと恋に落ちた1週間とその後を描く熟年恋愛小説。
 フィオナは独立心旺盛でBB経営者としてサービス精神もコミュニケーション能力も豊かな魅力的な女性として描かれていますが、アレックは山男でサバイバル能力に長けていながら家畜とのコミュニケーションに優れ、それに輪をかけて料理上手でユーモアにあふれた人物と描かれています。牧場経営とBB経営をするフィオナからは非現実的なほど理想的な男性。
 設定からして中年女性読者を想定したあまりに都合のいいロマンス物で、夫が納屋にいるのに、さらには夫が病院で生死をさまよっているのにアレックをベッドに引き込むフィオナの行動はちょっとあんまりだと思いますが、さほど悩まずなんとなく正当化されています。アレックの方で悩んで、愛し続けると言いながら身を引いてくれます。アレックがそうしなければ田舎の狭い社会でいずれはばれてフィオナが窮地に陥ったわけで、それも含めて、アレックが現実には考えられないほどいいヤツで、フィオナにはあまりにも都合のいい展開です。ここまで尽くさないと現代のラブ・ストーリーに入れないと考えたら荷が重すぎますね。
 中年女性の読者には、またあくまでも読み物として読む分には、軽快ですけどね。


原題:THE LONG WALK HOME
ウィル・ノース 訳:田口俊樹
文藝春秋 2008年5月15日発行 (原書は2007年)
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転がるマルモ

2008-08-13 01:03:35 | 小説
 嘘つきで甲斐性なしで借金まみれの父親を置いて夜逃げした母に連れられて大阪から横浜の教会に転がり込んだ小学4年生のあつ子を中心に、母子3人のドタバタを描いたコメディ。
 借金をしてそれをひた隠しにし、ばれても一部しか言わずどんどんと状況を悪化させていくだけの父親。弁護士やってると、時々会いますね、こういう人。ヤミ金に借りまくってやってきて弁護士にも全部は話さず弁護士が整理する一方でまた他から借りて台無しにしながら後でまた泣きついてくる人とか、こういうタイプ。
 こういうどうしようもない父親から離れてたくましく暮らすあつ子と兄のマルモ。兄の方はまじめながんばりやで、タイトルになっているにもかかわらずただの脇役です。子どもながらに度胸が据わってしたたかなあつ子と、元々はお嬢さんで男を見る眼がない(だからどうしようもなくダメな父親と周囲の反対を押し切って「大恋愛」で駆け落ち同然に一緒になった)が開き直って強くなる母桜子が中心人物となり、この2人の視点からストーリーが進行します。
 教会の「こひつじハウス」の経営者がけっこうがめつかったり、「こひつじハウス」の住人たちももちろん怪しげな人物ばかりで、そういう人物造形も味があります。
 舞台は横浜なんですが、どうも「じゃりン子チエ」の雰囲気ですね。


篠崎絵理子 メディアファクトリー 2008年6月6日
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リリとことばをしゃべる犬

2008-08-12 23:49:02 | 小説
 バカンスに両親と海辺に向かった12歳の少女リリが、途中のパーキングエリアで両親に置き去りにされて同じように飼い主に置き去りにされた「しゃべる犬」とともにパーキングエリアでサバイバルを続ける内容の日記を書いたことを通じて、両親との関係、不満と人生の折り合いを思い直す物語。
 リリの書く日記が、嘘か真か、話が2転3転していくところが、読ませどころ。リリは両親に対して持つ不満から、ノートに嘘の話を書き付けて行きますが、それを見つめ直すことで書きすぎと感じて、両親の現実や人生の苦労やそれとの折り合いのつけ方を感じ取って行きます。ラストはまさに「それが人生」で、まるまるそう言ってる原題”C’EST LA VIE,LILI”(それが人生だよ、リリ)の方がフィットしています。
 最後は教科書的なハッピーエンドですが、展開が洒落ているのでそれほど教訓っぽくありません。
 小学校高学年~中学生か、その親向けの本ですね。


原題:C’EST LA VIE,LILI
ヴァレリー・デール 訳:堀内久美子
ポプラ社 2008年7月10日発行 (原書は1991年)
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ダメ部下・アホ上司の使い方

2008-08-11 22:00:31 | 実用書・ビジネス書
 オレ様な(傲慢・わがままな)/空気が読めない/お子様な(気分屋で責任感がない)/うじうじしたの4分類でダメな部下、アホな上司を列挙して、対処法を述べるビジネスないし暇つぶし本。
 様々な困った奴を挙げているので、たいていああこういうのいるいると思うようにできています。反対の性格が両方困ったちゃんになっていることが多々ありますし。度が過ぎればたいていのことは困ったことになりますが。要するに気に入らない部下や上司はどれかに当たるはず。そういう話題にするか自分で納得するかの暇つぶしには使えます。4分類は強引な感じで、あれこれ書いたのを後でまとめるのにムリムリ分類した感じ。
 対処法の方は、直接か周囲から本人に自覚させるか、直すのはあきらめて巧く利用するかというようなところですが、効果のほどは?


樋口裕一 角川oneテーマ21 2008年4月10日発行
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ギフト

2008-08-11 01:41:57 | 物語・ファンタジー・SF
 職務質問中逃げ出した少年を追いかけ少年が交通事故死したために辞職してレンタルビデオショップに勤める元警察官と死霊が見える中学生が、成仏できずにさまよう死霊の願いを聞き取り助けるというストーリーの小説。
 霊にも他人のことを思って忠告したり助けたりするために心が残って現世をさまようけなげな霊も、あまりにジコチュウで自分が悪くて人に迷惑をかけまくって死んだのにそれを納得できないと文句を言い続ける霊もいたりして様々です。
 前半は、霊をだしにした軽めのコミカルな読み物です。ただ、前半からこの主人公の元警察官が、自分が少年を事故死に追いやったことから過剰に自己規制して自分は楽しむ資格がないとかすごくピリピリして、エンタメになりきれないのが残念。最後はその主人公が気にし続けている少年の霊で終わるのですが、読者としては主人公が大げさに自分の責任を感じ続けてきた内容が今ひとつなものだから、ちょっと肩すかしの感じが残ります。解決した後もこの主人公の感じ方が内向的で重苦しく、なんか解決したのに素直にハッピーエンドって感じでなくてやや改善に兆しが・・・くらいのエンディング。全体にもう少し軽めに書いた方が読み物としての評価が上がると思いました。


日明恩 双葉社 2008年6月25日発行
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ザ・ロード

2008-08-10 08:39:15 | 物語・ファンタジー・SF
 人類の大半が死滅したアメリカで子どもを連れて飢えや盗賊と闘いながら旅を続ける父親のサバイバルを描いた近未来SF小説。
 人類の大半が死滅した原因が核戦争なのか疫病なのか、そういった設定はまったく説明されず、人気のない焼かれた灰の降り積もった街や平原や道路を親子が食料や燃料を求め、見知らぬ人物との遭遇を避けながらさすらう様子が最初からずっと続きます。母親との別離もごくサラッと触れられているだけで、そこに至る経緯はあまり関心なく、とにかくわずかな人類が残された世界での親子2人のサバイバルというシチュエーションを描くこと自体に目的があると感じられる作品です。
 ライフラインが崩壊した状態では、飢えと寒さが、とりわけ子連れ旅にはいかに脅威かが描き続けられます。父親の子どもを守る決意、子どもを守るために自分は倒れられないという責任感に貫かれていて、さほど劇的な事件は起こらないのですが、物語に緊張感・緊迫感が持続します。極限的な状況の中での父親と少年のやりとり、少年の心の純真さとやさしさとその摩耗・諦めが、読んでいて切ない。
 読んで面白いわけでもなく、ドキドキするストーリー展開もありませんが、子を持つ父親の立場からは、考えさせられるというか、染みる1冊です。


原題:The Road
コーマック・マッカーシー 訳:黒原敏行
早川書房 2008年6月25日発行 (原書は2006年)
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なぜあの上司は虫が好かないか ヒトを操るフェロモンの力

2008-08-09 01:16:57 | 自然科学・工学系
 フェロモンについての解説書。
 フェロモンは昆虫について研究が進んでいて、昆虫については、動物個体から放出され同種他個体に特異的な反応を引き起こす化学物質と定義されているそうです。マウスでの研究ではフェロモン情報は扁桃体・視床下部には伝わるが大脳皮質には伝わらず、人間も同じだとすれば、認識できないが本能に直接働きかけて行動を左右するということになるそうです。それってちょっと怖い。
 しかし、人間についてはフェロモンはまだ特定されておらず、わかっていることはかなり少ないとのこと。人間についてはっきり観察されるフェロモン効果は寄宿舎効果といわれる女性が多数共同生活していると月経周期が同じになってくること(42頁)くらいだとか。
 その上で仮説として、なぜか虫が好かないというような人間関係はフェロモンによる可能性があるとか、年頃の娘が父親を嫌うのは妊娠可能な状態の女性が遺伝子が近い男性を避けるためのフェロモン効果ではないか(180~185頁)とか、ヨーロッパではフェロモンを感知するために接触の強い挨拶習慣ができたが湿度の高い日本や東南アジアでは離れていてもフェロモンが伝わるので非接触的な挨拶習慣ができたのではないか(164~167頁)とかいうことが書かれています。
 全体にまだ研究が進んでいないため、あいまいな推測が多いですが、娯楽半分の勉強としてはいいかなというところです。


市川眞澄 小学館 2008年5月19日発行
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体育座りで空を見上げて

2008-08-08 10:00:48 | 小説
 そこそこ人づきあいはでき勉強もできないわけではないが好きでもない女子中学生和光妙子の中学時代3年間の生活を描いた青春小説。
 この主人公、教師や友だちとは、時折対立することはあるものの適当につきあっていけるのですが、親にはささいなことや何の理由もなくキレて当たり散らす親から見たらものすごくジコチュウでいやな奴。
 内容は何でもない中学生活のあれこれを描いていて、主人公は成長したようなしていないような。強いて言えばクラス替えやまわりの人物の入れ替わりで主人公の立ち居振る舞いや人間関係が割りと大きく変わることが印象的という程度。
 普通中学3年間のことを書いたら狙う読者層は中学生とか高校生だろうと思いますが、どうみても中高年をターゲットにしてるとしか思えません。作者が70年生まれだから別の時代を書けなかっただけかもしれませんが、出てくる音楽やできごとがすべて80年代前半。いまどきの中高生ならとてもついて行けない世界にこもっています。ということは、中学生の親向けに、あなたに理不尽にキレまくってる子どもも学校や友達の前では普通の子どもなんですよ、そういう面も見てやってねとかいうメッセージなんでしょうか。そういう感じもしませんでしたが。
 どうでもいいんですが、ネーナが脇毛を剃らないって文句言ってるの(79~80頁)、こういう文句付ける人って大ヒットした「ロックバルーンは99」が反戦歌だって知らずに口ずさんでいたんでしょうね。若い人にはおよそ何のことかもわからない話題ですが・・・


椰月美智子 幻冬舎 2008年5月25日発行
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