伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

犬はあなたをこう見ている

2012-07-27 21:52:06 | 自然科学・工学系
 種としての犬のルーツ(オオカミからの分岐)や犬の知覚・能力と心理面について解説した本。
 犬はオオカミの子孫だということから支配者の座を狙っているとしてしつけのためには飼い主が優位に立つことを見せつける必要があり反抗には罰を与えるべきという伝統的な考えに対し、犬は飼い主さらには人間一般に対して愛着を持ちやすい性質を持ち褒めて育てるべきという、科学者としてなのか一愛犬家としてなのかやや微妙な主張が貫かれています。
 犬は、ごく短い時間(数秒レベル)を超えて過去を振り返って判断することができないので、飼い主が帰ってきたときに犬が留守中に悪いことをしたとして叱ることは、犬には過去にしたことと結びつけて考えることができずただ飼い主が帰ってきたことと結びつけてしまうので、飼い主は帰ってくるとあるときは優しくあるときは叱るという不安を与えるだけで、その不安からまた問題行動に出るという説明や、特定の個人だけではなく人一般に愛着を持つという特性は他の動物にはない犬の特徴(特定の個人なら生後すぐに見たものを親と思う刷り込みなど他の動物にもある)という説明など勉強になりました。
 学者の書いた本らしく、記述が長く、特に日本語タイトルにある犬の考えのような部分に至るまでが相当長くて放り出したくなる衝動に何度も駆られました。また、紹介されている実験が1つの項目につきたいてい1例でそれもほとんどの場合サンプル数がかなり少ないのが、学者さんの本としては気になりました。
 テーマとして興味深く、書かれていることもなるほどと思うのですが、もう少し実験例を増やしてシンプルな記述にしてくれたら(厚さで半分くらいにしてくれたらな)と思う本でした。


原題:DOG SENSE
ジョン・ブラッドショー 訳:西田美緒子
河出書房新社 2012年6月30日発行 (原書は2011年)
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真鍮の評決 上下

2012-07-26 22:52:14 | 小説
 「リンカーン弁護士」の続編。
 前作で銃撃されて負傷するとともに正当防衛とはいえ殺人を犯した衝撃等から職を離れていたマイケル・ハラーが、15年前の公選弁護人時代に叩きのめした因縁からつきあいのあった弁護士ジェリー・ヴィンセントが殺害されたためにジェリーの担当していた事件すべてを引き継ぐこととなって突然復帰し、ハリウッドの寵児が妻と愛人を射殺したとされる世間の注目の的となる事件を担当することになったが、被告人は当然に用意ができていないマイクルに対して予定通りに速やかに陪審審理に入ることに固執する不自然な態度を見せ、ジェリー殺害の捜査は進展しない、マイクルは世紀の裁判にどう臨むのか、ジェリー・ヴィンセント殺害の犯人は・・・というリーガル・サスペンス小説。
 マイクル・ハラーを人間的な弱みはあるがあまりにも敏腕の弁護士と設定してしまったがために相手方の予想外の作戦にダメージを受けたり困り果てるような場面はなく、マイクルはある程度アンフェアな手段を使うにしても勝つだろう、しかし「どうやって」勝つのか、マイクルは何を考えているのかに興味が集まるというタイプのシリーズになっている感じがします。そのために逆転また逆転的な展開には感じられませんが、練られたプロット、予想外の結末、毎回(2作目ですからそこまで言い切れませんが、たぶん)弁護士が身の危険にさらされる設定など、読み味としてはスティーヴ・マルティニに近いというかマルティニとグリシャムの間のように思えます。


原題:THE BRASS VERDICT
マイクル・コナリー 訳:古沢嘉通
講談社文庫 2012年1月17日発行 (原書は2008年)
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深海魚チルドレン

2012-07-23 00:09:45 | 小説
 小学生の時の親友美園に他の友達ができて疎外感を感じていた中1の宗谷真帆が原因不明の尿意のために1時間も座っていられなくなり悩み続けるが、ある日市民会館の崖下の廃倉庫を改造した喫茶店「深海」にたどりつき、ひっそりと静かに時間不定で好きなお菓子やコーヒーを出して営業する素子とカメラ好きの娘ナオミと貝集めを続ける少年ユウタとつきあううちに心がほどけていくという青春小説。
 多数派の歩む道を信じ明るい海しか知らない母親とそりが合わず、母親や父親の言うことを正論と認識しつつも、自分はそれにあわせてやっていけないと感じて悩む真帆が、暗くて静かな深海のような場所が居心地がいい人間もいるんだと知ることで心に余裕を取り戻していく姿が心地よい。一人一人が持つ悩みの重みとそれが一人一人違っても、人間はやはり独りじゃないことを知りたい、大勢となじめなくても一緒にやっていける仲間はどこかにいる、そう語る作者の柔らかな視線が感じられる作品です。


河合二湖 講談社 2011年6月16日発行
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何かのために sengoku38の告白

2012-07-22 19:20:05 | ノンフィクション
 尖閣諸島近海での巡視船と中国漁船の衝突事件で中国漁船が巡視船に体当たりするビデオをYoutubeに投稿して公開した海上保安官が、その動機等を書き綴った本。
 著者の思いは、尖閣諸島をめぐる問題と事件の真相解明のために人々が考え行動して欲しいというところにあり、それが繰り返し書かれていますが、著者自身は事件の当事者ではなくただ神戸で一海上保安官として10時間に及ぶビデオのうち44分を入手してみることができたに過ぎず事件については報道と噂レベルのことしかわからないため、事件をめぐるノンフィクションとしては読んでいて隔靴掻痒という感じがします。
 著者自身が直接体験した部分に関しては、ビデオの入手方法や当時の閲覧状況がかなりぼかした書き方ですし、sengoku38のハンドルネームについても「ハンドルネームの意味は・・・」という見出しがあるにもかかわらず結局書かれていません。
 ノンフィクションとしての部分は、事件当事者になってみて報道の半分しか本当のことは書かれず後半分はおもしろくするための作り話だとわかった(175ページ)とか、「それまでは、よく取り調べで自分がやっていないことをやったと言う人がいるのを不思議に思っていたが、この調子で1カ月近く取り調べが続いたらと思うと、理解できないことはないと思うようになった」(148ページ)、「その連日のような取り調べで痛感したことは、自分の記憶力のなさである。1カ月前のことは日にちははっきりと思い出せないし、自分の行った行動の内容もはっきりと思い出せないのである」(177ページ)などの部分に読みでがあります。特に著者が海上保安官として取調をする側であったことを加味すれば、この実感の重みがわかると思います。そして、私には、著者が退職を迫られた際に、退職に抵抗すると、著者の処分によって他の人の処分が決まるといって迫られたという下り(182~183ページ)が胸に迫りました。言うことを聞かない人間に言うことを聞かせるため、おまえが言うとおりにしないと他の人に迷惑がかかると知人・友人を人質にとって強要するという役所の手口。海上保安庁に限らず、役所・役人の醜さ汚さをよく示している例だと思います。
 他方、著者の動機部分の話は、外国人と外国政府の悪意を強調して排外主義を煽る論調が強く、ちょっと辟易します。


一色正春 朝日新聞出版 2011年2月28日発行
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リンカーン弁護士 上下

2012-07-19 22:36:42 | 小説
 リンカーンの後部座席を事務所代わりに違法すれすれ(私の感覚ではすでに違法に思えますが)の手段を用いながら麻薬の売人や娼婦らの事件で司法取引で減刑を勝ち取っていくちょい悪敏腕弁護士マイクル・ハラーを主人公とするリーガル・サスペンス。
 日本語訳は2009年の出版ですが、2012年の映画公開を機に読んでみました。
 真犯人と思われる被告人を無実と主張する弁護、依頼者である被告人の罠にはめられて脅される、かつて証拠上勝ち目がないと判断して死刑を免れさせるために説得して有罪答弁をさせて司法取引で無期懲役にした服役囚が本当に無実とわかるという弁護士にとっては悪夢といえる状況が二重三重に訪れる設定で、弁護士としてはいろいろと考えさせられます。
 法廷シーンが多く、弁護技術・尋問技術という観点からも弁護士としては参考にもなりまた興味深く読めます。ただ、アメリカの刑事司法制度からすると、ディスカバリーがあるのにそれがまったく描かれずディスカバリーの手続を経ていればこういう事態が訪れるのかに疑問を感じ、ちょっと首をひねる場面もありました。
 そういう部分をとりあえず無視すれば、リーガルサスペンスとしての読み味はいい。これ1作で判断するのはちょっと早計な感じはしますが、展開のテンポのよさと主人公が危険にさらされる度合いとかからはスティーヴ・マルティニっぽい作風かなと思えます。日本語訳がもう1作品あるようですので、ちょっと期待してみたいと思います。


原題:THE LINCOLN LAWYER
マイクル・コナリー 訳:古沢嘉通
講談社文庫 2009年6月12日発行 (原書は2005年)
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