中学時代から絶対の全国一の天才プレーヤー遊佐賢人と高校から遊佐を支えるダブルスパートナーとなった横川祐介、遊佐らの1学年下で中学時代はそこそこの戦績にとどまっていたが横浜湊高校にスカウトされてぐんぐん伸びて行く水嶋亮とその同期生の双子ダブルスコンビ東山太一と陽次の東山ツインズ、水嶋のダブルスパートナーとなる榊翔平、海外帰りの一匹狼松田航輝、参謀格の内田輝らの横浜港高校時代とその前後を描いた青春バドミントン小説。
なんといっても最近までマイナースポーツだった男子バドミントンの世界を描いた数少ない作品なので、その存在を知り、一気読みしました。
「ラブオールプレイ」(1巻:本にはどこにも巻数表示はないのですが、便宜上)は、水嶋亮を主体に水嶋亮の中3の終わりから高3まで(遊佐と横川の高1の終わりから大学1年まで)を、「ラブオールプレー 風の生まれる場所」(2巻)は遊佐賢人を主体に中3の終わりから大学3年の初めまで(水嶋らの大学2年初めまで)、「ラブオールプレー 夢をつなぐ風になれ」(3巻)は横川祐介を主体に大学3年の初めから4年の終わり(実業団内定後)までとそれ以前のエピソードを、「ラブオールプレー 君は輝く!」(4巻)は第1章が松田航輝、第2章が水嶋の中学時代の親友中野静雄の恵那山高校でのダブルスパートナー拓斗、第3章が東山ツインズ、第4章が水嶋の中学高校時代のライバルで大学でダブルスパートナーとなる岬省吾がそれぞれ主体の短編集となっています。
天才プレーヤー遊佐賢人は、やっぱり桃田賢斗がモデル、なんでしょうね。初版の1巻が2011年4月に刊行されていることを考えると執筆時にはまだ高校1年生だった桃田を世界的なプレーヤーになると見いだしたとすると、作者はかなりのバドミントン通ということでしょうか。天才ではないけれども見いだされて無限に強くなっていく水嶋亮のモデルは、作者の年齢が公表されていないのでわかりませんが、私の世代だったら、「エースをねらえ!」の岡ひろみでしょうか。読んでいるとそんなイメージを持ってしまったのですが。
試合でのゲームの展開やプレーヤーの心理等はそれなりに書き込まれているのですが、ラリーの具体的な展開や狙い、駆け引きなどを描写した場面がなく、競技経験者には少し物足りない感じもあります。もっとも、マイナースポーツだけに、あまり詳しく描写されてもほとんどの読者がついて来れないということでそうしているのかもしれませんが。
作者の競技経験については、わかりませんが、遊佐とのシングルスの決戦の際に先輩から遊佐が右膝に爆弾を抱えていると教えられた水嶋が「覚悟を決め、俺は、27点目、遊佐さんの右膝を直接狙う」(1巻338ページ)って、いうのはどうかと思いました。私の競技経験はもう40数年前ですから的外れかも知れませんが、バドミントンで相手の右膝にダメージを与えようというなら、ネット際に落とす(右脚で前に踏み込まざるを得ない)+センターポジション以外への急な移動をせざるを得ないショット:相手がストレートのヘアピンで返してきたらクロスのネットプレー、そうでないときは相手の脇を抜くドライブでそれに飛びつかせるというあたりがふつうのプレーヤーが考える攻めじゃないでしょうか。格闘技じゃないんだから、右膝狙ってスマッシュ打ってもそれを打ち返すのは右手(右利きなら)とラケットで(トップクラスの選手がラケットも当てられないということは考えにくいですし)、膝にダメージ受けませんし、仮にシャトルが直撃してもちょっと痛って思う程度でケガするとかケガが悪くなるなんてこと考えられません(野球の硬球とは全然違いますので)。ちょっとこの記述を見ると作者は競技経験がないのかなと思ってしまいます。
4巻第1章で松田は横浜湊高校での初めてのランキング戦で水嶋に負けたと書いています(4巻13ページ)。しかし、1巻では、水嶋が、初めてのランキング戦で松田は5位、水嶋は9位だった(1巻97ページ)、高1の11月時点の記述で、水嶋は松田には「初めの頃はまったく歯が立たなかったけれども、最近は校内の試合では五分五分になっていた」(1巻198ページ)とされています。また4巻第3章では、水嶋・東山ツインズらの高3のインターハイが青森で行われています(4巻171ページ)が、それは岩手だったはず(1巻346ページ、2巻99ページ等)。実際のインターハイの開催地は沖縄・糸満市(2010年)の次は青森・弘前市(2011年)なんですが、それに合わせて修正するのなら、新装版で「加筆・修正」する際に1巻・2巻の記述を修正して、ついでに沖縄の前が京都(1巻138ページ。土産は生八つ橋:1巻140ページ)というのも大阪市(2009年)に修正すべきでしょう。
数少ないバドミントン小説ですし、陰湿なところ、重苦しいところがほとんど(まったくといってよいかも)なく、気持ちよく読めるという点では、バドミントンファンには貴重な作品だと思います。
小瀬木麻美 ポプラ文庫ピュアフル
「ラブオールプレー」(1巻)2021年8月25日発行(初版は2011年4月)
「ラブオールプレー 風の生まれる場所」(2巻)2021年10月5日発行(初版は2012年3月)
「ラブオールプレー 夢をつなぐ風になれ」(3巻)2021年11月5日発行(初版は2013年4月)
「ラブオールプレー 君は輝く!」(4巻)2021年12月5日発行(初版は2014年2月)