伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

老年看護学講義ノート

2021-09-30 23:38:55 | 実用書・ビジネス書
 高齢者に対する看護を学ぶ看護学生用の教科書。
 高齢者への接し方として、相手のライフヒストリーへの尊敬、どのような人生を送ってきたのかを考えること、その人の生活習慣や価値観の尊重を挙げ、高齢者の生命力や潜在力に関心を向けてその人の持てる力を引き出しながら、1日の終わりには今日はこんなよいことがあったと安堵できるような看護をすることを求めています(27~28ページ)。言うは易く、という面はあるかも知れませんが、こういうものを目にするたびに医療関係者に頭が下がる思いをするこの頃です。
 老化に伴う変化の説明では、皮膚が薄くなり傷つきやすくなる(42~44ページ)というのは実感します。若い頃は感じないですが、老化と新型コロナウィルスをめぐるご時世から、皮膚のバリア機能の重要性がしみじみと感じられるようになりました。
 老化によって心身が衰えた状態を意味する「フレイル」(定義では「高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態」って、おどろおどろしい…)の診断基準に「6か月で2~3kg以上の体重減少がある」という項目があるそうです(36~37ページ)。コロナ体制後、毎日体重(と体温と血圧)を測定しているのですが、1~3月に比べて8月は3kgくらい減少していて…まぁ9月半ば以降1kgくらい増えているので単なる夏痩せかとも思いますが。
 高齢者は寝たきりになると1週間で筋力が15~20%低下するって(77ページ)、高齢者にとってはベッドは宇宙空間より危険ということでしょうか。
 看護をする側からだけでなく、高齢になり看護されるかも知れない側からもいろいろ勉強になる本です。


小山千加代編著 編集工房球 2020年10月6日発行
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やさしくなれる認知症の在宅介護

2021-09-29 20:21:49 | 実用書・ビジネス書
 認知症患者の症状を理解するとともに、介護者が自分を追い込まないようにして、介護する人にもされる人にも優しい認知症の介護をと勧める本。
 第Ⅰ章、第2章は、認知症についての説明で、これは大体どこにでも書いてある話です。第3章で、認知症患者の心情・感情に想像力を働かせて、寄り添うように対応しましょうということが説明されています。いろいろなことができなくなりわからなくなり困惑しているのは周りよりまず本人なのだから、安心させよう、笑顔で優しく接しよう(言われたことは忘れても、怒られたり優しくされたことに応じた感情は残っている。その後の関係に影響する)ということが基本で、自分の家にいるのに帰りたいと言われたら、そうか帰りたいのなら一緒に帰ろうとつきあって、周囲を回ってここが家だねと戻って来るとか、お茶でも飲みませんかと話をそらせて家のことは忘れてもらうとか(84~85ページ)、学校の宿題は済んだかと聞かれたら、今日は宿題は出てないとか話を合わせる(111~113ページ)、認知症患者は視野が狭くなっているから正面からゆっくり近づき、目を合わせ笑顔で声をかけてスキンシップを図る(105~109ページ)などのアドバイスがなされています。このあたりが一番読みどころかなと思いました。
 表紙下半分に大きく「親の介護をするなら、まず自分のことを大事にしなさい」と書かれています。また「はじめに」でも“自分が壊れてしまう”介護者が増えている、自分へのやさしさがよい介護につながるなどと述べていて、この点がこの本で言いたいことなのだろうと見えます。その点については、第4章で、デイケアやショートステイなどを利用して自分の時間を作りリフレッシュする、自分を責めない、うまくできなくて当たり前、ケア友やそれ以外の友人知人とつながり愚痴を言うなどの場を作ろうということが書かれているのですが、そう書かれていても、実行は難しいように思えますし、それだけで介護者が息抜き/リフレッシュできるのかという疑問は残ります。介護メモ(日記)作成の勧め(183~187ページ)は、弁護士的にはいいところかなとは思いますが。


板東邦秋 ワニブックスPLUS新書 2020年9月5日発行
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取締役の法律知識 [第4版]

2021-09-28 21:39:25 | Weblog
 取締役に関する法制度、取締役に就任した人が行うべき業務とその際の注意点、取締役の法的義務と責任についての考え方などを説明した本。
 会社法のさまざまな規定と判例などをコンパクトに説明しており、取締役会の運営や取締役が職務に臨む際の心得などが、やや厳しめの建前に沿ってですが、わかりやすく説明されていて、便利な本だと思います。制度関係は、どうしてもそうなりがちではありますが、同じような記述が繰り返されて退屈というか、それぞれの会社のしくみ(制度設計)でどう違うのかわかりにくいというよりも読みにくく感じます。
 日経系の出版社だからなのか、著者のスタンスなのか、判例を紹介するときの事件名で会社名を無理無理匿名にしているのが目障りです(経団連が発行している労働事件等の判例雑誌「労経速(労働経済判例速報)」もそういうスタンスで事件名がなんでも「X社事件」とかになって事件名の意味がないのと似ています)。この本では全事件で企業名を匿名にして、労経速よりも徹底しています。「光学機器会社粉飾事件」東京地裁2017年4月27日判決(11ページ、13ページ、15ページ等)とか、オリンパス粉飾事件と書くのがふつうの感覚ですし、有名な事件では企業名があれば事件をイメージできることもあって読者には親切です。コンプライアンスを強調しているのですし、企業の社会的責任や、大企業が公的な存在でもあることを考えれば、読者の便宜に反し不自然な呼び方で違和感を与えてまで企業名を隠すのはいかがなものかと思います。


中島茂 日経文庫 2021年6月23日発行(初版は1995年7月)
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裁判所と世界 アメリカ法と新しいグローバルの現実

2021-09-27 22:02:50 | 人文・社会科学系
 現役のアメリカ連邦裁判所裁判官である著者が、裁判所と政治権力(大統領)との関係、どの範囲で裁量の逸脱・無効・違法の判断ができるか、アメリカの裁判所・連邦裁判所がどのような事件で管轄を持つか、アメリカ法をどのような国際関係に適用できるか、条約や仲裁、外国裁判所の判決をアメリカの裁判所はどこまで尊重すべきかなどについて、連邦最高裁を中心とするアメリカの裁判所の判例を検討し、連邦最高裁判決における自らの少数意見を含めた自分の意見を紹介した本。
 もっぱら国内の個人の事件を扱う私にはあまり縁のない国家機関間の関係や国際的な法律関係への対応に重点が置かれ、条約によって国内法の原則が骨抜きにされかねないという問題でも州法と連邦法の関係というアメリカ特有の事情を絡めたところがあるなど、直接私の業務上使えそうな話は出てきませんが、新たな法的問題に対応する姿勢、最高裁裁判官という立場の思考パターンと考慮事項など、考え方、思考実験的な部分では好奇心をかき立てられ、刺激に富む本です。
 私の専門分野の労働事件について、アメリカでは歴史的に組織労働者(労働組合)が連邦裁判所に対して強い不信感を持っていた経緯もあり労働仲裁が幅広く行われている(237~242ページ)とされ、それについて著者は「労働法分野では、産業の安定という要請に関係した強い理由により、仲裁人に相当な権限を付与することが求められる」と評価しています(246ページ)。このあたり、日本とアメリカの事情、考え方に大きな違いがあります。そのことも初めて知ったのですが、それ以上に、この本で紹介されている事例では、「駐められていた上司の車に向かって銃を発射したとして解雇された郵便局員を復職させるとの仲裁人の判断を、裁判所は是認した」(238~239ページ)というのに驚きました。アメリカでは解雇自由の原則が幅をきかせていると言われているのですが、実務上、こういうケースでも復職させられるのかと…力になるというか、頑張らなくちゃ。
 著者は、法の支配に関して、裁判官が述べた結論に従うことが当然だとアメリカ国民が考えるようになったのは1957年に9人の黒人の子どもをアーカンソー州リトルロックの学校に入学させるという裁判所の命令を実行するためにアイゼンハワー大統領がパラシュート部隊を派遣したときからだと説明しています(366~367ページ)。法の支配も裁判制度も、当然にあり、機能するものではなく、それを守り実行していく闘いによって支えられ維持されるのだということを改めて実感します。


原題:THE COURT AND THE WORLD
スティーブン・ブライヤー 訳:大林啓吾、石新智規、樫尾洵、小林祐紀、髙橋脩一
成文堂 2021年7月4日発行(原書は2015年、2016年)
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悪魔の証明 なかったことを「なかった」と説明できるか

2021-09-26 00:24:14 | 人文・社会科学系
 やっていないことの証明について、その難しさとそれに関するレトリックを論じた本。
 証拠に基づく証明の場面ではなく、討論・論争でのテクニックというか、相手への非難というか、見せ方のような場面を想定して書かれたものです。論理学のようであり、数字(根拠不明)も使っているのですが、結局は理屈で説得しきるのではなくイメージや情緒に訴えている感じですので、私は弁護士の証明・論証にも使えるかもという期待を持って読んだのですが、そちらでは参考になりませんでした。
 冒頭に、モリカケ問題についての安倍晋三の答弁を出して、それを悪魔の証明の例としていることから、著者のスタンスは早々に読み取れます。その後も、出てくる例が、聖書にまつわる話の他は、嫌韓・嫌中、朝日新聞と立憲民主党が大嫌いということが大半で、証明の話そっちのけで、ただそういう非難をしたい、愚痴を言いたいのかなと感じます。終盤で、森友の文書廃棄を1度だけそれこそ「アリバイ」的に遠慮がちに消極評価し(152~153ページ)、実は自分は朝日新聞ファンだ(209ページ)とか、中立であるかのように言い繕おうとしていますが。


谷岡一郎 ちくま新書 2021年5月10日発行 
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我が産声を聞きに

2021-09-25 21:23:04 | 小説
 大手電機メーカーに勤める54歳の夫徳山良治が開発した技術特許の対価で東京郊外の広々としたマイホーム(2階は12畳ほどの仕事部屋と10畳ほどの寝室、子どもが使っていた部屋、1階は20畳ほどのリビングダイニングと10畳の仏間:7ページ)を得て、英会話学校の非常勤講師と個人レッスンをこなしながら優雅に暮らす47歳の元英語教師の徳山名香子が、早期癌の確定診断を受けた夫から、これを機会に自分は好きな人と暮らすと宣言されてそのまま出て行かれ、あっけにとられた後の心理と行動を描いた小説。
 20年余の夫婦生活の軽さ、人間関係の壊れやすさ、壊れた途端に生じる過去の否定的再評価が哀しいところです。夫にあっけなく去られて20年余の夫婦生活は何だったのか、あまりにも自分を軽んじていると憤る名香子自身、癌の確定診断を受けた夫の健康にはまるで関心もなく、そんな自分を娘に指摘されて初めて気がつくというありさまです。人間の性ではありますが、相手の不実を詰る前に、自分が相手を軽んじてきたから相手にも軽んじられたのではないかということに思いをはせ、自分で気づき、自戒できるようになりたいものです。たぶん、なかなか難しいとは思いますが。
 目の前の近しい人よりも犬猫の方が大事というのも、近時はありがちな哀しい関係に思えます。


白石一文 講談社 2021年7月5日発行
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スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法

2021-09-24 23:39:09 | 自然科学・工学系
 地球外での居住に向けた研究・技術開発の現状について解説する本。
 多数の人が執筆していることもあり、語る熱さやわかりやすさもさまざまです。でも、研究開発がそれなりに進んでいる領域もあるとは言え、国際協力グループの宇宙探査計画(GER)で、最終的なターゲットを有人火星探査においていることを紹介して「公開されて大きな話題となった映画『オデッセイ』の世界は、すぐ前まで来ているのです」(49ページ)というのは、ずいぶんと煽りすぎに思えます。
 無重力環境での生活で骨量が減少し筋肉も萎縮するというのはよく聞きますが、この本ではそれに加えて血液の量が減り心臓のサイズが小さくなり機能が低下する恐れ(ただし、ここは仮定形で書かれていますが:77ページ)も指摘されています。宇宙での生活には、SFや映画ではなかなか想像できない難しさがありそうです。
 宇宙では、空気や水、食料は、現地調達や完全な再生(再利用)ができない限り補給しなければいけないわけですが、ISS(国際宇宙ステーション)での空気の漏れ量は1日あたり0.363kg程度だそうです(204ページ)。だいたい300リットルくらい…多いのか少ないのか判断が付きにくいですが、そんなに頻繁に補給できない条件で、人間の生存に絶対必要なものを補給し続けないといけないのはたいへんでしょうね。ましてや距離が桁違いになる月や火星となると。


向井千秋監修・著、東京理科大学スペース・コロニー研究センター編・著
講談社ブルーバックス 2021年5月20日発行
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新聞記者が見た古代日本 発掘の現場から

2021-09-23 23:11:46 | 人文・社会科学系
 読売新聞で約20年文化財記者として過ごした著者が、古墳などの文化財の発掘や保存に関する取材の経験をまとめた本。
 高松塚古墳の壁画の劣化やミスによる損傷を隠し続け、そのために新聞社に提供した写真の撮影日を偽るなどしていた文化庁の姿勢(18~25ページ)、幕末から明治にかけて当時の知識で割り当てた古墳(天皇陵)の被葬者が疑わしくなっても間違いと思われても改めず古墳の発掘はもちろん周辺への立ち入りも拒み続ける宮内庁の姿勢(59~65ページ)など、やはり役所の姿には唖然とします。著者が読売新聞記者で役所も敵対的な態度は避けているでしょうし書く側も和らげているのだろうと思いますが、それでも、こんな様子ですから。
 古代遺跡の発掘は、それまで史実と信じられてきたことを覆して行く力を持っています。私が古代史を習った時期からはもうずいぶんと年月が経ち、いろいろな発見があって、歴史は変わってきているのですが、ふだんはそういうことを意識する機会がなく、こういう本を読むと認識を更新するよい機会になります。もっとも、新たな発見も、古代の真実が直ちに明確になることは多くないので、う~ん、と迷い、戸惑いを残すところも多いのですが。


関口和哉 雄山閣 2021年7月25日発行
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アヤとあや

2021-09-21 21:52:58 | 小説
 娘「彩」の絵が評判となっている画家東郷隆明の絵のモデルを続ける自分を特別な神秘性を持つ少女と自負する11歳の東郷亜耶が、学校での人間関係や骨折での入院、入院先で会った女性との関係などを通じて考えを変化させていく様子を描いた小説。
 自分が特別な少女という自負と、そのことへの疑いと畏怖、信じることの快感としんどさ、疲れのような心の動きを、亜耶の傲慢で人を見下した感情と強がりの中から読み取り味わうという趣向の作品なのかなと思います。
 初期設定は、亜耶の心を会話で露わにするという狙いでしょうけれども、収まりどころは早々にというか数ページのうちに見えてしまいますし、中頃に本人が説明してしまうので、中途半端感があります。
 ラストは、こうするほかないという感じではありますが、ホッとします。


渡辺優 小学館 2021年8月2日発行
「きらら」連載
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はじまりの空 新装版

2021-09-20 00:05:49 | 小説
 学園の人気者のテニス部のエース中沢真治に告られて交際中の17歳高校2年生の岡崎真菜が、姉の10歳年上の婚約者(できちゃった婚)の兄でスタイリッシュなバツイチ画廊経営者伽歩子に雇われて働く34歳の漣に惹かれていく年の差カップル恋愛小説。
 結婚披露宴の日に新婦にドタキャンされたうだつの上がらない背の高くない中年男という設定に、おじさんたちは希望を感じるかも知れませんが、背は高くないものの胸板は厚く毛深くなくて(ひげは薄い)フランス語はペラペラでと、17歳が大人への憧れを見るハードルはそれなりにあります。
 そもそも媒体がポプラ文庫ですから、想定されている読者層はおじさん側ではなく中高生・ヤング層。おじさんの願望ではなくて、夢見る高校生世代に奉仕する作品です。まぁ、そちらから見ても、学園の人気者と交際しながら、大人の経験と余裕を持つけれども紳士的にかつ自分を子ども扱いせずにいつもどうしたいか聞いてくれる男、それも洗練された魅惑的な大人の女と競合して勝負になるという設定は、願望を満足させると言えるのでしょう。それにしても、姉の婚約者の兄とは言え、17歳の娘を34歳の男と2人でパリに行かせる真菜の親の感覚もなかなかないと思うのですが。


楡井亜木子 ポプラ文庫ピュアフル 2021年5月5日発行(最初の版は2010年3月)
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